人を見た目で判断してしまった。
#実録スナック
注)記事の中に登場するお客さんは個人特定ができない範囲で書いております。
昨夜あったこと。
12月に入ってから忘年会が多くなることから、スナックを20:00〜1:00までの営業と通常よりも1時間後ろに倒してオープンすることにした。
私がお店を構える親不孝通りは大抵0:00も回ると看板の電気は落とされ真っ暗な通りとなる。高齢のママさんが営業していたり、そもそも地域柄遅くまで飲んでいる人は少数派なのだろう。
でも、やはり遅い時間までオープンしているとポツポツと飲み足りないお客さんが足を運んでくれる。昨夜もそうだった。
0時が過ぎたあたり。ドアについた鈴の音が鳴らない程に静かにドアが開いた。物静かそうな20代中頃と思しき若い男性が少し緊張した面もちで一人お店に入ってきた。痩せ型、ジャージ姿に無精髭、整ったお顔立ち。
スナックは店内を覗ける様な窓やドアが無い店舗が多く、当然うちの店も窓が無い。外からは中の様子が見えないので、初めてのお客さんは大なり小なり少し緊張した様子で入ってくる。(同様にお店の中にいるこちらも扉が開くとどんなお客さんだろうと少し緊張をする。)
お一人様なので私と対面のカウンターをご案内をし、ご挨拶をして何を飲むかを尋ねた。その若いお客さんが口を開き、言葉を初めて発した。
驚くほどに、極度にどもっている。
顔にド緊張と書いてある。(※実際には書いてない。)
『焼酎水割り』という単語一つを言い切るのに人の何倍以上もの時間がかかりながら、一言目をやっと言い切る。
各単語の一文字目が何度も繰り返される(されてしまう)特徴的な話し方をされるお客さんだった。緊張からか姿勢は常に私に対して斜めである。
極度のどもり癖により通常の会話の50倍の時間がかかりながら会話のキャッチボールが展開されることで、1時間という滞在時間の中で交わせた情報量は私のスナック至上極端に少なかった。
彼について私が知ることができた事と言えば、出身地と職業と大学時代の専攻くらいだろうか。
いずれも興味深いご職業とご興味だったので、時間が許すならもっと話を聞いてみたいところだったが、営業時間と彼の緊張の高まりのリミットもあったことから1:00を回るあたりにお会計をして見送った。
ドアを締めながら「おやすみなさい」と声をかけると、小さな声で「おやすみなさい」と閉まりゆくドアの隙間から彼の声がかすれ消えていった。
印象的なお客さんだった。
聞き手である私も『とにかく穏やかに待ち続ける』という、自分の引き出しにはあまり無かったコミュニケーションの在り方を学ぶ夜だった。
ーーー
一晩あけた昼間に、この文章を実は書いている。実際はこんなに冷静に接客できてはいなかったと振り返る。もっと感情的だった。
スナックはお酒を提供する場所だ。良くも悪くも理性を超越する場である。楽しく飲んでくれるお客さんが大半だが、セクハラや暴言など対応に困る様なお客様も時々いる。そして時には密室に一対一で居ることが少し怖く感じるお客様もいる。
正直昨夜の若いお客さんに対しても、私は若干の怖さを感じてしまった。
飲酒、どもり癖、やや挙動不審にも思えるジェスチャー、密室に男性と一対一、深夜。これらの要素が『怖さ』を助長したと自己分析している。
昨夜の自分の感情的な反応に、自分自身かなりガッカリとした。瞬間的に人は見た目で判断してしまう事を実体験として学んだ。
夜が明けて冷静になって考えるとあの特徴的などもり癖は、吃音症かもしれないということを思い出した。吃音症は話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつと言われている。流暢に話せないことで、社会生活の中で苦労されること人が多くいる。
私はリアルに吃音症(と思しき人)と出会ったのは初めてだった。知らないと、偏見や分断を生みかねない。
●NHKバリバラ:吃音と向き合う
多様な人が共生していける寛容で優しいユーモアのある社会を目指したいと常々思ってきた。
そのために出来る限りの想像力と配慮を持って、人と関わり合おう思っている自分でも、人を見た目で判断してしまった経験だった。
だから自分にガッカリした。
まだまだ知らないことが沢山あると無知を悟った。東北の田舎町のスナックというリアルからの学びは多い。
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