マガジンのカバー画像

読んだ本

423
読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
運営しているクリエイター

2020年11月の記事一覧

【読書】デビュー作とは思えない秀作~『食堂かたつむり』(小川糸)~

「ツバキ文具店」シリーズを読んだのをきっかけに、小川糸作品に興味を持ち、デビュー作を読んでみました。 ↑kindle版 読みながら思ったのは、「ギリギリの線だな」ということ。家に帰ったら、同棲していた恋人に家財道具一切を持ち去られており、その衝撃で声も失った主人公倫子の再生の物語なわけですが、その非現実的な始まり方に、拒否感を持つ人もいると思います。私自身、そうなった可能性は少なくありません。実際には、「え、どうなるの?」と先が気になり、読み進めましたが。ギリギリのところ

【読書】手紙が書きたくなります~『キラキラ共和国』(小川糸)~

『ツバキ文具店』の続編です。続編があるとは思っていなかったので、また『ツバキ文具店』の世界を体験でき、嬉しかったです。 ミツローさんと結婚し、QPちゃんの母となった鳩子は、QPちゃんとの暮らしを通じ、子ども時代をある意味で取り戻します。同時に、祖母である先代の当時の思いを理解し、もう一度先代に会いたいと、素直に言えるまでになるのです。 もちろん日々は穏やかなだけではなく、母であるレディ・ババの存在が鳩子の心に影を落としている上、ミツローさんとの心のすれ違いも経験します。や

【読書】真響のポイントが下がった~『RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴』(荻原規子)~

「レッドデータガール」シリーズの番外編にあたる短編3編と、表題作の中編を収めた1冊です。 ↑kindle版 短編3編は、とても面白かったです。本編の最後に主人公である泉水子の彼氏になる深行の視点で書かれていて、当時の深行が考えていたことなどが分かり、本編にちょっと厚みをもたらす効果があったかと思います。 でも表題作の「氷の靴 ガラスの靴」は、若干なんだかなという感じでした。泉水子のルームメイトの真響の視点で書かれており、本編の後日談にあたるので、もちろん面白かったです。

目の前にあるものを、あるがままに受け入れること~『ツバキ文具店』(小川糸)~

この作品は多部未華子主演のドラマの放映時、友人が「margreteちゃんが好きそうな話だよ」と言って勧めてくれたものです。諸事情から、結局観ずじまいだったのですが、何となく心に引っかかっていたため、読んでみた次第です。 とはいえ読み始めてすぐに、「ちょっと無理かも」と思いました。主人公の鳩子のお隣さんが、「バーバラ婦人」というのです。愛称なのですから、別に外国名でも良いのですが、「バーバラ夫人」ならともかく、「バーバラ婦人」って何だろう、と思ってしまったのです。細かいことで

水底の橋がつなぐもの~『鹿の王 水底の橋』(上橋菜穂子)~

『鹿の王』の世界の話ですが、前作を読んでいなくても、まったく問題なく読めます。私は一応前作は読んでいますが、「原因不明の感染症の話だったよな」という程度のことしか覚えていませんでした。でも普通に読めました。 ↑kindle版 上記のとおり原因不明の感染症を扱っているという点では、前作は今のご時勢にどんぴしゃりです。でもこの『鹿の王 水底の橋』にもまた、何となく新型コロナウィルスの問題と重ねて読める部分があります。例えば、以下の一節。 「私は私、あなたはあなた、みな違う存