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エイプリルフールで腕試し。コンテンツ戦国時代に「文章」で勝負するために。

ここだけの話。

コロナ禍で取材ができなくなり、仕事が減った。その時、自分のスキルを売り買いできる「ココナラ」というアプリで、次のようなサービスを始めた。

「王様の耳はロバの部屋。あなたの秘密、お聞きします 誰にも言えない、でも誰かに話したい。そんな秘密を抱える方へ」

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読んでの通り、誰にも言えない秘密の話を電話で聞くというサービスだ。正直、ネタというか、おふざけで立ち上げたもので、依頼が来たら面白いぐらいの感覚だった。

ところが先日、初めてのコンタクトがあった。

……もしもし?

聞こえてきたのは、推定30代から40代の、少しおびえた様子の女性の声だった。募集の告知に「犯罪の告白はNG」と書いているからヤバい話ではないだろうと思いつつ、妙に胸がザワザワした。心の準備ができていなかったから、アタフタしながら答えた。

「こ、こんにちは、川内と申します。お電話ありがとうございます……」

彼女は、沈黙した。1秒、2秒、3秒……。え、自分で電話をかけてきたのになんで喋らないの!?不安が募る。犯罪じゃなくても、耳をふさぎたくなるような話だったらどうしよう。。。

頭のなかに疑念の雲が急速に広がったけど、電話を切ることができなかった。彼女がスマホか受話器の向こう側にいるという気配が伝わったからだ。

物書きとして、心がけていることがある。取材中に相手が沈黙した時に、慌てて話しかけないこと。よほどつまらない取材じゃない限り、その沈黙にはなにかしらの意味がある場合が多い。僕は、息をひそめながら女性の言葉を待った。10秒ぐらい経った時、彼女は口を開いた。

「あの、ですね…。私、群馬に住んでるですけどね。。。あ、名前は言わなくていいですか? そうですか、えーっと、その、なんていうか、見つけちゃったんです…」

なんとも歯切れの悪い話しぶりから、人に話しにくいことなのだろうと察する。それはそうだ。秘密を打ち明けるサービスなんだから。

「え、見つけた? なにをですか? あ、それを聞いてもいいのかな……」

僕が答えると、また沈黙。洋服に垂らした墨汁のシミのように、嫌な予感がじわじわと広がる。

……んーと、最近、父が亡くなりまして。母はもう数年前に先立っていたので、私、実家の片づけをしに行ったんですよね。

僕:は、はい。それはなんというか、、、ご愁傷様です。

……あ、はあ、ありがとうございます。それで、実家は古い家なので、蔵があるんですよ。そこはまあ荷物置き場というか、使わないものがたくさん置いてあって。

僕:蔵。なるほど。

……その蔵で、見つけちゃったんです。。。

ここでまた彼女は口をつぐんだ。なにか厄介なものを見つけたというより、戸惑っている様子が伝わってくる。僕は、「はい」と相槌を打った後、彼女の沈黙に付き合った。すると、数秒後にまた口を開いた。

……うーん、やっぱりもういいです。ごめんなさい、変な電話かけちゃって。気にしないでください。切りますね。

「え、ちょっと待ってください」と僕が言い終える前に、電話が切れた。なんなんだ?急な展開に少し苛立ったけど、折り返すことはできないから仕方ない。仕事に戻る。すると、2、3分して、また電話が鳴った。その女性だった。

僕:もしもし?

……ああ、ごめんなさい。いきなり電話切っちゃって。自分からかけたのに失礼ですよね。ごめんなさい。

彼女が電話口で頭を下げている様子が目に浮かぶ。

僕:いえいえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。

そう応じると、それまでの様子とは打って変わり、彼女は堰を切ったように話し始めた。その内容を聞いて、全身に鳥肌が立った――。

ココナラの守秘義務があるので、詳しいことはここに書くことはできないけど、僕はこれから群馬の赤城山に向かい、彼女と合流して、現地でしばらく過ごします。

電波が届かない場所のようなので、SNSで状況を伝えたり、電話に出たりはできないけど、6日にマイベイベーの入学式があるので、5日までに帰ります!

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ここまでが、昨日のエイプリルフールに、僕のFBに投稿した文章。ココナラでサービスを始めたこと以外は、ぜーんぶウソである。

僕は毎年、4月1日に気合いを入れて、全力でウソをついている。それは友人、知人をだまして楽しむというエンタメでもあるけど、物書きとしてどれだけ読者が没頭できる文章を書けるか、腕試しの意味もある。

ちなみに、昨年はこんな投稿をした。なぜ、エイプリルフールにプロとして渾身の力を込めてウソをついているのか、その理由を書いているので、興味がある方はぜひご一読ください!

「ライターの僕が本気で取り組んでいる、文章力を鍛えるためのアホな試み」

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僕はライターとしてただ「原稿を書く」のではなく、「いかに夢中で読んでもらうか」を常に意識している。なぜなら、僕が書く原稿は長いから(笑)。普通に書いていたら、飽きられてすぐに離脱されてしまう。

FBもインスタもツイッターも気になるし、ネットフリックスやアマゾンプライム動画も観たい。そういうコンテンツ戦国時代に文章で勝負するためには、没頭し、夢中で読んでもらう記事を書くしかないと思っている。

その腕試しの日として、4月1日はもってこい。多くの人が「今日はエイプリルフール」とわかっている状態で、ウソをつく。わかりやすいウソはすぐにバレる。それは、すぐに離脱されることとほぼ同じ。ウソと気づかれずに最後まで読んでもらい、最終的に信じた人からコメントがつけば大成功!

今回は、7個目のコメントで「イオさん、毎年エイプリルフールのネタが絶妙のラインで信じそうになります笑」とバレてしまい、俺もまだまだだなと反省している。

でも、バレた後も「完璧騙された」「さすがプロ!圧巻です!!」「毎年まんまと騙されています! 設定も絶妙でプロってすごい。」「続き読みたいので是非続編を!(笑)」というコメントをもらったので、今年も書いてよかった!

ちなみに、ウソをつく際には下記の2つのルールを課しているから、もし来年、渾身のウソを投稿しようと思った人は参考にしてほしい。

・誰かを傷つけたり、悲しませるウソはNG

・だまされたと気づいた後に笑えるウソであること。


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