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⑧北米自動車ショー その1

(写真は クライスラー「ダッジ」の新車発表イベントでの紙吹雪 この記事は2006年2月15日に書かれたものです) 

前回のコラムでお伝えしたラスベガスで新年早々開催された世界最大の家電ショーを終え、疲弊しきった私が次に向かったのは極寒の地、デトロイト。そこには世界の自動車メーカーが集まる北米自動車ショーが待っていました。なぜデトロイトか・・・。言わずもがな。自動車の発祥の地、ビッグ3(アメリカの3大自動車メーカー)のお膝元だからです。自動車ショーの会場のすぐ目の前には世界最大の自動車メーカー、GM(ゼネラル・モーターズ)本社の高層ビルが鎮座していました。

 自動車ショーは業界関係者や一般向けの公開の前に数日間、プレス向けの公開日というのがあります。この数日間、各社はブランドごとの新型車発表を趣向を凝らしたイベントでアピールします。これは各社のカラーというのが出るようですね。(会社のその年の懐具合にもよるのでしょうが)今回、最も印象に残ったのはクライスラー系ブランドのイベントでした。クライスラーはとても派手、というよりも「型破り」という表現がぴったり。ラソーダCEOが「ジープ」の新車を発表したのですが、その直後、その新車に乗り会場を巧みに通り抜け、ガラス張りのホールの出入り口に向かい、何が起こるのかと思いきや・・・その出入り口に向かって一直線に進み、ガラスを突っ切って、割って外に出て行ったのです。映画のワンシーンさながら。そのときの写真があればお見せしたいくらいです。それはもう、ものすごい迫力で、日本では絶対ありえない演出でした。しかもそれにはCEOが乗っているんですよ・・・。CEOもさすがに「自動車メーカーの経営者はこんなこともやらなくちゃいけないんだね」と茶目っ気たっぷりでコメント。

 さらに、クライスラーのもうひとつのブランド「ダッジ」のイベントもまさに「型破り」。今、ニューヨークでも大人気の舞台「スラバ・スノーショー」という演劇をそのまま再現。舞台装置や俳優はオフ・ブロードウェイさながらでした。中でも何万、何百万という無数の紙吹雪が舞う中から新車が出てきた演出は圧巻でした。その紙吹雪たるやものすごい迫力なのです。想像を絶している、たぶんこれは体験した方でしかこのすごさはわからないかもしれませんね。(NYにお越しの際はこの舞台をご覧くださいませ)イベントをみていた私の手元のメモ帳は今にも飛ばされそうになるし、視界はゼロ。イベント会場の後方に構えていた我がカメラクルーを振り返ってもとにかく紙吹雪の嵐で何も見えない状態でした。洋服の中まで紙切れがどっさり入ってくるし、体中紙切れまみれ。カバンの中にも紙切れが積もり、足元は紙切れの山。本当の吹雪の中に埋もれたかという錯覚を起こさせるくらいでした。紙吹雪はあまりにも突然やってきたので、一瞬何がおこっているのかわからなくなったくらいです。(実は新車の印象よりもイベントの印象のほうが強かったりして・・・)

 クライスラーは実はビッグ3の中で唯一業績が好調な会社です。GM、フォードは北米での自動車販売がかなり苦戦を強いられているのですがクライスラーはヒット車をいくつか抱えていることもあり、業績不安とは無縁です。実はGM、フォードよりも一歩先に経営危機がやってきて、その時にドイツのダイムラーグループが出資し経営再建を果たした「経営危機経験企業」だったのです。今ではビッグ3の中で最も安定した経営となっています。そうした経営基盤もあって、今回の「型破り」なイベントが実施できたのかもしれませんね。

 他の企業はどうかというと経営難に陥っているGMは比較的地味でした。(当たり前かもしれませんね・・) 新車発表よりも報道陣の注目はとにかくワゴナーCEO。彼が行くところすべて黒山の人だかり。当然のことながらワゴナーCEOに直撃するべく私も突撃です。大柄なアメリカ人たちと混ざって「ぶら下がり」(注:インタビューをすることをテレビ業界ではこうよびます)をするのは容易なことではありませんでした。みんながわれ先に質問をということで押し合いへし合い、押しくら饅頭状態。私もカメラマンと共にカメラを支えつつ、片方の手ではマイクを突き出す・・・。両手両足を使わんばかりの奮闘振りは遠目からみたら、さぞ滑稽な格好だったかもしれませんね。(でもテレビ取材ってそんなものなのです・・知力より体力です!)やっとの思いで報道陣の合間をすり抜け、ようやくワゴナーCEO直撃に成功しました。ワゴナーCEOの印象は「紳士で温和」。これまでほとんどマスコミの前に姿を見せていなかったワゴナーCEOだったので、報道陣の取材過熱振りはものすごいものでした。「こんなリストラで会社は存続できると本当に思っているのか?」「経営手法が甘すぎるのではないか?」記者たちの厳しい質問が飛び交う中でも嫌な顔をまったくみせず、ひとつひとつ丁寧に答えていたその真摯な態度は好印象でした。業績が低迷し、なかなか再建策が実を結ばなくても社内外、株主たちからの人望が厚いというワゴナー氏。なんとなくわかるような気がしました。

 「不当な日本政府の為替操作によって日本メーカーが有利になっている」と伝わっていた話については「別に日本メーカーがどうのこうの、と言っているのではない。ただ世界的な競争は常にフェアであるべきだ、と言っただけだ」とワゴナー氏は強調。トヨタについては「とても素晴らしい会社だ。色々な面で見習うことも多い」と語り、「抜かされないよう1日でも早くアメリカでの販売回復を図りたい」とのことでした。

 一方、フォードは古き良きアメリカを髣髴とさせるイベント内容でした。別会場の大きなホールを借り切って花火や煙が飛び交い「どう?この車、すてきでしょ?」と言わんばかりの艶やかな演出でした。GMほどの業績悪化ぶりではないにしろ、販売が低迷しているのは事実。昔の人気スポーツ車「マスダング」の復刻版を発表し「原点に戻ろう」ムードが漂っていました。この「マスダング」の新車は足腰が強いどっしりとしたスポーツカー、といった感じ。実は自動車ショーに先駆けてアメリカのレーシング会場「ナスカー」で試乗させてもらったのです。マニュアル運転での走りはもう「快適」。重々しいスタートダッシュながらいったん走り始めると風を切る、いや風に乗って走る、そんな感覚でしたね。まあ「ナスカー」その会場で走ったことによる影響がかなり大ともいえるかもしれませんが・・・。レースコースというのはなんて走りやすいんですかね。地面が傾斜しているため、かなりのスピードを出してもカーブによる抵抗が少ないのです。また是非、走ってみたいですね。

 このほか日本メーカーのイベントについてはまた次回に、ということにしておきましょう。それにしても日本の自動車ショーと大きく違うのはコンパニオンの存在がほとんど皆無だということ。コンパニオンたちがギラギラした(コンパニオンの方々にとっては大変な努力と苦労があるとは思いますが・・・)車を見せたいのか、コンパニオンを見せたいのかよくわからない日本の自動車ショーに違和感を覚えていた私にとって、デトロイトの自動車ショーは「本当に車をじっくりみる」ことに力点を置いていて、とっても好感が持てました。

2006年2月15日 https://plaza.rakuten.co.jp/ismaririn/diary/200601160000/

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