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第4章-2 (#21) 星ケ丘駅[小説]34年の距離感 - 別離編 -
こんなことで連絡したら、浩緋にウザイと思われそうで、ずっと我慢していた。親友の浩緋にさえ、勇気をふり絞らなきゃ電話ひとつできない。浩緋は、朔玖と同じ町まで電車通学をしている。言語聴覚士になりたいと、遠くても福祉科のある高校を選んだからだ。浩緋なら、朔玖の様子を知っているかもしれない。
星ケ丘駅で電車が到着するのを待っている。5時14分着。後2分か。秒針がカチカチと時を刻む速度を、とうとう胸の
第4章-1 (#20) 逢いたい[小説]34年の距離感 - 別離編 -
才女で清楚なお嬢様。星ケ丘女子高の生徒は男子の憧れ。高嶺の花。制服のセーラーの襟に付いている星は、星ケ丘女子伝統のステイタス。入学して2ヶ月。すでにこの学校の古くからのイメージに辟易している。
「先生。うちの親は勉強できるとかえって迷惑だって言ってる。進学させる気はない。星ケ丘女子でがんばって勉強したって無駄なんだよ」
「星ケ丘南じゃ、ぶっちぎりの一番です。なんでこんなに優秀なのにって、周り
第3章-7 (#19) エール[小説]34年の距離感 - 別離編 -
和乃に許してもらうことばかり考えるようになった。謝ったくらいで解決できる問題じゃない。悩んでも悩んでも、行き着く答えはいつも同じ。サクヲアキラメル。その一方で、心が割れるように叫び続ける。朔玖が好き。好き。好き。
高校受験の私立組は一足先に進路が決定し、県立組との空気感は真っ二つに割れていた。進路が決定している美琴は、県立組の焦りなんておかまいなし。後ろから背中を突っついてくる。
「月桜。
第3章-6 (#18) ささやかな復讐[小説]34年の距離感 - 別離編 -
翌朝、学校に行くまでは、恋のライバル宣言を、和乃は真っ正面から受け止めてくれたと思い込んでいた。公言=フェア=正義だと信じて疑わなかった。
昼休みに和乃から渡されたメモの切れ端には、まったく想像もしていなかった強い怒りのメッセージが記されていた。
“朔玖が誰を好きかなんてわからないよね?
わたしが朔玖を好きだなんてわからないよね?
勝手に決めつけないで!
月桜のこと許せない!
月
第3章-5 (#17) 宣戦布告[小説]34年の距離感 - 別離編 -
話に夢中でぜんぜん気づかなかった。和乃、いつからそこにいたの? 今の話、聞いてた? 朔玖が好きだって。告白したいって。どうしよう。和乃に知られてしまった!
わたしたちに追いついた和乃は、追い抜いて帰ることもできずに、角の酒屋の物陰に隠れていたらしい。浩緋と別れて、同じ道に向かう和乃とふたりで歩いていた。
和乃にだけは知られたくなかった。長濱くんの悲しい思い出が、浮かんでは消え、浮かんでは
第3章-4 (#16) このままでいいの?[小説]34年の距離感 - 別離編 -
3学期。これが中学最後の席替え。朔玖は窓際の一番後ろ。わたしはその前の前。
くじ運がいいのか悪いのか? 朝学習のプリントは、一番後ろの人が列ごとに回収することになっているから、毎朝必ず朔玖にプリントを渡すことになる。たかが紙っぺら一枚渡すだけなのに。このぎこちなさたるや。これじゃまるで、毎朝クラスメイトに「朔玖が好きです」って公言しているみたいだ。
朔玖とわたしの間に座っている美琴に、毎
第3章-3 (#15) 一枚の年賀状[小説]34年の距離感 - 別離編 -
朔玖との距離は縮められないまま、冬休みを迎えていた。受験用の問題集に手をつけてみるも、まったく身が入らない。だって、正直、呑気で申し訳ないくらいに落ちる気はしない。
避けられてるのかな?
嫌われてるのかな?
朔玖の気持ちを確かめたい……
そうだ!
いいこと思いついた!
年賀状だ!
でも……朔玖はどう思うかな?
怖い。怖い。怖いけど、朔玖の年賀状がほしい。どうしてもほしい。
第3章-2 (#14) リベンジ合唱コンクール[小説]34年の距離感 - 別離編 -
どの教室からも、合唱コンクールの歌声が響き渡っている。わたしたち7組にとっては、昨年惜しくも準優勝に終わった雪辱のリベンジコンクールだ。
本番まで残り日数が半分を切った。連日の練習で疲れも不満も溜まる頃だ。波長が合わない。声が出ない。リベンジだと意気込んでいたはずの合唱コンクールは、いつのまにかただ歌わされている人たちの集まりになっていた。
指揮者の湯浅とピアノの智奏が顔を見合わせて頷く
第3章-1 (#13) 避けられてる[小説]34年の距離感 - 別離編 -
夏休み明けの教室は、どこかピリピリとした空気が流れている。部活を引退した中3生は、行き先もわからないまま、受験という名のベルトコンベアに乗せられて運ばれていく。
「おはよう」
「おはよう」
あいさつは返してくれたものの、まともに顔を合わせることもなく、朔玖はそそくさと行ってしまった。なんか変! わたし朔玖に避けられてる?
教室のピリピリ感が、より一層この不安と疑いを増幅させる。日を追う
第2章-6 (#12) 世界線[小説]34年の距離感 - 別離編 -
まるで何もなかったかのように日常は続いていく。あれ以来、朔玖の気持ちに触れることはなかった。わたしたちは、何も知らない、何も聞かない世界線にいる。いや、何も変わらない同じ世界線にいるふりをしている。
朔玖に逢えることが嬉しくて。朔玖と話せたらもっと嬉しくて。学校に行きたくない。そう思う日があっても、朔玖に逢えるからがんばれる。朔玖に逢えるだけでエネルギーがチャージされていく。朔玖が好き。大好
第2章-5 (#11) 幽霊じゃないよね?[小説]34年の距離感 - 別離編 -
いつなら朔玖に話しかけられるだろうか? 朝からずっとタイミングを見計らっている。昨夜、何度も朔玖に電話しようとしたけど、どうしても最後まで番号が押せなかった。ひとりリベンジは、無情にも昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り始め、放課後までのタイムリミットとの闘いに変わっていた。
5時間目は、厳しくて有名な担任の理科だ。すっかりと担任に洗脳され切ったわたしたちは、それが厳しいかどうかなんて麻痺し
第2章-4 (#10) 透明な壁[小説]34年の距離感 - 別離編 -
「俺、死んじゃいたい」
朔玖の呟きが、透明な壁を突き破って不意打ちに飛んできた。幽霊の話なんかしていたからかな? 思わず口から溢れてしまった。気づいたときには言葉にしてしまった。そんなふうに見えた。
朔玖がいなくなったらわたし困るよ。毎日朔玖に逢えることが嬉しくて。それを支えに学校に来てるんだから。好きな人が死にたいくらい思い悩んでいるというのに、最初に浮かんできたのは「わたし困る」だよ。
第2章-3 (#9) ふたりきりの教室[小説]34年の距離感 - 別離編 -
任意という名の強制加入である部活動は、運動が苦手なわたしには毎日が拷問みたいなものだ。引退まで後3ヶ月。なんとかのらりくらりやり過ごしたい。学級新聞を作るという大義名分を使っては、放課後にひとり教室に残っていた。廊下では数名の男子がうだついている。きっと同じように部活に行きたくないのだろう。
その中に、同じクラスの男子は朔玖しかいなかった。クラスメイトが他に誰もいないからか、朔玖が教室に入っ
第2章-2 (#8) 学級委員[小説]34年の距離感 - 別離編 -
藤堂のことは、黒崎に頼んで断ってもらった。あれから藤堂とは一気に気まずくなってしまった。どうしても意識してしまう。藤堂の顔を見るたびに、罪悪感でいっぱいになる。
藤堂のことがあって、今年は学級委員を降りてよかったと、心からほっとしていた。今思うと、ほんとは藤堂のせいにしたかっただけかもしれない。
3年生になると、みんな嫌でも高校受験を意識する。○○委員長や○○部長になると内申書が有利にな
第2章-1 (#7) 恋の認識[小説]34年の距離感 - 別離編 -
あのときから朔玖のことは、密かにずっと気になっていた。あれ以来一度も、朔玖が長濱くんのことを口にすることはなかった。半年が過ぎ、わたしたちは3年生になっていた。
「帰りの会が終わったら、4階の踊り場まで来て」
斜め後ろの席から、一瞬の隙をついて、朔玖がこそっと耳打ちしてきた。なんだろう? 誰もいないところにわざわざ呼び出すなんて。
今日は土曜日だから授業は半日だ。ほとんどの生徒は、お弁
第1章-6 (#6) 月桜がいなかったら…[小説]34年の距離感 - 別離編 -
「長濱くんを取らないで」
幸冬の気迫に押され、わたしはそこに立ち竦んだ。昼間でも薄暗い裏山は、もうすっかり夕闇に飲まれ、嫉妬に揺らめく幸冬の輪郭を一層際立たせている。塾の近くには、山際に建設中の病院に続く工事車両が通る砂利道があった。わたしは幸冬に、その砂利道を少し入ったところに呼び出されていた。
幸冬はポケットにカッターを忍ばせているかもしれない。頬を切られる映像が、まるで映画の予告のよ