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徳仁親王『テムズとともに ー 英国の二年間ー』

これは、令和天皇が、プリンス・ヒロ、またはただのヒロとして、1983年から約2年間を過ごされたオックスフォード大学での珠玉の日々の記録の書です。

多感な二十代の若者が、単身で異国の地で暮らし始めるとしたら、誰だってきっと不安と期待でドキドキのことであろう。
それが、ただの若者ではなく、普段は自由に外にでられない親王なのだから、それが想像を越えた特別な時だったであろうことは、想像に難くない。

マートンカレッジでの日常生活や、友人達との語らい、十八世紀当時のテムズ川水運の実態や河川改修に関わる研究とそのための資料集め、友人達との音楽活動やテニスなどのスポーツ、英国内外への旅等が畳み掛けるように次々と語られて、
その二年間がどれだけ豊かで中身の濃いものであったかが、どのページからも伝わってくる。

お風呂のお湯が少なくて洗髪に苦労したとか、お皿洗いで洗剤を流していないのに驚いたとか、イギリスあるあるの驚き話も登場したが、親王が、洗濯やアイロンかけもご自分でなさって、楽しんでおられた事などの方が、とても微笑ましくて印象的であった。

さらには、入寮前、英語の研修のために過ごされたホール大佐邸での日々でのあれこれも興味深い。お祭りで、ウェリントンゲームという長靴蹴りのゲームに参加され、殿下の長靴が勢い余って横に飛び、塀を越えていってしまったのだとか。
そんな失敗談をさらりと楽しそうに書かれるところに、殿下のお人柄が感じられて心に残った。ひとりの二十代の若者として、日本では体験できないような経験を重ねられることをきっと心から楽しんでおられたのであろう。
その日ばかりは、ホール氏の長男も
殿下のことを慮り、プリンス・ヒロではなくただヒロと呼んでくれていたのだとか。まわりの方々のさりげない温かさも感じられた。

内側から英国を眺め、外にあって日本を見つめ直した「何ものにも代えがたい貴重な経験」であったと語られていたが、それ以上にしっくりくる言葉はみつからないのかもしれない。



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