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マーケティングと恋愛

一般的なマーケティング手法

マーケティングの全体像は以下のような5W1Hで考えるとわかりやすいです。

  • Why: 目標。何を達成したいか。

  • What: 商品。何を売りたいか。value propositionを作ると明確になります。

  • Who: 購入者。誰に売りたいか。ペルソナを作ると明確になります。

  • When: カスタマージャーニー。顧客の状態。どの状態の顧客にどんなメッセージを伝えるか。

    • How: メッセージ内容。

    • Where: チャネル。広告やブログやSNS等、どのチャネルで伝えるか。

What:何を売り込むのか

マーケティングを計画する際はまずWhatで売り込む物の価値を明確にします。競合と異なる価値が何かを把握します。以下のような文面を作れると良いでしょう。

[ニーズ]を求める[顧客]のために、私の[商品名]は[価値]を提供する[ソリューション]です。
[競合名]とは異なり、私の[商品名]は[優位性]を持ちます。

Who:誰に売り込むか

次にWhoで売り込む相手を考えます。売り込む商品の価値を求めている相手を明確にします。ペルソナを作成して対象の目標や興味関心ごと、購入障壁等を考えます。年齢や学歴職歴、家庭での役割等も含めて具体的に考えることもあります。

When、How、Where:相手のどの段階で何を伝えるか

最後に売り込む相手の段階に応じてどのようなメッセージをどのようなチャネルで伝えるかを検討します。段階には例えば以下のようなものがあります。このカスタマージャーニーの段階は複雑に行き来します。オンラインショップで購入しようとカートに入れたのに急に興味を失ってしまうことも多いと思います。

  • Awareness(存在を知る、認識する)

  • Intent(興味を持つ)

  • Desire(欲しがる)

  • Action(購入する)

存在を知ってもらうためには広告やコンテンツマーケティングが用いられます。欲しがっている人の背中を押して購入してもらうためにはユーザーレビューを強調することがあります。実際の通販サイトの商品ページでも最初は商品の魅力を伝えて、終盤でユーザーレビューを表示することが多いと思います。
また購入者によってテレビCMがいいのかWeb広告を使うべきかインフルエンサーとのタイアップが効果的かというように訴求チャネルが異なります。

商品が違えばターゲットとなる購入者が異なります。購入者が異なればカスタマージャーニーも段階ごとの最適なメッセージも異なります。ですので他者が成功したマーケティング手法を使えば成功するというわけではないのです。

マーケティング手法を恋愛に使ってみる

Why:目標の設定

まず何を求めているかを明確にするとよいと思います。互いに尊敬して一緒に成長していけるパートナーが欲しいのか、共通の趣味を楽しめる相手が欲しいのか、クリスマスやバレンタインにデートらしいデートをしたいのか、結婚相手が欲しいのか。いつまでに交際したいのか。これらを明確にするとやるべきことが分かってきます。例えば「スノーボードを一緒に楽しめる彼女が1月までに欲しい」という目標を持つ大学生男子のA君を例に考えてみましょう。

What:何を売り込みたいか

恋愛で売り込むものは自分自身や自身と一緒に過ごすことの価値になります。Value Propositionを利用すると以下のようになるでしょうか。

スノーボードを始めてみたい女性のために、私はスノーボードに連れていって教えてあげられます。
クラスメイトの太郎くんとは異なり、私はスノーボードが上手で車を持っています。

スノーボードが上手でなくても、例えば話がうまかったり美形であったりして退屈させない自信があれば旅行中に彼女を楽しませてあげられます。ご両親が別荘を持っていればこれも訴求ポイントになるかもしれません。もし何も優位性がなかったとしたらスノーボードを練習して上達するとか、アルバイトをするとか、美容室やスポーツジムを利用して爽やかイケメンになるとかして売り込みやすくすると良いかもしれません。

Who:誰に売り込みたいか

スノーボードを一緒に楽しめる彼女が1月までに欲しい大学生男子のA君が自身を売り込む相手は例えばクラスメイトの女子でしょうか。バイト仲間やサークルの仲間でも良いと思います。
スノーボードが趣味である女性と、未経験ながらもスノーボードに興味を持ってくれそうな女性の2パターンのペルソナを考えるのが良いと思います。それぞれのタイプごとに伝えるべきメッセージが変わります。

ただし恋愛は一般的なマーケティングと異なり多数のターゲットを想定せず、実際のひとりひとりに向き合うことになりますので、一般的なペルソナとは少し異なると思います。

スノーボードを一緒に楽しめる彼女が1月までに欲しい大学生男子のA君が想定した相手を以下の2人として考えてみます。

Bさん:仲の良いクラスメイト。バレーボールサークルに所属してバーベキュー等のアウトドアが好き。スノーボードは未経験だが以前やってみたいと言っていた。その際に冗談で一緒に行こうとスノーボードの話をしたことがある。

Cさん:先週バイト先に加わった他大学に通う女性。美人。まだ挨拶程度しかできていない。他のバイト仲間の話によると大学のスノーボードサークルに所属していて年間20日間滑走するらしい。

When、How、Where:相手のどの段階でどのメッセージを伝えるか

A君が彼女を作りたいと思った際に、想定する相手には以下のようなパスを進めることになります。

  • Awareness(A君を認識する)

  • Intent(A君と付き合うことに興味を持つ)

  • Desire(A君と付き合いたいと思う)

  • Action(A君と付き合う)

スノーボード未経験のクラスメイトのBさんと、スノーボード経験者で挨拶程度しかしていないCさんでは伝えるべきメッセージが異なります。
またBさんはA君のことを認識していますが、CさんはA君についてそこまで多くを知りません。なのでCさんについてはまずA君を認識してもらうところから始めなくてはなりません。

Bさんの場合

Bさんにはスノーボードに行ったという話やお土産を渡すのが良いと思います。未経験ですがスノーボードに興味があるBさんは話に食いついてくるかもしれません。動画を見せたり温泉の話をしてスノーボードの魅力を伝え、車があるから連れてって教えてあげられることをそれとなく伝えると良いでしょう。
最初はクラスメイト数人でスノーボードに行くのが良いかもしれません。一緒に行く相手を選ぶのは大事です。Bさんよりも家が遠いクラスメイトを誘うことで、Bさんを最初にピックアップするようにするのは良いかもしれません。BさんはAwareness、Intent、Desireのステージを行ったり来たりしながらA君と付き合いたいと思ってくれるかもしれません。

Cさんの場合

Cさんと付き合いたい場合、A君はまず自身を認識してもらうところから始めます。Cさんは美人で職場でも人気が高いので交際するのは難しそうです。もしA君が圧倒的なルックスや財力や良い大学に行っているなどのステータスがあれば正攻法で距離を縮めることができるかもしれません。
そうでなければ身だしなみを整えたり、仲間をフォローしたりして良い印象を盛ってもらうような工夫をするとよいかもしれません。爽やかに挨拶できると良いですね。
ある程度親しくなったところでスノーボードの話をするのもよいでしょう。同じ趣味を持っていると話が弾むのでバイト仲間に対して優位性を持つことができます。ただしCさんはスノーボードサークルに所属しているので、そのサークルの男子たちは手強い競合になるでしょう。彼らよりも高い技術をみにつけてアピールするか、他に一致する趣味を見つけてその話をするなどのメッセージを発信することになると思います。

このように恋愛で自分が何をしたいか、自分の長所は何か、どのような相手を想定するかで行動が変わります。また恋愛感情も購買感情も複雑ですから迷い悩み行ったり来たりして単純にはいかないと思います。でもその複雑なプロセスをドキドキしながら楽しめると良いと思います。

恋愛工学が何故効率的にも良くないか

試行回数と成功率のように単純化する恋愛工学は一部の圧倒的な恋愛強者以外には非効率な手法となります。これはデーティングアプリで見つけた相手に片っ端から同じ文面のメッセージを送り続けるような作業の非効率とよく似ています。

また、知り合ってからデートして付き合うという遷移を一方向的なものと考えている方もいるようです。しかし人の心理状態は複雑で親密度は上がったり下がったりを繰り返します。2回デートできたからといってその段階をクリアしたというわけではなく、それ以降デートに容易に応じてくれるというわけでもありません。

恋愛は個人間の親密で複雑なコミュニケーションですので、都度きめ細かな対応を要することが多々あると思います。段階を線形的に転換でき同手法で多数相手にスケールできるという前提に基づく恋愛工学はごく一部の恋愛強者を除くと倫理でなく効率的にも非効率です。

クリスマスですし、自分の気持ちと相手の気持ちを大事にした良い恋愛をしてみてください。

※この記事は、人文学系な人たちと、その周辺 Advent Calendar 2021の記事として書きました。

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