通信制大学に申し込みした_学歴コンプの桜舞い散る頃に。


私が学歴というのを初めて意識したのは、約三十年近く前の春だった。
 私は高校を卒業して、超大手企業に就職した。高卒なのになんで?、
なんで大手企業に就職できたの?と不思議に思うかもしれないが、古くからある大手企業には、いまだに”高卒枠、高専枠”というのがあって、毎年2、3人は高卒、高専卒を採用していた。
 私はまったく運がよくて、その大企業の高卒枠にひっかかる事ができて、そうそうたる一流大学卒業者に混じって入社する事ができた。時はバブルのまっただなかで、高卒枠で入社した同期も30人くらいいた。

入社してからの1週間の”研修”はとっても楽しかった。なにせ昨日まで高校生だった18歳が集まっているのだから、”研修とは仕事とは”、などとまーったく考えない、高校生活の延長のようなものだった。、昼休みになればかたまっておしゃべりして、研修が終われば、ゾロゾロと連なって帰っていた。その時の私達の研修の講師は、ベテランの事務の女性社員だった。
その女性社員に、電話対応、挨拶、お茶の出し方、来客への対応をなどを、教わった。

 1週間が終わり、私達がいよいよ部署に配属になる時に、同期の高専卒の子が、
「大学卒は6月まで本社で研修だから、ぜんぜん顔を合わせないよねー」
私は「え?大学卒の人の事?大学卒は私たちと研修が違うの?」
高専卒の子は「そりゃーそうよ。大学卒は2ヶ月間本社で研修。
その後は地方の各支社に行ったり、秋頃には海外研修にいくんだよ。」

私は心底びっくりした。私が受けた”研修”とは、まったく違うじゃないか。地方や海外に”研修”でいけるなんて。会社がお金を出してくれるなんて。
 私は「ねぇねぇ、大学卒の研修ってどんな事するの?」
「んー、あんまり詳しくは知らないけど、英会話とかディスカッションとか。危機管理とかITスキルとか。外部の講師を呼んで研修してるみたい。」
 私はますますびっくりした。外部の講師を呼んで英語の研修なんて。
英会話スクールに無料に行ってるのと同じじゃないか。
私はため息とともに、実に素直に「すごいね、海外出張とか英語研修とか。いいなー。その研修って私達は受けられないの?」
 高専卒の子は、俊速の早さで「高卒は無理」。そしてきっぱりと言った。
「大学卒じゃないと絶対に無理。会社は高卒にそんな事してくれないよ。」

18歳の春、桜舞い散る頃に、私は初めて”学歴”というものを知ったのだった。

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