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故郷が消える日

故郷ってなんだろう

心の故郷

第2の故郷

色んな言葉がある中で、まず思うのは「生まれ育った場所」じゃないかな?って思う。

それならば、このエッセイを書いている2021年12月に私の故郷は消える。

文字通り跡形もなく姿を消すのだ。

何故12月かと言うと、年をまたぐと固定資産税が発生するから、というなんとも現実的で合理的な理由。

大部分の人にとっては暖かい故郷の実家が、私はずっとずっと重荷だった。

考え無しに思いつきでやったとしか思えない増築を繰り返して陣地を広げたみたいな作りの家も、大量のゴミも、商売をしていた時の皿や鍋も、みんなみんな、重荷だった。

ここで生まれ育ったはずなのに、私の故郷はいつからか全然安らげない場所になってしまった。

母が倒れて、父が死んだ場所。

山集みのゴミ。

すっかり時が止まった家。


考えあぐねる日々の中で、駐車場にしたいので土地が欲しいという申し出を受けた。

私も弟も、そこに住む予定はなかったので、一周忌、初盆が過ぎた初秋の頃から実家を手放す準備を始めた。

不動産屋さんと公図を見て登記簿をみて土地の境界を確認して、、そんな作業を繰り返した。

その作業は、もうずっと昔に忘れていた子供の頃の風景を思い出すものだった。

いまは舗装してあるけどあの道は砂利で、道沿いに1列に木が植えてあった。

真っ直ぐ奥が行き止まりで怖かった。などなど。。

県道沿いにある実家。歩道はなく、いまでこそ家が沢山建っているが45年前は畑の中に家がポツンポツンと2、3軒建っているだけ。

畑の向こうの家には同い年の女の子と2つ下の妹の姉妹がいて、残っている写真を見ると物心着く前の赤ちゃんの頃から一緒に遊んでいたようだ。

歩道の無い車道を通らなくて良いように、畑の土で足が泥どろにならないように、お父さん達が踏み固めて作った手作りの道をとおって遊びに行き来していた。

ちょうど真ん中で出会えるように調節して歩いたり、会いたーーい!って叫んで両手を広げて走ったり、泥団子をつくったり、おままごとをしたり。大きな遊び場だった。

すっかり奥深くに眠っていた記憶が次々に顔をだして、くすぐったい様な気持ち、目の前で小さな女の子達がクスクスわらっているのを眺めているような不思議な気持ちだった。

そして11月

実家を手放した。

あんなに望んでいたのに、いざなくなる、そうなると、これで良かったのかという気持ち、自分の育った場所が無くなる心細さや申し訳なさが込み上げてきた。

そんな時、

最高のデトックスですね。

一言かけてくれた言葉に救われた。

そうか。そうだね!

これ程のデトックスはない。最高のデトックスだ。なんでもかんでも持ってる事に意味はない。分かってるつもりで色々なものを手放そうと思っていたのに。

その言葉と一緒に随分心も軽くなり、突然家が消えたらビックリするだろう、と親戚や幼なじみの家に挨拶に行く事にした。

畑の道を作ってくれた幼なじみのお父さんは18年前にガンでなくなってしまった。

私の記憶の面影からは歳をとったお母さん、そのまま大きくなった妹。更地にすることを告げると、お母さんは来てくれてありがとうね。忘れないでね。涙をながして何度も言ってくれた

子供の頃よく遊びに行ってた同級生の家、昔も小さかったのに、もっと小さく感じる親戚のおばちゃんたち。

おじちゃん達は、みんな死んでしまった。

思いつく限り挨拶をしてまわった。


一日にこんなに何回も忘れないでね。と言われたことがあっただろうか。

きっとこの先もないだろう。

おばちゃんが泣くから、私も一緒に涙を流す。

11月下旬の小春日和のとても暖かい日だった。

泣き腫らして浮腫んだ目で運転しながら考えた。

遊びに来るよ!そうは言っても、実現はしないだろう。私もおばちゃんたちも心の中で思っていた。

だから、忘れないでね。元気でね。

何度も何度も言ったんだよね。

あんなに嫌いで重荷だと思っていた実家だけど、1歩自分からよりそってみたら、こんなに暖かい、人との繋がりが残っていた。


故郷ってなんだろう。

場所も大事だけど、そこにいる人の存在も大きい。

そこに行きたいから、と同じくらいその人に会えるからその場所が好き。その人のいる所が故郷。


そして、自分の心の中にも故郷はあった。

確かに残ってる暖かい記憶たち。

歳をとって弱った父、分かり合えない思い。沢山のゴミの山。整理できない思考の渦。そんな物に隠れて見えなくなっていた。

強制終了みたいに形が無くなる私の故郷だけど、今はスッキリとした気持ちと感謝の気持ちで満ちている

そして、これから先の時間は、自分が故郷になりたい。

息子たち、私を知ってる人。みんなみんな。

いつ来ても、時間が経ってもおなじ空気でつつめたら幸せだな。

スッキリ晴れてピンとした冷たい空気の年の瀬の真冬の空をみて思うのです。




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