そこにいるもの

久しぶりに『ねこあつめ』を立ち上げた。
立ち上げた、というより、立ち上げてしまったというのが正しい。
スマホ画面にたくさんあるアイコンの一つを、間違って押してしまったのだ。

すぐ閉じることはできた。
実際、そんな間違いはよくあることで、そのたび舌打ちもせず、何も思わず、反射的にアプリを閉じていた。

でも久しぶりに、画面が立ち上がるのを待ってしまった。
なんとなく。
立ち上がった画面に、当然、猫達はいなかった。
ゴハンもあげない部屋に『待ってる』なんてことは、あっていい訳なかった。

寂しいとも思わず、慣れた仕草でゴハンを置いた。
ただ、以前と違ったところは、昔の自分ならめったに置かなかった、『一番高いゴハン』を選んだ。
その為にひと手間、ふた手間増やして。

もうヘビーユーザーではないから、コイン持ってても仕方ないから、きっと頭のどこかでそんなこと考えたんだろう。
大盤振る舞いだ、と思った時、少し楽しい気分になった。
その気分のまま、機械的に誰もいない画面を閉じた。

次にアプリを開いたのは、しばらく後で、また誰もいない画面が立ち上がった。
ゴハンもない。
私はまた、少し楽しい気持ちになって、ゴハンを置いた。
前回買った『一番高い』やつだ。

アプリを閉じた後、また猫たちはゴハンを食べに来るのだろう。
たくさんのスマホを渡り歩いて、ゴハンがあると立ち止まって、なくなれば次のスマホへ行くのだろう。

彼らの幸せな航海が永遠に続くといいな、と、今日もまた誰もいない画面に、私はゴハンを置く。