裏SF創作講座への誘い

おお、貴いお方よ。遠いところからわざわざお越しいただきました。このあたりには人はほとんど来ませぬゆえ、あちらこちらに珍奇な本が散らかっておりますがご容赦いただきたい。しかし決して本の中身を見てはなりませぬ。世界中のひねくれ者たちが書いた複雑怪奇な書物ばかりを集めておりますので、並の精神の持ち主では吐き気を催すものばかり。ささ、本のことは忘れてこちらの暖炉のそばへお座りください。

さて、今宵あなた様をお呼びたてしたのは他でもありません、裏SF創作講座への招待のためなのでございます。裏SF創作講座とは一体何なのか、名前に裏とつくからには表が存在します。すなわち裏SF創作講座を説明するためにはまず先にSF創作講座というものを紹介しなけばらならないでしょう。本題から少し遠回りしますゆえ、退屈をこらえてどうかご静聴くださいますよう。

SF創作講座、それは世にも奇妙な小説教室として知られています。しかしその実態はまるで小説教室とは異なるものでありました。SF創作講座に通ったものは口々に、SF創作講座は小説の書き方を教わる場所ではない、とうわごとのようにつぶやくようになると言います。
私自身、一度SF創作講座に通った経験がありますが、たしかにそのような心持ちになりました。それは一体なぜなのか。それは教わることよりも先に小説を書き上げることを求められ、さらには競争の場に引きずり出される過酷な講座の宿命のためなのでありましょう。

講座の仕組みをご説明いたしましょう。講座は一年かけて約12回の講義で構成されます。月に一回、課題が告知され、受講生たちはその課題に応えるため、梗概とよばれる1,200字以内で書いたあらすじを提出いたします。SF創作講座主任講師である大森望氏と、その時々のゲスト作家、ゲスト編集者の三名により、優秀な梗概が選出され、それを提出した受講生にはあらすじを短編小説化した実作を次回までに提出することが求められます。
おお、貴いお方よ。梗概が選出されなければ小説が書けないのではないか、そう考えているお顔をされていますね。さすがにそこまで残酷な講座ではありませぬ。梗概が選出されずとも自主提出という形で実作を提出することは可能なのでございます。
つまり、受講生が最大限に課題をこなそうとするならば、毎月梗概と短編小説を提出しつづけることになるのです。
提出された作品はすぐさま世界中に公開され、いつなんどき誰でも読むことができます。
梗概の時点で選出された作品については講師陣は必ず読んで講評を与えることになっているわけでありますが、憐れみ深い大森望主任、慈悲深きゲスト作家、編集者の方々は自主提出された作品を読んでくださることもございます。そうしてそれらの提出された作品の優劣を競い、点数を割り振ることが講座の醍醐味なのでございます。

さらに、講座の最終回にいたってはなんと講義そのものがゲンロンSF新人賞の選考会になっており、賞を取った作品は雑誌「ゲンロン」に掲載されます。商業の本に作品が載るという点については作家デビューと呼んで差し支えないものでしょう。

SF創作講座、その魅力は何と言っても、毎回講師としてやってくるプロのSF作家の方々や、同じ志を持った競争相手や仲間ができることにあります。
おっと、そういえばこちらにSF創作講座の受講生を募集する配り紙があったはずです。これから裏SF創作講座の扉を開くあなたには必要ないものかもしれませんが、好奇心がお強いであろうあなた様のために一枚お渡ししておきましょう。


さて、これにてSF創作講座に関する説明は終わりを迎えました。しかし、これはあくまで”表”の話。夜はまだまだ明ける気配を見せませぬ。今から私が紹介するのはめくるめく”裏”SF創作講座の世界であります。
今まで静かにしていた書物たちの様子が変わったようでございます。貴いお方よ、あなたが裏SF創作講座の扉をくぐることを書物たちも期待しているのでしょう。あなた様ほどの好奇心の持ち主であれば扉をくぐることなどいともたやすいこと。暖炉の火が少し弱まりました。一つだけ薪をくべることにしましょう。おや、あなた様はこのあたりには木が一本も生えていないことにはお気づきのようですね。薪がどこからやってくるのか、それはこの館の七不思議の一つでございます。

話の筋を元に戻しましょう。裏SF創作講座とは何なのか、それはある一人のSF創作講座生が生み出した、世界に開かれた魔法の書物のことであります。早速ですが、実物をご覧にいれましょう。実のところ、あなた様が座っている椅子のとなりに置いてある黒い表紙のそちらの本、それが裏SF創作講座なのでございます。裏SF創作講座はいたるところに存在する本なのでございます。

さて、いくつかのページをめくっていただければお分かりいただけるかと思いますが、裏SF創作講座には二つの"力"があります。一つめの力は、作品に「投票」する力でございます。SF創作講座に提出された作品名は自動的に裏SF創作講座に書き込まれ一覧化されます。これは、まさに魔法の御技でございます。そして本来、SF創作講座で作品に点数をつけることができるのは講師の方々のみでございました。しかし裏SF創作講座では、ありとあらゆる人が作品に投票することが可能なのでございます。講義では評価の低かった作品が裏SF創作講座では高い評価を得ることもしばしばあります。

そしてようやく、このことについてお話しできるようになりました。類稀なるあなた様へ今宵、真にお話ししたかったことはこのことなのであります。それは裏SF創作講座の持つ二つめの力、作品の「投稿」でございます。勘の良いあなた様であればすでにお気づきかもしれません。そうなのです、裏SF創作講座には講座に通っているかどうかを問わず誰でも作品を投稿することができるのです。(ここで少しばかり注意が必要でございますが、裏SF創作講座に書き込まれるのは作品名とその作品のありかだけでございまして、作品自体は何らかの別の場所へ掲載する必要がございます。)

SF創作講座では毎月課題が告示されるわけでございますが、それは誰にでも見れるように掲示されます。

そして、課題に応えた実作の講評についてはYouTubeと呼ばれる魔法の鏡にて覗くことができます。

他の講座生たちがどのように課題に応え、どのように講評を受けているのかを見ながら、あなたも講座生たちと同じように作品を提出することができる準備は整っております。
さあ、あなたはすでにSF創作講座、および裏SF創作講座について知ってしまいました。あなたは今からそこの扉を出ることでしょう。その扉こそが、裏SF創作講座へと至る扉なのでございます。そしてあなたは、この館でお聞きになられた話の数々をお忘れになって家路につくことになるでしょう。いつもの日常に戻ったあなたは、いつしか理由の分からない衝動を覚え、裏SF創作講座に作品を投稿したくなってくるはずでございます。それは、この館の七不思議とは一切関係はございません。それはすなわち、創作するということの不可思議そのものなのでございます。

そういえばわたくしの名前を申し遅れました。わたくしはあなたが裏SF創作講座に投稿した作品を読んで感想をお伝えする牧野大寧と申します。以後お見知りおきを。そしてさようなら、貴いお方よ。気をつけてお帰りくださいませ。




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