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いつかはオムツ


オムツ、大切なアイテムであることは分かっちゃいるけど、この名前が気にくわない。

どうしてもオムツを履くのは子ども、弱者というイメージがあって、オムツを履くようになったら終りみたいに感じさせてしまう。

ネーミングを変えたら少しは受け入れやすくなるのかしら。

☆☆☆

40歳ちょっとの彼、進行癌で、あれよあれよという間に癌に体を食いつくされ、手術して抗がん剤治療して、あっという間に緩和ケア病棟にやってきた。

あまりのスピードに本人も家族も心がついていけていなかった。緩和ケア病棟への転院も説明をされている筈だが、納得せずにやってきた。だから、転院の初日から荒れていた。

あまりの痛みに横になれない彼は、ベッドをギャッジアップして、背中にもクッション、両脇にも倒れないようにクッション、ありったけのクッションをかき集めて彼のまわりに置いた。

微妙なギャッジアップの角度、クッションの位置や重ねる枚数、、、彼にとっての安楽な姿勢があり、その安楽な姿勢は刻々と変化をした。

同じ姿勢でいるとしんどいのは誰も同じで、無意識に安楽な体勢をとろうとする。

でも、自分で動く体力も気力もない彼には、他人の手を借りないと最低限の安楽すら得ることができない。家族も付き添っていたが、家族は鬼気迫る表情の彼をどう扱ってよいか分からずオロオロしていた。

転院初日。スタッフ一同もオロオロし、ヘロヘロになった。

☆☆☆

彼は四六時中ナースコールを離そうとせず、手からナースコールが落ちることを恐れて、ナースコールを握った状態にして包帯で巻いていた。

彼にはたくさんの苦痛の種があった。でも、失禁をして、オムツを交換されるのは最大の苦痛のようだった。痛みもそうだが、40歳代という若さだ。自尊心がある。

能天気な看護助手、「オムツを替えます」と大きな声で言うものだから他の人にも聞こえてしまう。胸ぐらを掴んでこっぴどく注意をしたいが、パワハラで訴えられる。その場は静かに注意するに止めて、夕方、話し合いの場を設けた。

オムツと呼ばなくてもオムツだ。それでも、「下着を替えましょうか」と声をかけると、諦めたように頷いた。

☆☆☆

それはさておき、オムツだ。あの形状が装着しやすいのかもしれないが、どうも見た目が好きになれない。

色は白がほとんどだし、メーカーによっては売り文句の文字が書かれている。せめて色や柄に工夫を凝らせないのかしら。

いや、あの形状もまだまだ工夫の余地があるだろう。男性ならトランクスの形とかどうだろう。見た目はトランクス、でもその正体はオムツとか。

試しに、パンパースにメールで問い合わせをしたが、返事は来なかった。

病気や障害、歳を取ったらオムツのお世話になるだろう。でも、お洒落なオムツはないのかしら。女性らしい肌着感覚のオムツ。

歳を取って、男女共用のオムツを履かされるなんて、あたしのプライドが許さない。

あたしにオムツをしようとする人、蹴られる覚悟でかかっておいで!

なんてね


いわし雲背に爆睡の猫のんき
山澄むやほうけた祖母がオムツ干す