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椿の花が散るころ、わたしは髪を切りにいく #ぶんしょう舎 添削後加筆記事


この記事は #ぶんしょう舎 の添削チームである池田あゆ里さんからもらった、丁寧で温かなフィードバックをもとに加筆修正を行ったものだ。
何がどう変わったのかを記すために、前の記事はそのまま残すこととする。




「あ、そろそろ髪の毛切りたいな」



伸ばそうと思っていた髪の毛が肩にようやくかかり、結べる長さになったちょうどそのころ。わたしは髪を切る。

それは冬真っただ中のときもあるし、春先の温かくなるタイミングのときもある。髪の毛を切るのは、本当に気分。



でも、ひとつだけ。何か嬉しいことや乗り越えたいことがあったとき、わたしは髪の毛を切る。



 ◇ ◇ ◇


椿の花が色づくころ、門をくぐった。



松の木が出迎えてくれ、小さな庭を通り過ぎる。椿の花が赤く色づきはじめたのを横目に扉を開けると、今度はみささんの活けた季節の花がきれいに咲いていた。


ここは、美蓉屋 粧々―ソウソウ―。
わたしが髪を切ってもらっている場所。
みささんは粧々の、たったひとりの美容師だ。


通された先には、一見すると古民家には似つかないようなピアノと大きなシカのツノ、かわいいストーブに大きくてふかふかな椅子と鏡。奥にはカウンターキッチンがある。

似つかないはずのそれらは、不思議としっくりくる。みささんが「こちらへどうぞ」と椅子へ案内してくれた。


席に座るとメニューを渡される。そのときどきのおすすめの飲み物から、わたしはコーヒーを頂いた。

一口含むとふわっと広がる香りに、ほっと一息つく。人によって変えてるというBGMは耳に心地よく響き、日々の喧騒から離れた空間に肩の力がふっと抜ける。


みささんがこの場所に美容室を開いたのは、2年前の12月。それまでも別の場所で美容室を営んできた彼女は、古くて手入れの必要なこの場所で、愛情をもって時間を過ごせるようにと、想いを込めて整えた。

庭には毎回庭師が入り、季節によってその色を変える。
ぽかぽか陽気のときは縁側でお茶を飲みながら、のんびりと時間を過ごすことも多いそうだ。


シャンプーをするとき、カットするとき、終わってから。みささんとは色んな話をする。

そのとき仕事で躓いていること、うれしかったこと。
好きな雑貨のはなしや、おすすめの日用品のはなし。
気になる彼とのデートのはなし。


わたしはみささんの作る空間が、世界観が、とてもすきだ。ここにくるといつも、自分に立ち返ることができるから。

みささんの紡ぐことばや暮らし、仕事への情熱。すべてがわたしにとって眩しくて、こうありたいと願う。だから何かあるときはみささんに会いに行く。それは多分、友人とお茶しにいくときの気持ちに似ている。



椿の花が散るころ、また門をくぐる


椿の花が色づくころ「今度彼とデートするんです」とみささんに報告した。「がんばってね」そう応援してくれた彼女に無事お付き合いがスタートしたことを告げると、とても喜んでくれた。そのときの髪型は、彼にも好評だった。

今年、わたしには家族ができる。あの気になる彼だ。


随分と状況が変わってしまい、気軽にみささんに会いにいけなくなってしまったけれど。結婚の報告をしに、両親へ挨拶する前に髪を切りに行く。今度は縁側でのんびりお茶でもしながら、この1年どうだったか話したいな。


◇ ◇ ◇


ここはただの美容室じゃない。日常の中で忘れ去っていた気持ちや感覚を思い出せるような、新しく気づかせてくれるような、そんな場所。おばあちゃん家に遊びきたような落ち着く感じが、ここにはある。

わたしはここに来るたびに癒され、元気をもらう。同時に少しだけ、しゃんとした気持ちになる。


椿の花が散るころ、髪を切りにいく。嬉しい報告をたずさえて。







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