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【心の栄養!ノート】映画「OPPENHEIMER (オッペンハイマー)」

映画・ドラマというのは、"他の人生"を堂々と垣間見て心を揺さぶることができる、人としての心の栄養だ。
"他の人生"とは、映画の題材となっている人物でもあるし、その映画を作った監督の視点かもしれない、またはその台本を丹精込めて作った脚本家の心かもしれない。映像として起こすために必要な物すべてだ。そして、映画は観た者の心も、反映するものだ。

ここに紡ぎ出す感想は、そんな心の反映の一つの例えに過ぎません。
映画大好きで映像業界に入った私が、映画館の暗闇の中、メモを走らせて感じ得た感想を綴っていきます。

未だに日本公開日未定の話題の映画「オッペンハイマー」。
NYに短期で戻ってきたこの機会を利用して、観劇してきました。

まだ日本で公開されていない(2023年9月17日現)ので、内容的にネタバレに限りなく近いものも含まれます。


ザックリ概要

"原爆の父"として、敬われたロバート・オッペンハイマーが、原子爆弾の実験から完成し、冷戦までを描いた作品。ヒューマンドラマ。

あらすじ

『Oppenheimer』は、アメリカの物理学者であり、原子爆弾の発明者として知られるJ.ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた映画。物語は第二次世界大戦中の1940年代から冷戦時代にかけて展開される。

アメリカ政府の要請に応じ、オッペンハイマーは核物理学の研究に従事し、マンハッタン計画と呼ばれる極秘原爆開発プロジェクトを率いる。その発明が日本に対する広島と長崎への原爆投下に繋がり、この出来事が終戦に貢献し、彼は原爆の父として敬われるようになった。しかし、同時に多くの犠牲をもたらしたことに心痛めるオッペンハイマーは、核兵器がもたらす甚大な被害を憂慮して平和利用を提唱し、核戦争の危機に立ち向かうための国際的な取り組みに参加する。しかし、彼の政治的な信念と赤狩りと呼ばれる共産主義者狩りの時代に矛盾が生じ、彼は政府による監視や訴追の対象となってしまう・・・。


出展:Deadline Sep 16th, 2023
(世界的に9億ドルの興行成績を上げた記事)


出典元:BBC - July 19th, 2023
(主演のキリアン・マーフィーの芝居を称える記事)


3つの視点での感想ー

作品を観る時は、様々な感想が交差しますが、基本的に以下のような枠組みで分けられる。
①一観劇者として : ただのファンとしての感想。
②制作者として : 映像業界に携わる身としての感想。
③当事者として : 作品内で取り上げられているテーマに該当する場合、その本人としての視点。

今回もこの3つの視点に分けて感想を綴りたいと思います。

①観劇者として

あのクリストファー・ノーランだ。
時空を飛び越え、人間界で使用している時間の概念をいじって、様々な時間軸を描くことが得意な監督。今回は、どんな風に彼の才能を拝見できるのか楽しみだったが、その点でいくと、今までの作品("メメント"、"インターステラー", "ダンケルク"等)と比較すると、時空の飛び方は控えめ。
大概の作品は、基軸となる時間設定がある。歴史ものだとしても、主人公の成長を追っかける場合は、主人公の生きている時間が観客にとっての"現在"になるけれども、ノーラン監督の場合はそうではない。
「このシーンは、"現在"なのか"過去"なのか」「はたまた今、眼の前で進行している話は、この映画の時間軸では"過去"なのか」と、また時空を操られてしまう。この時空の操りで、謎解きのような視点を抱く。
あと、need to mentionなのが、映像美だ。これは後述する原爆に対する心情とは分けている視点なのだが、科学者の頭の中、核分裂、核爆弾投下時の雲、宇宙・・・それぞれが不思議とつながり、映像が儚くも際立っている。自然を良くぞ映像の中に再現してしまっている。だからこそ、人工的なものが自然を容易にも破壊してしまう畏怖の念を抱いてしまう。
とくに今回は私はIMAXで観劇したので、原爆実験のシーンの迫力と言ったら、音で席が揺れるほどだった。実験成功の喜びの横で、この開発してしまった原爆の破壊力の高さに恐怖を抱くオッペンハイマーなのだが、その恐ろしさが伝わるほどの音の迫力だ。ぜひ、日本公開の暁にはIMAXでご覧になることをおすすめする。


②制作者として

制作者としては、まず単純に
「こういった人の心に刻まれる大作が生まれる業界で働けて嬉しい。このレベルを目指して制作を続けよう」
という、作品に対するより、自分の制作人生に対するやる気と宣言が出た。

内容だと、まずは、なんと言っても俳優陣の芝居。
オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィー。大学時代から冷戦時代までの約28年間を演じている。いや"演じている"という表現が不釣り合いなほどの芝居で、例えば、キリアンの表情に出るシワの一つ一つにオッペンハイマーが日々抱いてきた苦悩や仲間たちと共有してきた笑顔などが思い浮かぶほど、オッペンハイマーとして生きていた。冒頭は、彼が追求される公聴会のシーンなのだが、そこに出席する俳優陣は、キリアンも含めて、終始、狭い部屋で椅子に座っての芝居だ。その限られた場所での芝居。
そして、他のシーンもさすがだ。時空が飛び”現在”に戻ってきた際の、主軸となる登場人物を演じている俳優陣。ロバート・ダウニーJr (Robert Downey Jr)ジョシュ・ハートネット(Josh Hartnett)、そしてあのラミ・マレック(Rami Malek)も出ている。ロバートさんに至っては、あのアベンジャーズシリーズの力強さは内に秘め、体型をごっそりと変えている。初見では誰かわからないほど、その人物になりきっている。
ラミ・マレックが登場してくる時も、思わず「お!?ここで?」と(頭の中で)声が出る。このキャラクターにこのラミ様起用ということであれば、「今はどんなに小さい出番でも、キーキャラなんだろう」と予想できてしまう。前半はほぼ台詞がないのだが、だからこそ、この存在感はさすがとしか言いようがない。

次は、ヘアメイク。今回も、各キャラクターの表情の細部がストレートに見えるほどのクロースアップ。(* Tom Hooperほどではないが、限りなく近い)
それだけのクロースアップでも、老若を表現する役者の芝居を邪魔どころか支えているヘアメイク。全く違和感を抱かないほど自然なのだ。
オッペンハイマーの若い時代なども、もちろんそうだが公聴会のシーンでも、どちらの見た目が実際のキリアン・マーフィーに近いのかも分からなくなるほどなのだ。

制作者として、勉強になることばかりだ。当たり前だ・・・!ハリウッドが誇る超大作だわ(と突っ込んでおく)
IMAXだったので、これが通常の映画館のアスペクトになると、この上下が見えないのか・・・と想像していた。
IMAX仕様での撮影にこだわるクリストファー・ノーランは、そこには、やはり映画を映画館で楽しんでほしいという気持ちがあるそうだ。
そして、今回はモノクロのシーンもある。IMAXでの白黒フィルムは存在しなかったので、この撮影のためにその開発も行ったそうだ。
その話を撮影監督のHoyte van Hoytema (ホイテ・ヴァン・ホイテマ)が下記の動画で語っていらっしゃいます。

③当事者として

これは、この「オッペンハイマー」だけに限らず、他の映画でもそうだが、良き映画は少なからず1名ほどは共感できるような、「これは自分のことではないか」みたいな登場人物がいる。
或は、映画の題材が自分のルーツに深く直接的に関係していることもある。今回は、被爆を直接受けている訳では無いが、小学校の授業でも教育され、広島も長崎も幾度も訪れており、さらに毎年終戦記念日を意識し、そのきっかけとなった原爆投下の2日間を忘れることなく日本人として育った私は、やはり「世界で唯一の被爆国の出身」という気持ちを抱いていた。
アメリカ軍は、日本の原爆投下の目的地を17箇所にしぼっている。 途中、京都はその文化価値の観点から候補地から外されている。そのシーンも映画には取り上げられているが、日本でその当時被爆し、その後の「死の雨」「白血病」等で苦しんだ方々を想うと、込み上げてくるものがあった。

こんなにも簡単な会話で、何十万という人々の命を一瞬で亡くし、その後も長期に渡る苦しみを味わせる悲惨な作戦を、片方の視点で決めてしまうのか。

本当に人間というのは、欲が深く、愚かな者だと。
心底感じた。

この鬱憤たる想いを、開発成功に情熱を注いだオッペンハイマー個人に課せることもあるのだろう。果たしてそうなのだろうか?これは、人間そのものが、起こして悲劇なのではないだろうか。

その後、原爆投下された広島・長崎の惨状を軍施設で閲覧する際に、オッペンハイマーはその悲惨な状況に目をそらしている(その悲惨な状態そのものは映画には映されていない)
その後、トゥルーマン大統領に謁見し、直接に原爆について平和利用を提唱しているが、その際にトゥルーマン大統領の「ヒロシマに原爆を投下し・・・」という言葉を遮り、オッペンハイマーは「ナガサキ・・・ナガサキもです」と訂正を促している。さらに、オッペンハイマーが、全米を回ってスピーチを行っている際に、観客の中に被爆した身体状況になっている人(皮膚が溶けてしまっている)、まっ黒焦げの人物等の幻想を見てしまうシーンもある。
自身が成功に導いた実験が何に辿り着いてしまったのかを心底認識して苦悩している心情を描いていた。

この映画自体が、「原爆投下を美化している」「推奨している」「被害状況を描かないのはありえない」等の反対意見も上がっているそうだが、
個人的には、「原爆被害の恐ろしさを認識している現代の私達」が、特に被爆国である日本人にとって、ここまで世界に影響力を与える映画として取り上げられたことを受容し、自分たちの言葉を持ってして観劇を推奨するべきだと感じた。

まとめ

映画は、時に残酷な部分だけを切り取り、事実とは別の物語を伝えてしまうことがある。
しかし、このオッペンハイマーに関しては、
クリストファー・ノーランの手腕にかかっている信頼度は高く、それだけではなくキリアン・マーフィー等の錚々たる俳優陣によって「高度な作品」として仕上がっている。
クリストファー・ノーランの映画ファンが観劇し、原爆について今一度考え直し、その恐怖を抱くきっかけとなることを願うとともに、
今までにない映像美を体験することをおすすめしたい!
そして、早く日本公開日が決定することを祈っております。


最後までお読み頂きありがとうございます!
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