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【エッセイ】血が騒ぐ

「やったー、やっと献血ができる!」と私の血は騒いでいる。

400㎖の献血は、前回から16週間あけないとできない。16週間あけても、400㎖の献血は年に2回しかできない。ということで、今日は今年1回目の待ちに待った献血の日。

献血するときは「有楽町献血ルーム」へ行くことにしている。JR有楽町駅に程近い「東京交通会館」の6階にある。

平日の昼過ぎなのに、献血しようとする人の列が、献血ルームの外まで続いていた。10分近く待って、私の番がきた。献血カードを差し出し、受付を済ませる。

待合室へ行くと、30人は座っている。40代、50代が多いが、20代前半もけっこう多い。飲み物の自動販売機が3台置かれている。献血前は水分補給が大切。無料で何杯でも飲むことができる。

2年前、外出自粛要請が出ていたころ、「献血へのご協力は不要不急の外出にあたりません」という記事を見た。背中を押されて、ここを訪れたら、座っていたのは5人だけ。だから今日の盛況ぶりを見ると嬉しくなる。

私の番号を呼ぶ声が聞こえた。健康状態について詳しく質問される。直近の睡眠時間について、治療中の病気や飲んでいる薬について、新型コロナワクチンを接種した場合は、いつ、どのメーカーだったか。海外から帰国して4週間以内だったり、歯科治療を3日以内に受けたりしても献血できない。以前、歯石を取ってもらった帰りに献血しようとして、断られたことがあった。安全のために厳しい基準がある。

体重だけは、口頭ではなくテンキーで答える。ここでいつも思い出すことがある。数年前、友人とランチしていて、これから献血に行こう、という話になり、一緒に訪れたことがあった。しかし彼女の体重は39キロしかなかった。女性は40キロ以上ないとできない。400㎖の献血をする場合は、50キロ以上必要となる。私は彼女の前で400㎖の献血をした。あのときだけは、彼女より太っていることが、少しだけ誇らしく感じた。

次に血圧測定、問診、血液検査を受ける。その結果、今日も献血の基準を満たしていた。

いよいよ、献血が始まる。ベッドに上がって左腕を出す。すると看護師さんが何度も丁寧に消毒をして、少し太めの針を……刺した。思ったよりは痛くない。

私の血液が管を通って機械に吸い込まれていく。血液を見送る。

「誰かを元気にするために、頑張って働くんだぞ~!」

定期的に献血するようになったのは、私の手術のために血液を準備してもらうことがあったから。10年前、子宮の入口に腫瘍が見つかった。幸いなことに悪性ではなかったが、子宮頸がんに変わる可能性がゼロではなかったので、切除することになった。簡単な手術だと聞いていたのに、執刀医は言った。

「念のため輸血の準備はしておきます」

幸いにもお世話になることはなかった。しかし、誰かが献血してくれた貴重な血液を、私のために確保し、病院に運んでくれたのだ。これからは定期的に献血しようと思った。

400㎖の献血は15分で終わった。ベッドから降りると、看護師さんがうるさいくらいに心配してくれる。

「この場で足踏みしてください、フラフラしませんか? 20分は休憩してからお帰りください。駅のホームで電車を待つときは、線路の近くに立たないでください。ふらついて、転落しないとも限りません。お気をつけて」

待合室に戻ると、スタッフがアイスクリーム用のスプーンをくれた。窓際の席に座ると、眼下には走り抜ける新幹線が見える。この席でアイスクリームを食べるのが好きだ。献血ルームは都内に12ヵ所あるが、ここ有楽町に通い続けるのは、この場所が気に入っているから。

献血後も水分補給は大切。野菜ジュースを飲んでいると、スタッフが今日もプレゼントを持ってきてくれた。お菓子の詰め合わせだ。献血10回目の節目には、ガラス製の盃をもらった。プレゼントがほしくて献血しているわけではないが、もらうと、やはり嬉しい!

有楽町といえば、全国のアンテナショップが軒を連ねる人気スポット。北海道や沖縄の特産品を横目で見ながら、今日の私はおとなしく、ふらつきに気をつけて帰路につく。

 

献血は69歳までできる。ただし、60歳から64歳の間に献血したことがある人に限られる。だから、

「まずは64歳まで、その次は69歳まで健康を保ち続けたい!」と私のB型の血は騒ぐのだった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました m(__)m あなたの大切な時間を私の記事を読むために使ってくださったこと、本当に嬉しく有難く思っています。 また読んでいただけるように書き続けたいと思います。