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はかない男4〜普通か芝か〜

16年前に買った墓所は自宅から車で10分ほど、小高い丘の上にある市営の公園墓地にある。墓所使用許可証を調べると、父の区画と母の区画は番号でいうと7つ離れて、おなじ列にあった。

このどちらかに墓を建てて、どちらかは返却するつもりである。見晴らしのいいこの場所にこれから通って来るのだなとしみじみ。母の区画が少しだけ水場に近いので、そっちにしようかと妹と話していると、

少し遅れて車から降りて来た石屋のHさんが区画を見るなり

あ!

と言った。

「え?どうしたんですか?」と聞くと

普通墓所だったんですねー」と言う。

Hさんによれば、この公園墓地には「普通墓所」と「芝墓所」の2種類の区画があるそうだ。うちのは普通墓所のほうで、隣との間隔が広くて、昔ながらの背の高い縦型のお墓も建てることができる場所だそうだ。そしてそこではお墓本体の他に巻き石と言われる石の台が必要になるという。

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        ↑ここに建てる

一方、芝墓所は、外国の映画に出てくるような芝生に直接石がおける区画。そこでは墓の高さ制限があり洋墓タイプしか建てられないそうだ。高いと倒れる恐れがあるせいかもしれない。わたしが、いきなり洋墓を探していると言ったものだから「てっきり、芝墓所をお持ちかと思いました」とHさん。

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     ↑左方が普通墓所 右方が芝墓所

言われて見渡すとこのあたり、普通墓所の墓にはみな立派な高さ20センチほどのステージみたいな巻き石があって、その上に墓が設置してある。ああ、嫌な予感。これは高そうだ。

「と、いうことは・・・」とわたし。あとに続く言葉が出ない。

「まあ、普通墓所でも、巻き石を置かれない方もありますし・・・」とHさんが神妙に言う。「ですよねー」と言おうとしたら、妹がさえぎった。

「いや、それではお尻が寒いと思うわ!」

妹よ、墓にお尻があるんか。

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       ↑噂の巻き石

巻き石は35万円だという。墓本体と合わせると90万!(脱力)。やっぱり100万コースなんだなあ。16年前のわたし、なんで芝墓所を買っておかなかったんだろう。そもそも違いなんてわかっていなかった。そして墓についても、死についても、あの時は、ちゃんと考えてはいなかった。

「墓の土地を買うと長生きするんだって♪」

とうれしげに言っていた父自身も深く考えていなかったに違いない。嗚呼、このお気楽親子。タイムマシンで昔に戻って二人並べて説教したい気持ちだ。

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    ↑仏壇の水を飲む猫B こらこら

「わかりました。巻き石も買うんで、まけてー」本日2度目の値切り交渉。Hさん苦笑アゲイン。帰りに粗品のティッシュを一箱もらう。

お墓というと、怖い場所、あまり行きたくない場所というイメージだけれど、父の墓はできればそういう風にはしたくない。生者と死者が出会う場所と言ったら大げさかな。生と死の真ん中で、時には待ち合わせてお茶でも飲んでみたいよね。

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       ↑ 彩雲

翌日契約に行く。あれこれ足したり引いたりして結局88万円也。末広がりな数字なのがちょっとイラッとする。帰りにまた、Hさんからティッシュを一箱もらう。

さらに灯籠の件。墓の両側に灯籠があるのは、魂があの世から戻ってくるときに道に迷わないためだそうだ。ちゃんと「いわれ」があると納得はしたけど価格は二灯で15万円。悪いけど今回は買えそうにない。

「少しずつそろえられる人もあります」だそうだ。うん。それでいいよね。デアゴスティーニの模型みたいだけども。来年の命日かお盆の頃に、灯籠を建ててあげられるといいなと思う。それまでは、足下が暗いかもしれないけど、迷わずに帰ってきてね、お父ちゃん。

墓石も決まったので、お寺さんと相談して三回忌の法要と納骨の日程を決める。ほっとした。ずっと気になっていたから、胸のつかえがとれたような、肩の荷が下りたようなすがすがしい気持ち(「はかない男5」に続く)。

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    ↑もう、墓ない男とは言わせない。 


一週間に一度くらいの頻度で記事をアップできればと思っています。どうぞよろしくお願いします。