見出し画像

今日のだいたい2時 9月中旬

9月11日(土)

スプーンを持った息子がそそくさと台所の中を駆けている。
向かった先はガスオーブンの麓で、そこには、おやつに食べようと思って焼いて冷ましておいたさつまいもプリンがあった。そろりのぞくと、つま先立ちをした息子が迷いなくプリンをすくってパクパクと食べていた。そうね、それが一番おいしい食べ方かもしれない。

画像1



9月12日(日)

これは深夜2時の出来事である。
夕方5時に床に就いてしまった息子がむくっと起き上がり、「あっち」と言う。「あっち」と言うときはだいたい外に出たいときだ。彼の目は完全に覚醒している。静かな闇に溶けるくらいの声で「さんぽ行く?」と聞くと、こくんと頷かれた。虫の声がちろちろと聞こえる涼しい夜道に出ては、もんわり体温の残る布団に戻る。そうやって玄関を出たり入ったりしながらようやく布団で寝息を立てはじめた息子の隣で、わたしも泥のように眠った。

画像2



9月13日(月)

ピザトーストを食べていたら、いつか行った下川町の洋食屋さんを思い出した。
その当時知り合いたての薪屋さんが下川町にいて、会いに行った帰りにおすすめしてもらったのがそのお店。たしかアポロという名前だった。夜道にポッと灯る橙色の明かりが漏れる店構えは、他人も同然だった下川町という場所を一気に仲良しのおばちゃんくらいに思わせてくれた。薪屋さんに「おいしいから食べてみて」と教えてもらったスパゲッティーは、この店にあるメニューを全部食べてみたいと思えるほど、素朴なのに根拠のあるおいしさだった。また行きたい。

画像3


9月14日(火)

富良野のスーパーで息子の乗ったカートを押している。そのカートは子どもの座るところが小さな車になっていて、ハンドルもちゃんと回る。車を愛する息子は顔をほころばせながら乗車した。買い物リストにはない食材や嗜好品までちゃっかりのんびりカゴに入れているうちに、やけに息子が静かだなぁと思って「ブーブ、いいね〜」と声をかけながら運転席を覗いた。そこにはまっすぐ前を向いて真剣にハンドルを切る、小さくも凛々しい息子がいた。彼は本当に運転していた。車のことを「ブーブ」なんて言った自分が恥ずかしい。

画像4



9月15日(水)

まちがい電話がかかってきた。
受話器越しに聞くのは見知らぬ人の声だから、だいたいさっさと電話を切ってしまいたくなる。でも今日の相手はなんだか親戚のおじさんみたいな雰囲気で、思わずほっこりしてしまった。まちがい電話の平均会話時間より10秒くらい長くお話したと思う。

画像5



9月16日(木)

川を眺めていたら水際にヘビが現れた。
土色の縞模様が美しい子どものヘビだった。それを見た夫りゅうまが「お、今日はいいことあるぞ」と嬉しそうに言う。(へぇ、ヘビを見るといいことあるのねぇ)と、その時はぼんやり思った。そうしたら今日は驚くほどたくさんのいいことが起きた。というか、普段なら「いいこと」って思わないことでもいいことだって思えたのかもしれない。ヘビを見ていなかったらそんなこと意識しないから。例えば朝の起きしな、「今日はいいことがあるよ」と自分におまじないをかければ、普段の景色や境遇も「いいこと」として捉えられることがひとつやふたつあるのかも。そう思った今日の午後。

画像6



9月17日(金)

コーラを飲めないわたしがクラフトコーラを作った。
台所の小鍋で煮える黒い液体からコーラのにおいがしてきて、それがなんとも可笑しくて笑ってしまった。コーラや、これはコーラや!
夫はおいしいと言って飲んでくれた。今度ビールにも入れてみよう。

画像7



9月18日(土)

最近心に居座っている考え事を何気なく知人に話してみた。
そうしたら、思いがけずその知人らしさがじわっとにじみ出るような爽快な返事があって、(そうか〜、そんな風に捉えるのもありか〜)と、ちょっとしぼみかけていた心にぶわっと余白が生まれた。人の意見は所詮人の意見だから結局最後は自分で決めるんだけど、他人の考えや生き方にコツンコツンと刺激されると、自分の価値観がゆらゆら揺さぶられる。それで少し心許なくなったりもするんだけど、おかげで自分なりの答えのようなものが見えたりもする。そうやって振り子時計みたいにぽちぽちと刻まれていくのが人生なのでしょうか。

画像8



9月19日(日)

友だちと、その子の子ども2人と息子と一緒に沼のほとりにいる。
子どもらははだしになって沼の浅いところに足をつけ、魚を眺め、おやつを食べて、虫を見つけ木に登り、もうわたしたちにはわからない彼らだけの言語や所作でおしゃべりする。もう見ているだけで彼らの心がほくほくしているのが伝わってくる。そういうのを大事にしてあげたいから、母ちゃんは今夜もお腹一杯ごはんを食べて体力をつけます。

画像9



9月20日(月)

大皿にあふれるほどつくったお昼ごはんを食べ終わった。
少しずつ余ったそれらは、今晩のおかずになります。

画像10


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?