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僕らが旅に出る理由

先日、二駅先の駅まで歩いてある料理屋にお昼を食べに行った。
若い夫婦がやっているのに、入った瞬間にそこにはもう家族のような距離感がある。
綺麗に片付いているというよりは、少々雑然としているのに店主夫婦が楽しく丁寧にこの店をやっている事が伝わるのだ。
こうゆうお店に出会ってしまうと、人が何かをしようとしたときに圧倒的な価値になるのは、ノウハウでも資金でもなく「人となり」でしかないと痛切に思う。食べログもトリップアドバイザーもそれはそれで頼りになるけれど、行ってみないと伝わらないことこそが価値だ。
カウンターの隅に小磯良平が描いた薬用植物の図録があって、私にはそれも嬉しい出会いだった。

「鯖は頭の方としっぽの方どちらがいいですか?」
これが値段には換算できないサービス。しかし、当の店主はそれに気がついてやっている風ではない。

美しい「焼き鯖定食」と一緒に出てきたのは小さなお皿にのった炒り豆。
「今日は節分ですから。」

そうか……明日から春

そんなお店はBGMまで良い。
とても優しい女性の声で、何となく聞いたことのある曲がカバーされている。思わず携帯の音楽検索アプリを起動して調べてしまった。
Ann sally という方の「僕らが旅に出る理由」だった。


そう、この曲の歌詞にもあるように。
私たちの人生はただただ毎日という日常が続いていく。
そして大人になればなるほど、なぜか日常が増えていく。

でもその日常の中に何かのつながりを見出したとき。
お散歩と丁寧な「焼き鯖定食」と、炒り豆と、Ann Sallyの歌声がつながって束ねられた時に、今までなかった何かが心の中にストン!と落ちて目頭が熱くなる。

そしてまた来週、私は旅に出る。
日常から脱出する旅ではなくて、日常を大切にするための旅にしよう。



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