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自律神経がちょっとイカれた話

  「え、オレでもなるの?!」

   これが率直な感想だった。

 僕のTwitterをちょいちょい目にする人はお分かりだろうが、僕は僕自身をたいぶ楽観的な人間だと思っている。
 日常生活でも脊髄反射で周りにツッコミを入れてしまう程にツッコミ気質な僕。Twitterでも肩の力を抜ききって利用している(たまにコメンテーター気取りの偉そうなツイートをする時もあるが)。

 そんな僕の体に異変が起きたのは、今年の3月上旬の事だった。

◎なんか心臓がヘン…

 3月6日の土曜日、深夜。
 翌日は仕事が休みだという事で多少お酒を飲んで寝床に就いた。
 目を瞑り、現実と睡眠の境目辺りで、胸部に急激な違和感を感じた。
 よく「胸が苦しい」「胸が締め付けられる」という表現を耳にするが、その時の僕はどれにも当てはまらなかった。
 文字や言葉で表現するのは難しいが、適切な表現としては「心臓の周りに氷の膜が張っている」というような感覚。それまでに経験したことのない違和感に、一気に頭はパニックになった。

 慌ててベッドから降り、部屋の中を熊のようにウロウロする。自分の神経がまだ正常である事を確かめる無意識的な行動だったのだろう。台所に行き水を一杯飲む。トイレに行き無理矢理にでも排泄しようとする。外に出て冷たい空気に当たる。自分の体に起こっている異常を少しでも楽にしようと、思いつくことは片っ端から試した。
 嘔吐や痛みがあったらすぐに救急車を呼ぼうと思っていたのだが、その胸の違和感だけで他に症状はなかったので、もう一度布団に入って必死に寝ようと目を瞑った。
 何時間経ったか分からないが、外で鳥が鳴き始める頃にやっと眠りに就けたらしい。

 数時間後に目覚めたものの、当然気持ちが晴れない。初めての症状に心の中は100%不安に浸かっており、そもそも何が原因かも分からない。インターネットで同じような症状を検索するが、「不整脈」「虚血性心疾患」「心筋梗塞」などの更に不安を煽ってくる病名ばかりが結果に表示される。もちろん、それらの病気の初期症状だとしたら早めの受診が必要であることは重々理解していた。

 3月7日の午後7時、Twitterで僕はこんなことを呟いている。

 これはその症状が起きた翌日にツイートしている。

 初めて体験した「死ぬかも知れない」という恐怖感を紛らわせるには、こう自分に言い聞かせるしかなかったのだ。

◎異常ナシ・異常ナシ・異常ナシ

 その後、同じような症状は日を置いて続いた。
 「運動不足が祟ったのか」とランニングを始めてみたり、「水分が足りないのか」と1日に3リットル程の水を飲んだりと、あの恐怖が打ち消されるなら、という思いで様々な方法を試した。
 例の症状が起きない日もあれば、以前よりも弱めに発症することがある。明らかに「完治」はしていない。意を決して、地元の循環器クリニックを受診することにした。

 聴診器診察・血圧・心電図・血中酸素濃度・レントゲン。
 問診ではそれまでの不安をぶちまけるように先生にお話した。
 しかし診断結果は「全て異常ナシ」。血中酸素濃度に関しては「理想的な数字」と言われた(基準がよく分からんが)。

 先生は「若いので、心筋梗塞という可能性は少ないと思う。もし心臓の病気だとしたらもっと他の症状が出ているはず」という。
 確かに、よく考えてみれば就寝前の例の症状以外、特に身体的な問題は無かった。
 食欲はある。運動も出来る。特に日中は園児と走り回れる程に元気だった。めまいや立ちくらみ、嘔吐や吐血なども全く無い。考えれば考えるほど「じゃあこの症状は何よ?!」と頭を傾げるばかりだった。

◎盲点だった「ストレス」

 それから数ヶ月が過ぎ、相変わらず日中は元気、夜になると布団の中で「怖い怖い」が続く日が続いていた。平均睡眠時間は3時間から4時間。

    1ヶ月後くらいから、本格的に「死」を意識し始めた。夜中に襲ってくる動悸、それがゆっくり通常の速度になっていくのにつれ、「このまま心臓が止まってしまうのではないか」という恐怖に毎日怯え続けていた。
 冗談やオーバーではなく、朝目覚めるたびに「良かった…今日も生きてた…」と思っていたものだ。 

 親しい友人にも「最近、体が変でさ…」と相談していたが、結局原因は分からず、市販の睡眠改善薬に頼る日々が続いた。

 そして先日、友人から「体(の症状)ではないのでは??」と言われた。
 「お?」と思った。確かに、自分で言うのもなんだが病気だとすると日中元気過ぎる。そして例の症状が起きるのは決まって「就寝前」。もし心臓の疾患だとしたら「就寝前にだけ心臓を冷たくする病気」という摩訶不思議な病気が存在することになる。

 …なんじゃそりゃ?

 もっと大きな病院で精密検査を受けたらしっかりしたことが分かるかもしれないと思いながらも、「体よりも心の症状だった方がまだマシだ」と思い始めてる自分。
 もし本当に心臓の疾患だとしたら、手術やら入院やら色々なことを考えなくてはならない。一応、管理職という立場に居るため、もしそうなった場合に職場の補填をどうしようかと考えていたのも大きな悩みの一つでもあった。

 そして6月の上旬、始めての心療内科に足を踏み入れることになった。

 初診ということを伝え、アンケートのようなものに記入をする。
 今の状態を5段階で自己評価する、いわゆるチェックシートのようなものだった。
 「眠れない」「恐怖感がある」など、現在の自分に強く該当するものには「5」、「全くない」を表す「0」までの5段階評価で自己分析をする。
 提出してしばらくすると、指定の部屋に入室するよう促された。
 どうされましたか、と優しく声を掛けてくれたのはメガネを掛けた老齢の男性。柔らかな表情がとても印象的な方だった。

 3月から不安で眠れない日が続いていること、様々な方法を試してみたが改善しないこと、病院では異常が見当たらなかったことを全て話した。

 ゆっくりと僕の話を聞いてくれた先生は一言
 「見えないストレスが溜まってるんでしょう。自律神経が乱れているんだと思います」。

 思い返してみれば、コロナ禍に突入した昨年から様々な事が制限され、今までのように生活することが難しくなった。
 友人とも会えない、旅行も行けない、テレビを付ければニュースは不安を煽るような報道ばかり。
 僕自身もコロナの影響で予定が狂ったことは1度や2度ではなかった。
 実際、コロナ禍において精神的な疾患に罹患してしまう人は急増しているという。

 幸い、というと大変語弊があるかも知れないが、僕の場合はごくごく軽度な症状だった。
 自律神経が乱れると、不眠や不安感、疲れやすさなどが顕著に現れ、さらに進行すると頭痛や耳鳴り・目眩など、日常生活に来すレベルでの体調の変化が起こるという。

◎「まさか」と「やっぱり」

 正直、「THE 適当人間」だと思っていた自分が自律神経を乱すとは思っていなかった。
 確かに天候の変化などにテンションが左右される事が多く、分かりやすく「晴れの日は元気」「雨の日は暗い」という浦安鉄筋家族の小鉄のような性格の持ち主である。

 改めて感じたことは「こんなオレでもバランスが乱れるんだから、他の人にも起こる可能性がある」ということ。
 仕事を含め、日常生活になんら不満のない僕でも、少しの環境の変化やストレスで心のバランスを乱してしまうのだな、とストレスの怖さを感じた。

 確かにこのご時世、「ストレスを減らしましょう」なんてことはほぼ不可能に近い。先ほども書いた通り、今まで当たり前だったことが当たり前に出来なくなり、大きなストレスを抱えている人も数え切れない程いるだろう。

 人によりストレスの要因・発散方法はそれぞれ異なる。僕は今までストレスを発散することが苦手、というかよく分かっていなかった。
 自分を「ストレスに強い人間」だとはこれぽっちも思っていないが、何が発散になっているのか、明確な答えは今でも分からない。週末の晩酌も、一人で飲んでいればどんどんと気が滅入っていく。思えばこれらも自律神経を乱す「ストレスの要因」だったのかもしれない。俯瞰で自分を見れば、あらゆるストレスの中に自分が放り込まれていたということに気付いた。

 最初は「まさか自分が」と思っていたが、少し冷静になると「やっぱりそうだったのか」と納得する自分が混在していた。

◎だけど気分は晴れ晴れ

 長々と、なんとなく重い雰囲気で自分に起きたことを書き連ねたが、全く暗い気持ちはない。
 悲観的な考えは昔っからなく、じゃあどうしようかと考えるタイプの人間だと自分で思っている。

 ただ、このコロナによるクソみたいな現状と、それまでの楽しかった毎日とのギャップで、少し心のバランスが乱れただけなのだろう。

 心療内科の先生も「自律神経の乱れで命を落とすことはない」とはっきり教えてくれた。この言葉だけでも自分の不安の半分以上が取り除かれたような気がした。

 現在、相変わらず食欲も旺盛で、仕事では毎日園児と走り回っている。仕事を休まなきゃいけないというような重大な状態では全くない。
 急に悲しい気持ちが襲ってきたり、突然倒れたりということもない。
 むしろ「体の異変ではなくて良かった」と少しホッとしているところもある、というのが正直なところだ。

 日本は「ストレス社会」と呼ばれるようになって久しい。
 不景気や家族間の問題、逆にストレスを抱えていない人を探すのが困難な程だろう。

 しかし今、日本はこれまでにない最も大きい「ストレスの波」に飲み込まれているのだ、と自分の身を持って知ることになった。

 最後にもう一度だけ書かせていただきたい。

 オレみたいな適当人間にも起きるんだから、皆さんにも起きる可能性があります。
 体や心の異変は、自己判断せず、必ず専門の方に診てもらってください。

 僕と同じように、不安や不眠を抱える人が一人でも少なくなるように、心から願います。

2021年6月10日 marcy

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