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金継ぎで見える景色がある。 -ayako.ceramicsインタビュー


“再発見する陶磁の魅力と素材”

このテーマでアクセサリーを作陶しているのは、ayako.ceramicsの小川文子さん。

釉薬の艶や色合いを活かすのが得意だ。

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画像:ayako.ceramics

陶芸を始めてからもう15年が経つ。
陶芸の何が彼女を魅了するのか、どうして金継ぎをはじめたのか。

1時間のインスタライブでたっぷりと話を伺った。



―いい意味で裏切られた、土の感触


そもそも陶芸との出会いは、偶然だった。


美術の学校に進学した小川さんは、専攻を決めるために彫刻や油絵、デザインといったさまざまなクラスを体験した。希望クラスを絞っていくときに「とりあえず陶芸やってみるか」とろくろ体験したのをきっかけに、彼女はその世界にハマっていく。

目で見るよりも、触ったときに土がつるつるだったんです。思っていた触り心地と違うのが印象的で、すごく驚いたのを覚えています。」

土をこねる感触はイメージ通りだったのだが、ろくろを回したときのそれは違った。小川さんのその後の道を決めた瞬間だった。



小川さんは、この感覚をとても大切にしている。

「今のあなたのとき、私はこう感じましたよ。」
そんな風に、陶芸を始めたばかりの方と最初の印象を共有できたら。それはとても素敵なことだ。

「陶芸の達人にはなれないけど、興味がある方に並行して走ることは得意だと思っています。一緒に、一歩を踏み出せる存在でありたいんです。」



―再発見する陶磁の魅力と素材感

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画像:ayako.ceramics

ayako.ceramicsでは陶磁のアクセサリーを制作している。

アクセサリーは身近なものの中でも小さい。その小ささゆえに、伝えられるものがあると小川さんは考える。


陶磁器は日常生活の中でも特に身近な存在だ。うつわが好きな人以外でも、日常生活の中で触れる機会も多い。

例えば朝起きたときに向かう洗面台。一日に必ず一度は入るトイレ。これらは陶磁器が使われている。しかしそれらを見て「つるつるな表面がきれい」「光を反射してきらきらしている」など思う場面はあまりない。

では、アクセサリーだとどうだろう。色や質感、素材感などに目を向けるのではないだろうか。

日常にありふれた存在だからこそ、改めてその魅力に気づいてほしい。そういう意味で“再発見する陶磁の魅力と素材感”というテーマを設定した。


陶磁器の魅力を伝えるために、小川さんは異素材との組み合わせを行っている。

陶磁器にガラス、陶磁器に木…というように、他の素材と組み合わせることで、陶磁器の良さが引き立つ。ガラスや木にも目がいき、素材への興味が増していく。そんな掛け算をアクセサリーで表現しているのだ。

金継ぎをはじめたのも、素材としての金継ぎに興味をもったのがきっかけだった。


―割れたことで自分だけの景色になる

「実は金継ぎの素材を漆ではなく金だと思っていたんです。陶磁器と金属との組み合わせが面白いと思い、アクセサリーに取り入れました。でも蓋を開けてみたら金属じゃなくて(笑)知れば知るほど、金継ぎへの興味は増していきました。」

取り入れたのは合成樹脂を使った簡易金継ぎ。しかしアクセサリーを手に取るお客さんに「すてきね」と褒めてもらうたびに、本物の金継ぎではないことへの葛藤があった。

漆で継ぐ金継ぎを独学で学び直した小川さんは、あるとき「金継ぎをやってみたい」と友人から話をもらう。コロナ禍ということもあり、オンライン上で金継ぎを教えた。その輪が少しずつ広がり、金継ぎワークショップを本格的に始めることとなった。


金継ぎキットに入っているのは、金継ぎの手順が記された冊子と材料、そして道具だ。

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友人に教えるときも、自分が金継ぎを練習し始めたときも、そもそも材料を探すのに苦労した。見つけても、使いきれない量しか販売していない。金継ぎ自体は面白いのに、始めるハードルが高かったのだ。だから初めて金継ぎに触れたときに「こういうのがほしかったんだ」と思うものを今、こうして作っている。

このワークショップでは限られた時間で、金継ぎの全体像を一通り体験してもらうことが目的のため、ほんもの漆に加えて合成樹脂も使うレシピを用意しました。
簡易金継ぎのスピード感と、昔ながらの金継ぎの仕上がり、それぞれのいい所を掛け合わせたちょうどハイブリッドのようなイメージです。

まずはこの本漆に加えて合成樹脂も使う方法で、金継ぎの全体像を掴んでみてください。
       -ayako.ceramics クラウドファンディングページより引用


金継ぎワークショップを始めてみて、小川さんは気づいたことがある。

「金継ぎの面白さって、自分のために時間を使うことにもあると思うんです。体験してくださった方の中には『久しぶりに一つのことに集中して無心になれました』と話す方も多いです。書道や工作の時間といった、集中できる時間が幼いころにはあったはずなのに、大人になるといつの間にか少なくなってる気がして。あえてそういった時間をつくることで、その人にとって何が心地よいのか、自分との対話の時間になるとよいと思っています。」


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自分で自分のものを直すこと。もっと大事にそのうつわを想ってもらうために、金継ぎをする。大切なうつわを割ってしまっても、むしろ割れたことで自分だけの景色になる。だって、他のところならこんな割れ方はしなかったし、金継ぎの仕方も違うから。



 ◇  ◇ ◇

自分は陶芸家であり、漆の職人ではない。
それでも小川さんはアクセサリーを、うつわを継いでいる。

うつわは、一度接着剤で継いだものは金継ぎできないとされている。断面に接着剤がついていると、うまく金継ぎできないからだ。しかし小川さんは「陶芸家だからできる金継ぎがある」という。

「学生時代に友人と『電気窯は強力な食洗機みたいだよね』と冗談で話していたことがあります。有機物は300~500度で飛ぶので、もしかすると接着剤も飛ばせるかもしれないと試してみたんです。そうしたら本当にきれいにとれて。うつわの色も変わらず、お客さんも喜んでくれました。」

現在、壊れたうつわの金継ぎの依頼を受けている小川さん。漆の職人ではない自分が金継ぎをやるのはおかしいのではないか、そう自問していた。でもそのうつわを直したときに、自分だからできた直しだと感じた。今も心に残っているエピソードだ。

こういう実験をしているときが一番楽しい。素材に対する興味も、まだまだ知らない技法や試したことのないことへの挑戦など、彼女の飽くなき探求心は止まることを知らない。まるで子どものように楽しそうに話す小川さんの顔は、きらきらと輝いていた。


自分が楽しいと思える“遊び”にどれだけ出会えているか。それが、人生の豊かさに繋がると思っています。」


これから小川さんは、うつわの制作も始めていく。実はすでに動き始めたプロジェクトがある。
きっと彼女のことだ。ごきげんに、日々陶芸と向き合いながらこれからも遊んでいくのだろう。彼女のつくったうつわでぜひともご飯を食べてみたい。


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いつかのディナー。ここに小川さんのうつわを迎える日は、そう遠くない。




<お知らせ>2月21日(日)tsumugiにて金継ぎワークショップを開催!


ayako.ceramicsの小川さんを講師に、金継ぎワークショップを行う。

オンライン参加とリアル参加の両方を用意した。リアル参加は4名までだ。申し込みはここから。一緒に自分だけの景色をつくってみよう。

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画像:ayako.ceramics


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