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バディ


50歳代の独身男性の彼、癌になっても面倒をみてくれる身寄りもなくて、唯一のバディはお喋りをする人形ということでした。

何故か、少し風変わりな患者さんが来ると、師長はあたしを担当看護師にするのでした。

さっそく彼の部屋に挨拶にいった。身長は50センチほど、栗色の髪は綺麗な赤いリボンで結わえられ、コーディネートしたのか、赤いドレスを着た人形が椅子に座っていました。

「マコちゃんです、よろしく!」

自分の名前ではなく、バディの人形の名前を告げました。

ほ~、そうきましたか。何かわくわく。

「マコちゃん、よろしくお願いします!」

すると、マコちゃんは簡単な会話ならできるようで、バディに促されてお行儀よく返事をしてくれました。

「マコちゃんです。こんにちは!」

☆☆☆☆

マコちゃんは起床時間や就寝時間がバディによって設定されており、バディの彼の1日はマコちゃんに合わせて進んでいきましま。

起床は7時だったが、就寝は20時と早くて、その頃になるとマコちゃんも彼も目がショボショボしてきます。

それを知らない看護師が、20時以降に検温に行くと、「マコちゃんが起きるやろう!」と途端にキレます。

キレられた同僚がプリプリ怒りながらやってきました。

「あの変な人、どうにかして!」

だが、抜け目のない、受け持ち看護師であるあたしは、カルテの注意事項にマコちゃんのことを書いてありました。

マコちゃんは家族です

家族は血の繋がった肉親や親族だけでなく、犬や猫だって家族だし、爬虫類が家族の人もいます。ロボットだって、お人形だって家族なんです。

もしもあたしが入院したら、受け持ち看護師として名乗りを挙げる人はどんな人だろう。

いい患者にもなれるし、クレーマー患者にもなれる。しかも内情を知り尽くした同業者が受け持ち患者とは、嫌がられるランキングの上位でしょう。

彼の最期の頼みは、棺桶にマコちゃも入れて欲しいということでした。

身寄りがなく、亡くなったら市の職員が引き取りに来て、無縁仏となる彼。事前に職員に確認したら、マコちゃんも引き取ります、と言ってくださいました。


元気なうちは看護師も交えて、マコちゃんと話したり、お茶したりしていた彼でしたが、段々と起きていることがキツくなり、最愛のバディであるはずのマコちゃは窓際に座っていることが多くなりました。

「マコちゃん、近くに来てもらおうか?」

「いらん」

若かった彼、若い人の癌は元気があるのか、病状の進行も早く、あっという間に寝たきりとなりました。そんな彼をマコちゃんは窓際から見守ってくれていました。

☆☆☆☆

さて、彼がマコちゃんと棺桶に入れたかどうかは知りません。もしあの世があって、彼とマコちゃんに会ったら、「どうやった?」と聞いてみようかねぇ。

いや、彼らは永遠のバディです。そんな些細なことは気にもしないでしょう。たとえ何があったとしても、きっと再び出会い、仲良く暮らしているに違いありません。


「露草や姉のまねして青い爪」