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中之条ビエンナーレに行ってきた・その5

四万温泉エリアにある旧第三小学校で展示されていたスザンヌ・ムーニーさんの作品は彼女の過去作である平面写真作品と、もみじの木を使った、空間インスタレーションだった。

アーティスト:スザンヌ・ムーニー Suzanne Mooney
展示場所:四万温泉エリア21番旧第三小学校
タイトル:別の場所 Another Place

作品のキャプションに目を移した時、最初のワンフレーズ

光は変容します。

Light transforms.

これだけで、すとんと納得して作品を見れてしまう、そんなインスタレーションだった。


中之条ビエンナーレ2023スザンヌ・ムーニー


中之条ビエンナーレ2023スザンヌ・ムーニー

会場はもともと小学校だった場所で、各教室にそれぞれのアート作品が展示されているのだが、学校の教室なので、入り口と反対側の面は大抵大きな窓があり、教室内に外の光が入ってくるようになっている。
スザンヌさんの展示した場所ももちろん窓があり光が入る構造になっているのだが、彼女は窓をカーテンで覆っていた。けれども光を塞ぐように何かテープなどで隙間を止めているわけではなく、遮光カーテンをかけているのみ。昼間ならばカーテンの隙間から光が漏れてきている状態だ。

作品のキャプションを読み終えてから、全体を見渡すと、なぜそのようなカーテンをかけ、そして隙間があったのかが理解できる。

旧第三小学校に差し込む光は、カーテンの隙間から作品のある部屋へと入り、そして外の天候と時間帯によって左右される。
あまり光が入らない日もあれば、ピカピカに外が明るいことが上部の窓とカーテン越しにも感じられる日もあるだろう。1ヶ月の展示の間に季節はどんどん秋へと進み、太陽が生み出す光の角度も少しずつ変わって行く。

中央に置かれたもみじは、真上から赤いライトでしっかりと照らされ、その光が当たっている部分だけが見事に紅葉したと見まごう色になっている。


中之条ビエンナーレ2023スザンヌ・ムーニー

私たちが物を、アートを、観ることができるのは光があるからだ。
そして光は、あらゆるシーンを強制的に作り出し見せかけることができる。
撮影現場では真夜中に昼のように見せかけるために照明部が太陽を作り昼を作り(太陽が当たっているように見える照明を当て)、止まっている電車の外からは光と影を動かすことであたかもその電車が走っているかのように照明だけで見せかけ、本当はそんなにみえないはずだけれど見えた方がそれらしく表現できるからという理由で雨やら雪やらに素晴らしい光を当て、本当はそこに水面なんて存在しないけれど透明なケースに水を張って光を当てて揺らすことであたかもそこに巨大な水面がたゆたっているかのように作る。それら全てが光である。

スザンヌさんの作品は、普段私たちが何気なくみている光が、いかにその場の印象に影響を与えているのか、そしてそれを毎日あまりにもさらりと見落としているのかを問いかけてくる。

最初に見た時に、一瞬すっかり騙されて上の部分だけが紅葉したもみじを持ってきたのだと思ってしまった私は、果たして本当に紅葉したもみじと、光で作られた紅葉は、どちらが紅葉らしいと脳が認識するのだろうかと悩んでしまった。
もしかしたら光で作り込まれた偽の紅葉の方を、私たちは美しいもみじ色だと思ってしまうのかもしれない。
外が夏の時期よりも、これから本格的に秋の気候になるにつれて、この光が作る紅葉を本物と見間違える率が上がることだろう。


中之条ビエンナーレ2023スザンヌ・ムーニー


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