美しく機能的なテンハット

マーチングテクニックのスタートは美しく立つことから。
これをいかに効率的に、次の動きに繋ぐことができるかが課題です。

このnoteでは、正しく楽に立つために必要な要素とボディイメージについて解説していきます。

ボディイメージ

綺麗な姿勢を作るには、まずは人間の骨格がどうなっているかというイメージを作る必要があります。
骨格を真横から見てみましょう。

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背骨がゆるくカーブを描いているのがわかりますか?
これは生理的湾曲といって、身体にかかる衝撃を吸収するための構造です。
背骨は椎体という小さい筒状の骨がいくつも積みあがり、一つ一つが動くことでカーブを描けるようになっています。

背骨の末端は、上は後頭部の下あたりの柔らかい所にあり、下はお尻の割れ目の始まりにある尾骨となります。一般的にイメージされる「背中の骨」よりもずいぶん長いことがわかります。

このように正しい身体のデザインを認識することで、脳がイメージする動きがより鮮明なものになり、効率的な動きができるようになります。

ためしに、上を向いてみましょう。
大半の人は、首の付け根あたりから後ろにそらすようになると思います。

次に、背骨がくっついている後頭部の柔らかい所を指で触り、そこを支点に頭をスライドさせるように上を向いてみましょう。
すると、さっきより上を向く角度は低くなりますが、首をほとんど曲げずに顔を上に向けられます。これが、ボディイメージが鮮明な状態で最小限の力を使って行う動きです。

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次は骨盤です。

骨盤はお椀をイメージするとわかりやすいでしょう。

座ったときに床に当たる2つのでっぱりを坐骨、お尻の割れ目あたりにある硬い骨を尾骨といいます。おへそからすーっと下がって性器の少し上あたりにあるのが恥骨です。

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まずは座った状態で坐骨に体重が均等に乗るのを感じます。
次に、片方の坐骨に体重をかけてみましょう。

それが出来たら今度は恥骨をおへそに近づけるように骨盤を傾けます(後傾)。
次に、尾骨が上を向くように骨盤を傾けます(前傾)。
前傾と後傾を感じる時は、なるべく背中の腰に近い部分(腰椎)が反ったり曲がったりしないように気を付けてください。

ここまでの動きを感じられたら、恥骨と左右の腰骨(ASIS)を結んだ三角形がまっすぐ正面(仰向けに寝ている時は真上)を向くようにしてみましょう。それが骨盤のニュートラルな位置になります。

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立っているときは骨盤をニュートラルな位置にセットしましょう。また、歩くときは微妙な前後傾が起きることを覚えておくと良いでしょう。

背骨を引き延ばす(エロンゲーション)

背骨のボディイメージができたところで、骨を操作してみましょう。

背骨は
・前後に曲げる、反らす
・横に曲げる
・左右にひねる、回転させる
というように様々な方向に動くことができます。

さらに、これらの動きをやりやすくするための
・引き延ばす(エロンゲーション
という動きがあります。

「背骨を引き延ばす」とは、棒状のものをパン生地のように伸ばすのではなく、先ほど紹介した「椎体」という積み重なっている骨の隙間を広げるということです。ここでもボディイメージが役に立ちます。
そうすることで、一つ一つの椎体が動きやすくなり、いろんな方向に背骨を動かしやすくなります。

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では実際にエロンゲーションしてみましょう。

☆EXERCISE☆
まずは仰向けに寝転がり、リラックスします。腰が浮いて辛い人は膝を立てても構いません。
手であばら骨の下の方を触りましょう。あばら骨が浮き上がっている人は、手で骨盤の方向に撫でながらお腹にしまっていきます。

次に少し顎を引いて、後頭部の背骨がくっついている所から、引き抜くように背骨を引き延ばします。
この時、頭の方だけでなく足の方にも一緒に引っ張るよう意識してください。肩はすくまないように、耳と肩の距離を離すように下げます。徐々に背中やお腹の筋肉がストレッチされる感覚が出る人もいます。

感覚が出ない人は決して焦らず、「今はまだこんなものか」とありのままを受け入れましょう。身体が慣れてくれば背骨は徐々に動くようになってきます。
上手にやることに拘らず、自分が今どんな状態なのかを観察しましょう。

これを、座った状態や立った状態でも同じようにやってみましょう。

ポイントをまとめておきます。
・あばら骨が浮かないようにしまう
・肩はすくまないように下げる
・背骨を上下両方に引っ張る

♪TIPS♪
もう一つ、骨盤底筋という部分にアプローチしてみます。
骨盤底筋はその名前の通り骨盤の一番底にある筋群で、機能しているときの感覚としては、排せつを我慢しているときが近いです。

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骨盤底筋は体幹のインナーマッスルであるところの腹横筋や横隔膜、脚の内転筋などと繋がりが深いため、機能しているとそれらが機能しやすくなり、楽に姿勢を保ちやすくなります。

まずは椅子に座り、膝で柔らかいボールか拳を軽く挟みます。すると骨盤底筋が働きやすくなるので、お尻の穴を閉めるように(お尻から水を真上に吸い込む感じ)意識しながら、エロンゲーションしてみましょう。

上手くいけば、先ほどのエクササイズよりもやりやすくなっているはずです。

重心はどこに?

重心とは、足にかかる重さの場所ではなく、身体全体の重さの中心のことです。
身体は頭、腕、足、胴体などたくさんのパーツが繋がったものです。そのパーツ一つ一つにも重心があり、これを個別重心と呼ぶこととします。そしてそれらが寄り集まると総合的な重心が表れるので、これを総合重心と呼びます。

総合重心はそれぞれのパーツの位置関係によっても位置が変わり、常に一定ではありませんので注意してください。
例えば下図のように楽器を担いだ状態では、楽器という個別重心が増えたことにより、総合重心が身体から離れた位置になることもあります。

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また、個別重心は必ずしも目に見える場所だけにあるとは限りません。
次の章では見えない重心移動について触れていきます。

リフトアップ(リフトダウン)

リフトアップとは、総合重心を上の方に引き上げることによって、前に進む運動エネルギーに変換するための位置エネルギーを高めたり、脚運びを軽くしたりするテクニックです。

一般的に、重心が高いと不安定になる代わりに動きが軽やかになり、重心が低いと動きづらくなりますが安定感が増します。

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ではどのようにして総合重心の高さを変えるのか?
それは身体の中にある内臓の位置を操作するのです。

内臓は横隔膜により肺と消化器が上下に仕切られています。
腹式呼吸をするとお腹が膨らみますが、これはお腹に空気が入っているわけではありません。
横隔膜が下がることによって内臓が上から押しつぶされ、横方向にせり出してくるので、お腹が膨らむのです。

逆に、お腹を薄くするようにすると、横隔膜はせり上がり、そのぶんスペースができるので内臓は上に移動します。
このように内臓(個別重心)が上下に動くことにより、総合重心の高さを操作することができます。

では実際に重心の高さを変えるワークをしてみましょう。

☆EXERCISE☆
座ったままでも構いません。リラックスできる体勢で行います。

・胸式呼吸
胸郭(背骨とあばら骨でできている鳥かごのようなもの)をしっかりと動かす意識で、大きく息を吸い、リラックスして吐きます。この時、前だけでなく横や後にも肺が膨らむイメージを持ってください。
胸郭が広がることで肺が膨らむことができます。

・腹式呼吸
今度はあばら骨をお腹にしまいこみ、ある程度胸郭の動きを制限して息を吸います。肩が上がらないよう注意しましょう。すると横隔膜が下がり、押しつぶされた内臓がお腹を膨らませます。お腹は前だけでなく、横や後にも膨らむよう意識してみましょう。

2つの呼吸をして胸郭や横隔膜を動かしやすくしたら、今度は大きく息を吸って、止めます。
そして吸った息が胸とお腹を往復するように重心を操作してみましょう。苦しくなったらリラックスして吐きましょう。

ターンアウト(脚を回すコツ)

ターンアウトという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これはバレエで使われる単語ですが、脚全体を外巻きに回旋(外旋)させることです。マーチングでも、テンハットでは60~90°ほどつま先を離して立ちますね。

ターンアウトでは股関節を支点に脚を外旋しますが、ボディイメージが伴っていないと、本来回旋が苦手な膝や足首を無理やり回すように形を作ってしまい、関節に負担がかかってしまいます。
まずはボディイメージを明確にしましょう。

太ももの骨の外側、腰骨のやや下にボコッとしたでっぱりがあるのがわかりますか?これは大転子といって、皮膚の上から太ももの骨が触れる部分です。

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大転子を触りながら太ももの骨を軸にくるくると回してみましょう。
股関節から脚を回旋できていれば、大転子が前後に移動するはずなので、それを感じてみてください。そして、お尻の割れ目がぎゅっと締まらないように注意しながら脚を外旋してみましょう。
それがターンアウトの第一歩です。

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実際に立ってみる

それではいよいよ立って姿勢を整えていきます。

まずは、足の裏の感触を感じてみましょう。
足の裏全体で地面を感じ取れますか?あるいは、どこかの部分に体重が偏っていますか?

感じられたら、足の裏の[母指球・小指球・かかと]の3点に均等に重さが乗るようにしてみましょう。
背骨や足のコンディションが悪くて上手くいかない人もいるかもしれませんが、エクササイズを何度も実践していくと徐々に整います。

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3点で立てたら、エロンゲーションで背骨を引き延ばします。
地面を足で押すようにしてみたり、背伸びの状態から頭を上に残すように降りてきたり、自分のやりやすい方法で行ってみましょう。

次に、脚の付け根からターンアウトします。
脚を内側に閉じて内転筋を働かせ、骨盤底筋が機能すると、ターンアウトに必要な筋肉が働きやすくなります。股関節と脚の骨を軸に回すよう意識しましょう。

頭から足まで、1本の軸が通っている感覚がありますか?
効率よく立てているときは、インナーマッスルが優位になり、表面上にあるアウターマッスルが緩むので、楽に立つことができます。

慣れないうちはところどころに力が入ってしまうと思うので、エロンゲーションの練習や、足のケアなどをコツコツ行ってください。
[足のケアは↓を参照]

ここまで読んできた皆さんは、ボディイメージがはっきりした状態になったので、骨がどんな形をしているか、どこが動くのかを知っています。
なので、歩くときや走る時にも、正しい身体の動き方を再現しやすくなるでしょう。それこそがボディイメージを鮮明にすることの最大の利点です。

最後にリフトアップですが、これは歩くときに重心を高くしたいときに使うテクニックなので、安定して立っていたい場合は、重心は下げておきましょう。
ショーの中でホールドするタイミングは、音楽的にも重要で、息やお腹の繊細なコントロールを要することが多いので、重心を下げて安定させた方が良いでしょう。

リフトアップについては歩行の際に重要になるため、また別の記事で触れたいと思います。

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