10年経った今、ようやくスタートラインに立つ福島の人々(2/2)

スタディツアーの2日目は福島第一原子力発電所の訪問でした。非核エネルギー政策の道を選んだ国の出身である私はいつかここに来て原子力発電所を訪問するとは思ってもみませんでした。

しかし、福島第一原発に入る前に、東京電力廃炉資料館を訪れました。建物に入ってすぐ、東京電力からの最初のメッセージが目に飛び込む。「多大なトラブルを引き起こし、多くの人々に迷惑をかけた事をお詫びします」この強いメッセージは実際に訪問者の間でポジティブとネガティブ、両方の多様で強い感情を引き起こしました。このように会社として謝罪することは確かに東京電力のコミットメントを示していますが、次の瞬間にその背後にある魂胆について考えずにいられません。このような巨大な大惨事が起こり、大企業が損害責任を問われるとき、それを謝罪し全員が受け入れてくれる正しい方法は決してあり得ないのです。批判は常に付き物です。

そこで実際、東京電力を代表して謝罪している人々の写真をより慎重に見ると、それが東京電力で働いている地元の福島の人々である事に気付きます。原子力は安全だと会社や社会に常に人生ずっと言われてきた人たちで原発が安全だと信じていました。東日本大震災が発生するまで、誰もが絶対的な安全神話を信じていました。そして震災が起きた時、福島の人々が最も苦しみました。それから数年経った今でも、福島の多くの人々が苦しんでおり、将来も苦しむでしょう。彼らは直接影響を受け、すべての負担を負っているのです。日本の他の地域では原発事故について日々思い出されるものがないため、遠く行けば行くほど早く忘れられてしまいます。そして、放射性廃棄物の負担を均等に分散することになると、大多数の人々は動揺して攻撃的になり、「それは福島で起こった」と言い、彼らとは何の関係もないので、そこに留めておくべきと強引に押し切るのです。

数週間前の令和3年4月14日、世界の注目は再び福島に向けられています。政府は、2年以内に処理水の放出を開始すると発表しました。 2021年3月現在、福島第一原子力発電所の1,061基の巨大タンクに125万トンの排水が貯蔵されています。処理水とは、放射性廃棄物のことではありません(残念ながら、一部の国のメディアでは混同され、適切に放送されていません)。処理水とは、放射能汚染水がALPS浄化システムを通過した後の状態です(詳細はこちら)。ろ過できない唯一の放射性物質は、水素のまれな放射性同位体である三重水素、トリチウム(記号Tまたは3H)です。誰でもウィキペディアで健康上のリスクについて下記の通り自分で確認する事ができます。

体内では均等分布で、生物的半減期が短く、エネルギーも低い。こうしたことから三重水素は最も毒性の少ない放射性核種の1つと考えられ[16]、生物影響の面からは従来比較的軽視されてきた[17]。しかし一方で、三重水素を大量に取扱う製造の技術者が、内部被曝による致死例が2例報告されている[18]

だからこそ飲料水の場合トリチウムに制限値があり、処理水を海に放出する前に、安全なレベルに達するまで希釈されます。政府はトリチウム含有量がWHOが飲料水に設定した制限の7分の1に下がるまで処理水を希釈する事を通知しました。次の問題はどれだけの量が海に放出されるかである。

分量関係を把握できるよういくつかの数値を下記の通り記載しました。

- 福清原子力発電所(中国):2020年に液体の形で52 TBq(テラベクレル)、ガスの形で0.8TBqの放出
- 台電第三核能発電所(台湾):2015年に液体の形で35 TBq、ガスの形で9.4TBqの放出
- ダーリントン原子力発電所(カナダ):2018年に液体の形で220 TBq、ガスの形で210TBqの放出
- 月城原子力発電所他(韓国):2020年に液体の形で211 TBq、ガスの形で154兆ベクレルの放出
- セラフィールド原子力発電所(英国):2019年に液体の形で423 TBq、ガスの形で56 TBqの放出(2003年以降原子力発電なし)
- ラ・アーグ再処理工場(フランス):2018年に液体の形で11,400 TBq、ガスの形で60TBqの放出

私たちがここ日本で話している福島第一原子力発電所に貯蔵されているトリチウムの量は約860TBq(テラベクレル)です。経済産業省の説明に従い、年間安全限界まで希釈した後、22TBqのトリチウムを放出する必要があります。

処理水が海に放出されなければ、福島第一原子力発電所に建設されたすべてのタンクが2022年秋までに満了になるため行う必要があります。筑波大学准教授の五十嵐靖正氏は残念ながらこの問題が今まで延期されたしまった事と言っています。(2021年4月13日、ジャパンタイムズ)。福島第一で働いている人も処理水の安全な取り扱いについての国民への説明は政治家でないと説得できると言っていました。しかし誰も人気、支持率を失うリスクに躊躇し、責任を取ってこの問題に取り組まなかったのです。

積極的なコミュニケーションは理解を得ることができませんでした

したがって積極的なコミュニケーションは実行できず地元の人々、特に漁業協同組合からの理解を得ることができませんでした。経済産業省(METI)の資源エネルギー庁は、10年間に、29の組織から43人の代表者と7回のヒアリングを開催したと述べています(公式リンクはこちら)。テレビのドキュメンタリーで政府関係者の「ヒアリング」について文字通り人々の懸念に耳を傾けているだけで回答や詳細情報は「ヒアリングはそれを趣旨とした場ではないため」という説明とともに提供されなかったことを学びました。あくまでヒアリングの場であり、議論の場では無いと完結されてしまったのです。人々は政府関係者から質問をしたり回答を得たりすることができませんでした。参加者は懸念を表することしかできませんでした。それが実際4月14日に政府が処理水を海に流すという決定を下した事に人々が腹を立てる理由でもあります。地元の人々が最も影響を受けているにもかかわらず、彼らはまたもや決定プロセスに含まずカヤの外の扱いをされた気持ちしか残りませんでした。

だから政府関係者や東京電力に対して地元住民や漁業協同組合からの不信感を持っているのです。不信の種は既に2018年に播種されました。核廃棄物を含まないはずのALPS処理水に安全基準値を超えるトリチウムのほかセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131が含まれていたのです。データは東京電力にあったにもかかわらず、政府は適切に住民に情報を提供できなかったと埼玉工業大学の非常勤講師である藤崎正人が2021年4月16日ニューズウィーク日本版に掲載された記事で説明している。

政府と東京電力が行う「お上」から住民へのコミュニケーション文化は日本の歴史に深く根ざしており、社会に依然として強く存在する厳格な階層的秩序だと考えています。日本は民主主義ではりますが日本の中に埋まっているこのDNAは民主主義の精神が完全に成熟するのを妨げているように感じます。

2021年4月13日に発行されたグリーンピース・ジャパンの気候変動・エネルギー担当である鈴木かずえ氏の記事では国際環境NGOグリーンピース・ジャパンが日本政府が123万トン超の汚染水を海に処分する決定を強く非難していると声明を発表しました。脚注[1]を見て頂くと鈴木氏が汚染水ではなくALPS処理水について話していることがすぐにわかります。さらに、グリーンピース・インターナショナル(本部)事務局長、ジェニファー・モーガン氏もまた次のように述べています。「地球、特に世界の海が多くの課題や脅威に直面している21世紀において、日本政府と東京電力が核廃棄物である放射能汚染水の太平洋への意図的な投棄を正当化できると考えていることは、言語道断です。この決定は、国連海洋法条約における日本の法的義務をないがしろにするものです。今後も強く反対を続けていきます」。

特に繊細さが求められるトピックなのにグリーンピースのような有名なNGOが正しい言葉を使用することの重要性に対する感性を欠いていることは非常に悲しいことです。もちろん、日本政府と東京電力が放射能汚染水を太平洋に放出すればこれは間違いなく違反であり強く反対されるべきです。だからこそ放水プロセス全体が独立した第三者および国際原子力機関(IAEA)のような国際機関によって監督されることが非常に重要である理由でもあります。 IAEAは2021年4月13日に計画の安全で透明性のある実施の監視とレビューにおいて完全な支援を約束しました。ラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は日本政府が選択した処分方法は技術的に実現可能であり国際慣行に沿っていると述べています。

政府は積極的かつ民主的な方法で住民に向けて国の計画を適切に推進し伝達することに失敗しました。風評被害に備えて対策を講じるとのことだが地元の水産協同組合の反応は信頼が損なわれていることを示しており、信じていない。日本は国際舞台で尊敬される民主主義国であり続けるためにも今後国民に対するコミュニケーション能力を向上させる必要がある。

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