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本当に辛い時悲しい物語に心を救われた話

人は誰しも悲しくなったり落ち込んだり傷ついたりした時、コメディ作品やお笑い芸人のネタといった明るく笑顔になれるコンテンツで慰められることはよくあるかと思います。ですが私はそうした類のコンテンツからではないもの、つまりはその対極にある決して明るくはない作品を観たことで慰められた経験があります。同様の経験をされたことのある方というのもそれなりにいるとは思いますが、自分にとってこの経験はとても意味のあるものであったと捉えているので、今回は思い切ってそれを書き記すことにしました。
※前半の6割はその作品を観るに至った経緯をつらつら書いています。核心の部分のみ読みたい方は写真以降の文章をお読みください。

ある日私がSNSをなんとなく眺めていると、とある知らせを受けて多くの人々の歓喜に満ちている様子を目にしました。その知らせとはミュージカル「エリザベート」再演の知らせ。えっとても面白そう。なんか心惹かれる。私も一度観てみたい。なぜかこの時直感でこう思っていました。実のところエリザベートとはどんなストーリーであるか、どんなキャストが演じるのか(自身が応援するSixTONESの京本さんが以前出演されていることだけは知っていました。今回も続投します。)、会場はどこなのかさえ何も知らない状況だったけれども、です。ましてやその当時の私は精神的にも肉体的にも参っている時期でまさに絵に描いたような抜け殻状態でした。そんな最中にも関わらずなんとなく漠然と、しかし観てみたいという確固たる強い欲求が私の心に芽生え、渦巻いていたのです。

そんなわけでエリザベートを観劇すべく早速欲の赴くままにチケットの入手方法を調べてみると、初心者の私には想像以上に複雑で難しい。それにエリザベートは日本で一番チケットの取れないミュージカルの一つと言われているくらい人気な演目であること、すなわちエリザベートのチケットは言わずと知れたプラチナチケットであることも同時に知りました。これじゃ私が観劇することなんて到底無理じゃん。早々にこのような考えに至った私は、この時点で完全にエリザベート観劇を断念しました。

それから月日は流れてエリザベート初日が近づいてきたある日、SNSでのある知人の投稿を目にします。それはエリザベートのチケットの譲り先を探しているというものでした。こんなチャンスまたとない!即座にその知人に連絡をとりました。しかし残念ながらそのチケットはタッチの差で他の人に譲ることが決まってしまったと彼女に言われてしまいます。やっぱりそうだよな……人気作品だもんな……。一筋差し込んだ光も一瞬でまた消え去っていきました。二度目の諦めタイムです。

ところがその数日後、その知人から連絡がありました。何があったのかと文面をみてみると、先日とは違う日程だけどエリザベートのチケットを譲りたいという内容でした。嘘でしょ!?やった!しかも先日のより良い席のチケットだ!これはもう神様が私に行ってこいと言っているようなものじゃないか!!こうして念願のエリザベート観劇が決定しました。

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(初観劇の記念に撮った写真。今見ても当時の思い出が鮮明に蘇ります。帝国劇場の絨毯ふわふわ〜!!)

ここからが観劇の感想です。とにかくすべてが美しい!素直にそう思いました。終始美しさに圧倒されていました。もちろん衣装や装飾は美しいし、キャストも美形の方ばかりです。でもそれだけではない、とにかく私がいたこの空間にあるものすべてが美しかったのです。エリザベートのストーリーは明るさ爽やかさが溢れた美しいものではなく、むしろ最初から最後までずっと死の影が付き纏う暗い話になっています。何せ最初のナンバーが我ら息絶えし者どもですからね。そもそも皆死んでいるところから物語はじまりますしね。幸せそうな役柄ほとんどいませんからね。とうとう最後まで明るい場面はほとんどありません。しかし、そんなミュージカルエリザベートが放つこの仄暗い空気をなぜかとても美しいと感じたのです。具体的にでは何が美しかったのか説明しろと言われるととても難しいのですが、しいて言うならば、苦しく悲しい運命に翻弄されながらもステージ上に息づく登場人物たちの魂を美しいと感じたのかもしれません。観劇中に湧いてきた感情は美しいだけではありませんでした。当時の私にはこの仄暗さがなんとも心地よかったのです。別にストーリーや登場人物に共感しているわけではありません。感情移入も特別していなかったはずです。なのにエリザベートという世界観を劇場で浴びている今この瞬間、ただ肩の力が抜けた自分でいられるような気がして心地よかったのです。
エリザベートが終演し、帝国劇場を後していると、今度はなんだか心が軽くなったような感覚がありました。またいくらか気持ちが前向きになっている気もしました。別段ミュージカルエリザベートから励まさせたわけでも勇気をもらったわけでもないのですが、とにかく軽やかな気分になっていました。そこでふと感じたのです。明るく笑顔溢れるコンテンツはその溌剌としたパワーを使い、ある種力づくで観ている人の気持ちを上向かせるのに対し、暗く悲しいコンテンツはその悲しさ暗さなりに観ている人の気持ちにそっと寄り添い、自然と気持ちが上向くように彼らと一緒に並走してくれるのではないかなと。


おまけに後日談です。そんな体験をした私はまんまとエリザベートの虜になり、最終的にこの2019年版エリザベートを計4回観劇しました(チケット入手頑張りました。もちろんすべて定価で買いました。)。観劇するたび気持ちの整理がついていく自分を発見できましたし、何より観劇を重ねるごとに気持ちが前向きにポジティブになっていると肌で実感しました。改めて人の気持ちをよい方向へ導くコンテンツは陽の空気を纏ったものばかりではないのだと悟りました。

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