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ライリエルの《バター、トースト、ジャム》tete-a-tete(内緒話)〜5年越しのあの舞台から繋がる、ライナーノーツ。〜


2018年1月。
「音楽監督か…舞台には出ないだろうし、主演みんな芸能人だし…(超失礼)…A席でいいか…」
そんな気持ちでチケットを取り、初めてのKAATにて3階席後方で見た、演出谷賢一×音楽監督志磨遼平の舞台『三文オペラ』

この作品を見た時、私は何か大きな雷に打たれたような、中学生の時に初めてロックを聞いた時のような(そんな経験を20代後半になってすることになるとは)、とにかくこの舞台は、そんな自分の中での大事件となる舞台だったのでした。
※そして奇跡的偶然によりその後千秋楽をP席で観ることとなる。

(舞台そのものが本当に面白すぎて衝撃。そして、それまで舞台の中心に立つロックスターの姿に心底惚れていたはずが、それ以上に、ボロボロの乞食の姿で舞台の端に立つ音楽監督の姿に、人生史上最大に心を奪われるとは、まさか想像もしていませんでした。)

子供の頃からの自分の中の様々なピースがここでバチッとハマったかのように、この時から私は改めて演劇というものの虜になり、「舞台音楽」について、深く興味を持つように、そしていつか演劇の音楽にも関われるようになりたい、と思うようになります。


それから時を得て、ここまでのエピソードは割愛しますが(間接的に関わっていた人たちにいつか直接話したいので秘密に。)、いくつもの点が偶然繋がり、こうして舞台の音楽に関わる機会をいただけたのが、この2023年。

もあダむ旗揚げ公演『バター、トースト、ジャム』

こちらの作品の音楽を担当させていただきました。

主宰の阿久津さんはじめ、座組みのみなさん本当に素敵な方たちで。
読み合わせから稽古、小屋入りから本番と、ずっと夢を見ているような、でも確かにひとつの作品をそこで作り上げて、千秋楽のを終えたらすっと夢から覚めたような、現実に戻ったような感覚。
そんな不思議な時間を駆け抜けた、忘れられない2023年の夏でした。

改めて、仲間に迎え入れてくれた阿久津さん、そして座組みのみなさま、来てくれたお客様に心から最大限の感謝を。


そして、この演劇のために生み出した楽曲たちを、音楽作品として再構築したのが、今回リリースした『ライリエルの《バター、トースト、ジャム》』です。

イメージ写真 photo byオオハラシンイチ

▼各種プラットフォームにて音源配信中
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イメージ写真&ティザームービーのコンセプト短編小説


SNSなどで既に掲載している、今回の作品に寄せた想いも改めてこちらで。

阿久津氏の作る脚本が、紡ぐ言葉が、とても好きで、今回脚本のセリフをそのままだったり、脚本から自分が感じたことやそこから広がったイメージで紡いだ言葉を、今回の楽曲にいくつも乗せています。

※改めて、この作品は「もあダむ旗揚げ公演『バター、トースト、ジャム』」に提供した楽曲をもとに、私個人の独断のイメージで再構築した作品です。実際の演劇の感想はそのまま大切に、また別の作品としてお楽しみください。

演劇は総じて映像が残らない世界なので、観ていない人に今から「この舞台観てね」と言えないのが心底残念ですが、「今ここでしか生まれない、体験できない、そしてそのあとは跡形もなく消えてしまう」ことは、演劇の大きな魅力のひとつだとも思っています。

✳︎✳︎✳︎

前置きが長くなりましたが、ここからは舞台用に製作時のエピソードと、この音楽作品用に再構築した際のエピソードを交えて、ピックアップした楽曲のライナーノーツを記していきます。

ぜひこれを読みながら、演劇を観た人観てない人それぞれ自由に、また楽曲を聞いてみていただけたらと。


1.月のテーマ(ナオ)

舞台が始まり、不機嫌そうに舞台上に現れるナオ。
「カシャ」というスマホの音とともに、一番最初に流れる曲。
舞台仕様の楽曲に、この作品ではコーラスを追加してます。

2.大丈夫

マミが登場しカーテンを開け放つ時の曲と、その後のピリッとした展開時に流れる曲、それぞれ険悪な空気の2曲を、この作品ではひとつの楽曲に再構成。
暑さに耐えられず防音室を出て作曲作業していた時、偶然窓のカーテンを閉めた音がマイクに入ったのがきっかけで、冒頭のカーテンの音は本物。

最後の一言はふと自分の中から出てきた言葉。みんな何とか突っ張って生きてる。

3.ナオとマミ

顔合わせ&台本読み合わせの会に参加させていただいた直後、すらすらとできた3曲のうちの1曲。おそらくこれが1曲目。
まだ各役が役でもなく、初めての読み合わせのはずだったのですが、脚本の力と役者さんの力か、舞台の情景がパッと頭に浮かんだのでそのままのイメージで作曲。

この作品通しての通奏低音はチェロ。派手でなく、どこか不穏で、でも人の温もりを感じる音。それがどの曲でもずっと鳴り続けています。

4. シオリのテーマ

シオリ登場時の曲。シオリの凛とした雰囲気と、隠し持つ、自身のなさ、不安、恐れ。
彼女のテーマ楽器はフルートを選びました。
この作品では、そこに彼女の心の声である歌を乗せて。

5. オフィスのテーマ

人生で初めて作ったかもしれない「間抜け」がテーマの曲。
ステージ上での巧妙なあのオフィスの空気を補うべく、この作品ではオフィスの効果音と間抜けな歌を乗せて。

7. タロウとナオ

こちらも顔合わせ&台本読み合わせの会の直後、そのイメージのまま一番最初にできた3曲のうちの1曲。
演出や役者さんたちの演技と、この音楽のハマり具合が絶妙で、初めて芝居と合わせた時に鳥肌が立った曲その1。

ナオのテーマ楽器は、エフェクターで歪ませたハープ。本当はとても澄んでいるのに、歪ませられてしまった音。
タロウのテーマ楽器はドラム。こちらは当初からの阿久津氏アイデア。

8. 愛のテーマ

こちらは最大の難産曲。他の曲たちの中で浮くような、頭の中お花畑のハッピーな曲がテーマ。
恋をしている人間はばかですから。

当初「あのアーティストの〇〇風」をいくつか試ししっくり来ず、最終的に決まったリファレンスは毛皮のマリーズ「愛のテーマ」。
(演出家・作曲家両者とも)好きすぎるが故、死ぬほど聞いてきているこのフレーズに引っ張られすぎずに近い雰囲気を出すのが大変でした。笑

イントロの破壊力を再現すべく、でもあのフレーズとは違うものを、と多数あるライブ版音源(全部手元にある)と、「結婚式」というワードからヒントを得て、無事現在の形に。ありがとうライブ版。

メロディラインはピアノだけでなくフルートも入っているのですが、それはタロウとナオの物語の裏で、舞台上ではシオリとコウキの物語も進んでいるから。こちらは阿久津氏ディレクション。良き。

10. シオリのテーマ(コウキとサヤカ)

各人物のシオリへの想いが絡まり舞台が不穏な空気になるのに合わせ、シオリのテーマをマイナー転調した曲が流れるのですが、
今回の作品でコウキとサヤカの出番がないな(ケンジさんごめん)と思い、今回はこの曲を2人のものとして大幅アレンジ。

二人のイライラやモヤモヤは、舞台上では熱のあるセリフや淡々とした独白となるのですが、この作品ではそれをラップに。
ラップを入れるアイデアは、三文オペラ「運命の罠」(=トラップ)から拝借。

12. オフィスのテーマ(不穏)

タロウの口から「爆弾」というワードが登場してから、一気に舞台の雰囲気は変わります。
それを助長すべく、前述のゆる〜いオフィスのテーマから一転、マイナー転調してビックバンドジャズ風に。
この作品では更に緊張感を高めるために、BPMをわずかに上げて、更に転調を追加。

14. 毛布のテーマ

舞台ではシンプルな音源が採用となりましたが、今回の作品に入れたのは初期の案。
母親の記憶が、朧げにあるようなないような、それは妄想の中の声かもしれないけれど、古いフィルムの中で微かに聞こえるその声。

16. タロウの手形

タロウが手形を残すシーン。曲だけあっても何のこっちゃ(もはや効果音)なのですが、このシーンがとても好きなので何かの形で残しておきたく、
現実か妄想の中かわからない世界線で流れているラジオの音を加えて音源化しました。

17. パトカー、そして

こちらも顔合わせ&台本読み合わせの会の直後、そのイメージのまま一番最初にできた3曲のうちの1曲。
(M16と合わせて)こちらの曲が一番最後に芝居と合わさったのですが、その時が一番、鳥肌の立つ瞬間でした。

本番では基本的にどの曲も(演出上意図的に)最後までかからずブチッと切られていたので、音源では最後までぜひお楽しみください。特にこの曲の余韻。

18. 月のテーマ(エンディング)

舞台の最後はトースターの音で締まりますが、この作品では少し余韻を残して、この曲の冒頭でトースターの音が鳴り、現実に引き戻されます。

舞台の始まりで流れる、そして主要人物のナオとタロウをつなぐ曲としての「月のテーマ」をベースに、映画のエンドロールのイメージで今回の作品のために新たに書き下ろしたのがこちらの楽曲です。

演者やスタッフのクレジットの後に、空間を作り出した一人として、観客であるあなたの名前も入っている、そんなイメージです。

19. はじめるぼくら(Bonus track)

最後のこの曲は、舞台の楽曲から独立した、完全に私のイメージで書き下ろしたテーマソング的な曲。唯一の歌もの。
これも映画のエンドロール(2曲繋がるパターンの後半)のイメージです。

みんなバラバラに、どこかに行ってしまったけれど、
最後に歪んだハープとドラムがまた少しだけ重なります。

ここではないどこかの世界にきっとまだ生き続けている、二人の、そして登場人物たちみんなの、静かな幸せを願って。

ライリエルの《バター、トースト、ジャム》
▼各種プラットフォームにて音源配信中

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そしてもあダむの今後もどうぞお楽しみに。
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Photo by オオハラシンイチ

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