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美しい人



夜勤に行くと、急に転院してきた女性の担当看護師になっていました。あらら、どんな人かしら。さっそく、挨拶してこよう。

先入観を持たないため、日勤看護師が取ってくれたアナムネに目も通さず、病室だけ確認です。

無料個室は、ナースステーションを出て右、日当たりのいい南側にありました。夏は暑いけれど、冬にはお部屋がぽかぽかです。

季節は初夏。暑さを感じるまでいてくれるといいな。そんなことを考えながら病室の前に立ち止まりました。

なんだか、場違いとも思える、めちゃくちゃ陽気な笑い声が聞こえてきます。

担当看護師としての印象は、ファーストコンタクトで決まる!と思っているあたしです。いつも通りのあたしで、いざ参る!です。

作った自分はすぐにボロが出るし、やはり、いつも通りの素の自分でぶつかることが大切です。

そうすることで、出来るだけ早く相手から『信用』してもらい、『信頼』関係に繋げていけると信じています。"ちんたら"している暇はありません。

「失礼します~。少しの時間、お話しさせてもらっても構いませんか~?」

「どうぞ~」


そこには、若い女性が三人いました。三十歳くらいの女性、お姉さんかな。それから若い女性が妹さんかしら。そでもって明るい色のパジャマを着た彼女があたしの担当患者さんかしら。

三人ともみんな美人ですが、そのパジャマの女性は本当に整った美しい骨格で、透き通るような白い肌でした。小説や漫画などでよく目にする表現で、文字で書くと陳腐ですが、そうとしか言い表しようのない、美しい人でした。

無料個室は、無料だけれど残念ながら狭い。患者さんのベッドと一人掛けのソファと付き添い用ベッドを置くとピチピチです。

でも、仲良し姉妹は二つのベッドをぴったりくっつけて、部屋いっぱいのキングサイズのベッドに変身させ、川の字になって雑魚寝をしていました。

「きゃ~、こんな格好ですみません」
「てっきり、また(アナムネ病歴・既往歴の)聞き抜かりがあって来たかと思った~」

日勤看護師年配の早とちりさんの顔を思い浮かべながら、彼女のことだから、何度も何度も、聞きに行ったに違いないなあ。

勘違いに気づき、苦笑しながら慌てて正座をする、気後れしちゃうほどの美人三姉妹に、自己紹介しました。

「はじめまして!担当の辛島です」

つづく


花菖蒲の季節ですね