小説レビュー『正欲』『傲慢と善良』…2冊の共通点
皆さんこんにちは。
今日は最近読んだ2冊の小説に関するお話をしようと思います。
『正欲』朝井リョウ
朝井リョウさんははじめて読みました。
実は『正欲』は予告編が気になり先に映画を観ました。周りとは違う価値観(性癖)を持って生まれた人たちが拠り所を探す物語。
見応えがあり暫く頭に残って消えない言葉があったため原作も読んでみようと買ったものです。
その言葉とは…”普通”です。
検事役の稲垣吾郎が不登校の息子や妻に対ししきりに「普通はさ」…と言っていた言葉がとても残りました。
以来、”普通”という言葉を使わないようにと心掛けているのですが、気を許すとつい使ってしまいそうになる。そして自分が如何にこれまで、”普通”という言葉に縛られているかということに思い至りました。
そしてもう一つ…マイノリティの中のマジョリティ。
一見、世間的にはマイノリティ(社会的少数派)と見られる人たちの中にも実はマジョリティ(多数派)とマイノリティ(少数派)が存在するということ。
誰もが自分と違う誰かを気付かないうちに色眼鏡で見ている。また社会の中で自分が安心するために自身と異なる価値観を否定すること。
それは自分が女性ポートレートを撮りはじめて気付いたことでもあります。
はじめてでしたが楽しく読めました。
『傲慢と善良』辻村深月
辻村深月さんは昔から好きでいろいろ読んでいます。
いちばん好きな作品は『ぼくのメジャースプーン』
まだコロナ蔓延時に『かがみの孤城』と『ぼくのメジャースプーン』を舞台でやることが決まり2作共に好きなぼくは両方チケットを手に入れました。しかし残念ながら『ぼくのメジャースプーン』は出演者からコロナ感染者が出てしまい中止になってしまいました。
辻村さんの作品は連作でなくとも時系列で前作の登場人物が少しだけ大人になって出てきたりすることがあります。それがファンにとってはとても嬉しい仕掛けなんです。なので”読む順番”を確認してから買った方がより楽しめます。学園モノ、そして超能力やファンタジーが程よくミックスされており読後感が心地いいです。
しかし、今回読んだ『傲慢と善良』はこれまで読んできた辻村さんの作品とはかなり勝手が違います。先ず超能力は一切ナシ。そして登場人物は大人です。黙って読んだら辻村さんの作品とは分からないくらいこれまでのものとは作風が異なります。ずっと読み続けている人は少し戸惑うかもしれません。
話の内容は”男女の婚活”がベース。そしてこちらも映画化が決定しているそうです。ある日突然、婚約者が行方不明になる…という話はここ最近いくつかの映画でも観た覚えのある題材です。
前半の架(かける)側のストーリーから後半の真実(まみ)側のストーリーへ。正直、突拍子もない展開なのと、突然人格が変わり過ぎています。長年に渡り変われなかった人間はそんな簡単に変われるものではないということを経験則で知っているだけに、真実の突然の心境の変化にはちょっと違和感が残りました。しかしながら真実の実家の両親の狭く歪んだ感覚や無自覚に娘を縛り付けている様子はさすがに上手い描写力です。
それと気になったのが登場人物たちの名前。なんだか平成初期のラブストーリーに出てきそうな今ではあまり聞かないような名前ばかり。特に架の女友達たち。それが気になり過ぎて話に集中できないくらいでした。
やはり辻村さんの真骨頂は学園モノだなと思います。
ふたつの物語の共通点
偶然この2冊を連続して読んだのですが、実は大きな共通点があります。
それは地方都市特有の地域性であり生活基盤についての記述。どちらも地方都市によくある大型ショッピングモールが実名で登場します。そしてその場所がその地方の生活基盤になっています。そこで生まれそこで育ちそこで結婚して子供を育てる…という脈々と続く都市の輪廻。
勿論、作者のお二人は期せずして同様の題材が含まれたのだと思います。
ただそのことで連続して読んだ側は全く異なる物語であるにも関わらずこの国の地方都市特有の連なりを思わずにはいられません。
しかも『傲慢と善良』の解説が朝井リョウであるというのも面白いですね。
それではまたお会いしましょう。
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