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一期一会の乗務員 〜さだまさし『償い』〜 

※画像は、イメージです。

東京でタクシー乗務員をしております、みやびと申します。

私の勤めているタクシー会社では、月例集会といって全社員が参加するミーティングがあります。タクシー乗務は激務なので、3日に分けて各2回づつ開催されます。

今回は主に、事故の話を聞きました。

車の教習所で見るような注意喚起のスライドと、事故の時のドライブレコーダーを見たのですが、、、

一件一件、社長が被害者の容態と、加害者となってしまった乗務員の事故原因を伝えてゆきます。人を刎ねる瞬間の音と映像って、とてもショック。

衝撃的だったのは、自転車とタクシーの事故。ここ一番の大きな事故でした。

人の生き方として、私の父は「反省しても、後悔するな」と言います。

しかし… 事故は、先ずやってみよう、行動してみよう、などとは出来ません。

その、一回。

一回の重さ、、タクシー乗務員の責務とリスク。

乗務前にこの事故を見聞きし、私はその話の重さが忘れられませんでした。

なので普段よりも丁寧に安全確認し、十分な休憩を取りました。稼ぎ時の金曜日でしたけどね😆✨

この日もいつもと同様、明け方4時頃会社に戻り、アルコールチェックと納金を済ませました。

そして同期とおしゃべりしながら、洗車を始めました。

すると、前回の記事で書いた洗車の先輩(錦糸町のショート武勇伝の)が近寄ってきて、私達に話しかけてきました。

「お知らせがあります〜!洗車は、今日明日で終わりです🔚」

明るい様子で話す先輩。私は同じ笑顔で言葉を返しました。

「わぁ、いよいよ免停が終わって、乗務員に戻られるのですね?😚💕」

「違う違う、免許の取消しが決まったの。だから退職ね」

お互い笑顔が消えてしまいました。少しの沈黙を破り、私は言葉を返しました。

「…… え? 取消しって??」

「人身事故だったんだ。被害者はずっと意識不明で、後遺症も残ってしまってね」

ふと、私の頭にあの事故の映像が蘇りました。

私達タクシー乗務員は、いつ何処で、加害者になるか分かりません。

そうであっても、あの事故の加害者なんて、別の営業所の、かなり昔に起きた話だと思っていたんです。

なのに、、、
乗務を終える度、私はいつもガレージ内の洗車場に隣に車を停めています。

先輩の定位置は、ガレージ2階の洗い場です。3階にも簡単便利な洗車業者が常駐していますけど、私は自ら洗車して帰ります。

愚痴を聞いてくれる先輩の傍に車をつけて、洗車しながら仕事を教えてもらったり、同じ会社に勤める先輩達を紹介してもらうのを楽しみにしていたからです。

まさかこの人が、いつも語り合うこの先輩が、あの事故の加害者だったなんて、微塵にも思わなかったのです。

つい先日も、私が忘れて帰ってしまった仕事のフォローをしてくれた先輩。

免停中だから、深夜1時にガレージで待機して、仲間の帰りを待っていた人。丁寧に車を洗車して、皆からチップをいただく人。

誰に対しても丁寧で優しく、人望があるからこそ、皆がこの人に洗車を頼むのです。

車庫には先輩の洗車待ちの車が何台も何台も停まります。

乗務を終えて戻ってきた方々が、〇〇ちゃん今日も頼むよ!と言ってチップを渡します。他にもジュースや菓子の差し入れをしていたり。

… 皆は知っていて、先輩に救いの手を差し伸べていたんだ、、、

心は動揺しつつも洗車を終え、更衣室で着替えをし始めました。

でも、どうしようもなく悲しくて、、、若い内勤の職員がたまたま来て、落ち込んでいる私に事情を話してくれました。

「免許が無くなると、退職しなくてはならないのですか?」

「いや。ウチの会社だと、貢献してきた社員を解雇するようなことはしないですね。中(内勤)とか、今まで通り洗車とか、何か出来ることを探します。でも一番は、本人の希望に沿うように。本人の意向をよく聞きますよね」

「でも、、〇〇さん、3年足らずしか在籍してないって」

「それだけ働いていれば、十分な功労者ですよ」

前に働いていたタクシー会社なら、、、

私の起こした五分の接触事故でも、心が折れるほど責め立てられました。

人身事故で会社の損害が発生したら、責任を乗務員に押し付け、会社は逃げるでしょう。人を人と思わず、乗務員の過失だと追い込んだことでしょう。

それが業界では、かなり知られたタクシー会社なのです。

前の会社に不信を持ち、そのやり取りを録音したものが、私の手元にあります。

私はそれほど追い込まれたので、いつか、、この音声録音のやり取りと、労働者の立場で何とかかき集めた証拠を陽の当たるところにあげたいと考えていますが、、、

その詳細を書くのは、後の話にします。いつかどこかで。

この今回の事故で感じたのは、会社と人の、優しさと温かさです。

これからの乗務に不安を感じていた私に、先輩は言葉をかけてくれました。

「いい? 寝なきゃ大丈夫だよ。疲れたら、絶対に車を停めて休む! それだけで良いんだよ、、」

先輩は、どんな思いだったのでしょう。これから働く私達に、深く重い、大切な言葉を残してゆきました。

保険適用であっても、会社は本件で、総額は億を超える損害が発生しています。しかし、先輩に救いの手を差し伸べています。

先輩は、、明日の仕事を失った先輩は、これから裁判を待つ身でしょう。毎日毎日、色んな不安と戦いながら。

話の通じる仲間達と共に、働くことを選ばなかったのは何故か。

明確な発言は無かったけれど、、、先輩は恐らく償いのために、会社を去るのでしょう。周りの人の話から、私はそう感じました。

読者の皆さまは、さだまさしの『償い』と言う歌を知っていますか? 
こんな歌詞☟

♪ 月末になるとゆうちゃんは
薄い給料袋の封も切らずに
必ず横町の角にある郵便局へ
とび込んでゆくのだった

仲間はそんな彼をみて
みんな貯金が趣味のしみったれた奴だと
飲んだ勢いで嘲笑っても
ゆうちゃんはニコニコ笑うばかり

僕だけが知っているのだ
彼はここへ来る前に
たった一度だけ
たった一度だけ
哀しい誤ちを犯してしまったのだ

配達帰りの雨の夜横断歩道の人影に
ブレーキが間にあわなかった彼は
その日とても疲れてた

人殺しあんたを許さないと彼をののしった
被害者の奥さんの涙の足元で
彼はひたすら大声で泣き乍ら
ただ頭を床にこすりつけるだけだった

それから彼は人が変わった何もかも
忘れて働いて働いて
償いきれるはずもないがせめてもと
毎月あの人に仕送りをしている

今日ゆうちゃんが僕の部屋へ
泣き乍ら走り込んで来た
しゃくりあげ乍ら彼は
一通の手紙を抱きしめていた
それは事件から数えてようやく七年目に初めて
あの奥さんから初めて彼宛に届いた便り

ありがとう
あなたの優しい気持ちはとてもよくわかりました
だからどうぞ送金はやめて下さい
あなたの文字を見る度に
主人を思い出して辛いのです
あなたの気持ちはわかるけど
それよりどうかもう
あなたご自身の人生を
もとに戻してあげて欲しい

手紙の中身はどうでもよかった
それよりも償いきれるはずもないあの人から
返事が来たのがありがたくてありがたくて
ありがたくて ありがたくて ありがたくて

神様って思わず僕は叫んでいた
彼は許されたと思っていいのですか
来月も郵便局へ通うはずの
やさしい人を許してくれてありがとう

人間って哀しいねだってみんなやさしい
それが傷つけあってかばいあって
何だかもらい泣きの涙がとまらなくて
とまらなくて とまらなくて とまらなくて ♬

短い関わりでしたけど、私は一生、この先輩を忘れないようにします。悔やんでも悔やみきれぬ、仕事の責務の重さを実感しました。

交通事故に遭われた全ての被害者に、お悔やみ申し上げます。

つづく。

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