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行楽の秋に想う


行楽の秋、看護師になって初めて勤務をした病院は患者会の活動が盛んで、外科患者会に属していたわたしもしぶしぶ、いや、熱心に活動していました。

しぶしぶ、そうなんですよね。楽しい、でも準備が大変だし、やんちゃな患者さんを事故なくお連れするのは骨の折れる作業でした。

とにかく、一筋縄ではいかないおっちゃん、おばちゃん集団です。それもその筈、彼らはみんな癌のサバイバーでした。

☆☆☆

患者会の定例会は毎月ありました。そこには看護師のみならず医師も事務員も出席して、年間計画にしたがい会報を準備したり、年に二度のイベントの段取りをしたり、本業より本腰を入れて取り組んでいました。

なんて、それほどではありませんでしたが、力は入っていました。春は外科の医師による勉強会、秋は日帰り旅行です。

日帰り旅行への彼らの熱の入れようは半端がなく、候補地を挙げ、昼の料理をどうするか決め、バスをチャーターし、その短い旅行のなかでも医師の勉強会を捩じ込み、とにかく盛りだくさんでした。

何より大変だったのが、昼の料理です。癌のサバイバー、彼らはみんな癌になり、手術をして、そこから生還した人が患者会に参加をしていました。

つまり、胃がない人やら食道がない人、人工肛門をつけた人、色んな人がいます。誰もが楽しめる食事、ひと手間掛けてくれる場所を選ぶ必要がありました。

それから、思い出に残ることをする。それも大切なことでした。みんなで何かを達成し、楽しいひとときを共有することに意味を見いだしていました。

また、行きのバスの中でやるお楽しみも重要でした。歌ったり、ゲームをしたり、そんな細々した準備もやらなくてはなりません。

楽しい、でもね、業務の合間にやるにしては負担が大きくて、つい、しぶしぶ。

☆☆☆

それでも、いざ日帰り旅行が始まると、テンションも上がります。なんせ、サバイバーの皆さんです。その元気なこと。

毎年、新たに癌を克服し、患者会に参加する人がいます。新人です。古参のサバイバーが先ずは自分の癌との馴れ初めを語ります。

いつ、どこで、どんな風に癌が見つかって、どんな手術をして、その後、どんな辛いこと悲しいことを乗り越え、今に至ったのかを、彼らは毎年、毎年、旅行やそれ以外の行事に参加するたびに語ります。

語ることで、癌という病気を克服したという思いを強くし、再発するかもしれないという恐怖を捩じ伏せ、前を向いて生きようとしているかのようでした。

本人は全身麻酔で寝ていて知らない筈なのに「バシーと腹の真ん中をかっさばいて、こんだけデカい癌を取り出した」と、まるで見てきたかのように語るおっちゃんたち。こんなにも元気なら、強烈な自己免疫力で癌なんてやっつけちゃいそうです。

その病院を辞めてもう十五年です。さすがに癌のサバイバーの彼らも、老化には勝てないだろうなあ。いや、分かんないですね。


見上げても靴の下にも秋の色
食べごろの柿を枕に夢み猫