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4.据え膳食えないヘタレ罪 #絶望カプ

「うぉー! 何で繋がらねぇんだ!」

降車客一位で改札を通過、家までダッシュ。すぐに息が上がる。最近とみに体力の衰えを感じてはいたがそれにしても鈍りすぎだ。

円と約束した夜に急な残業。なんとかお役御免になって職場を出てから電話をかけ続けること十数回。メッセも送ったが繋がらないし返事もない。

残業だと伝えたとき、円は既に俺ん家の最寄駅に着いていて、買い物まで始めてくれていたから先に一人で家に行ってもらった。合鍵がポストの中にあるからと言えば「警察官としてそれってどうなの」とお叱りを受けたが、仰る通りで防犯上大変よろしくありませんので、お前は絶対真似するな。

途中連絡もできないまま現在23時。呆れて先に一人食べているだろうか。怒って帰ってしまったか。寂しくて泣いて…はないな、絶対。

部屋の灯りがもれていてホッとする。

「悪い、遅くなった!って、あれ?円?いねぇの?」

返事はない。が靴はある。安アパートに廊下なんてものはなく玄関を開ければ台所の先に見渡せる居間には。

「…寝てる?」

ベッドにもたれ掛かる後ろ姿に声をかけるが動かない。俺の呼吸はみっともないくらいゼェゼェうるさいけれど足取りだけは努めてそうっと円の向こうに回ってみる。目は閉じ、微かな寝息、僅かに上下する肩。

テレビはついたまま、ちゃぶ台にラップをかけられ待機しているメインのおかずとサブおかず。いつもより品数が多いのは暇を持て余して作りすぎた可能性大。食べずに待ってくれていたようだ。

「ごめん、遅くなった」と、揺すっても起きない。
「帰ったけど。おい」と、強めに揺するが全く起きない。
「なー、起きろー。俺、腹減ったんだけどー」そりゃ、これじゃあいくらケータイ鳴らしても気づかないわ。

「おーい、先食べるぞ…?」

ためらいつつ、彼女の顔にかかっている髪を一筋、すくって後ろに流してやる。自分の腕時計が目に入った23時20分。

このまま起きなかったら。このまま起こさなかったら。

「起こすの、わざと終電行ってからにしてやろうか」

故意?過失?確信犯?でも何罪だ?


 

「円、おい、円!起きろって!」

「ん? あ、黎……お帰り…。うわー、わたし超寝てたー」

「うん、ぐっすり寝てたぞ」

「腕、痺れてるー」

「遅くなってごめん。待たせたな、早くメシ食おうぜ。でないと終電間に合わなくなる」

「えー、もうそんな時間なのー?黎、遅いよー」

「悪い、急な取り調べが入ってさ」

「そうなの?お疲れ様。私お腹ペコペコだよー、食べよ食べよ」

「んじゃ食べたら送る」

「うん」

あー。悪事に向かない俺は根っからの正直者だ…。
この場合は据え膳……ではないよな!?

まあ、たとえこれが据え膳で、男の恥と言われても、俺は正直者であること選ぶから。褒めてよ、円。


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