見出し画像

触れること、触れられないこと。

本日、東京は高円寺の奇所・円盤(否、昨日から黒猫)から、「ミツザワ通信増刊号」が届く。

これは、本ではない。黒猫店主・田口史人の言葉を借りると、ひとつのビニール袋にぎっしりと、マンガだの、散文だの、詩だの、ステッカーだの、CDだのが詰まっている雑誌。あえて製本することなく(一部、小説だけ中綴じがあるが)、雑に紙が詰まってるので「雑誌」というわけ。もちろん、自分も少し文章を寄せております。4/1に「やる!」って決めて、よくぞこれだけの文筆家や音楽家たちに1ヶ月でここまでの内容の代物を作れたなぁ、と思うけれど、ほとんどの人が自宅で何か発したい、発せざるを得ない状態になってるだけに、仕上がりもかつてなくハイスピードだった模様。それでも驚いた、まったく。プレスCD2枚も入ってるし(笑)。なおかつ、音のクオリティもめっちゃ高いし。これだけで価格分、余裕でクリア。

で、こちらに関しては、前回のnoteでも少し触れていたのだけれど、このカラーチラシ以外の印刷と製本を当方のhand saw press Kyotoでやらせていただいた。こういう時期なので、数人の人をスタジオに集めて印刷して丁合い〜ホチキス留めとかできないもので、もう、こっちもドドーンと中綴じ製本機を買った(もち、中古で)。

画像1

オムニバス・アルバム『so far songs』の制作を手伝ったのをスタート地点に、田口くんと知り合ってもう20年以上になる。盟友、というのとも違う。友人、というのも何か座りが悪い。同士……尾崎豊と斉藤由貴か(笑)。なんだろ、時折会って、「今、何考えてる?」ととつとつと話し、世を憂い、次に何しよう、と考える。もちろん、氏の知識とアイディア、行動力には常に驚かされるけれど、そのタイミングと感覚が、妙にシンクロすることが自分としてはうれしい。自分の店を始めたり、レーベルを続けながら出版へと少しずつ移行していったり、と。

去年の頭、車の中でぼんやりと、でも結構はっきりと話していた。たぶん、もうすぐ自分たちは東京を離れるだろうな、と。

そして夏、僕は京都へと移り住み、彼は年末に長野県の伊那へと移住を進めた。それは、「東京には仕事は多い。ただ依頼仕事をほとんどすることなく、作ったものを売るのであれば東京に居る理由はないよね」、そして「じっくりと腰を据えて制作をしたい」ということ。もちろん、2人とも、東京に店を残しながらの移住だった。

そんな彼と、3月の中頃に会った。話はもちろん、コロナによる自粛の話。そして、そこからつながるこの先の世界の話。今は大変だ。乗り越えられないかもしれない。でも、この先、必ず、次の場所に行けるから、と。だからこそ、今、僕らは、次の場所に行くために、モノを作り続けなくちゃならない、と。その最速の結果のひとつが、この「ミツザワ通信」だったのだろう。「モノ」としての強度、そして戦う姿勢がはっきりと見える、素晴らしいコンピレーションに仕上がっている。そして、ほんのわずかでもこの制作に関われたことを誇りに思う。

今、多くのミュージシャンたちが、演奏を行なう場所が見つけられず、ライブ配信を活動の場所にしている。日々、友人たちの元気な顔、少し悩んでる表情、新たに作った音楽を見れて、それはそれでとてもうれしいし、投げ銭なり応援をして、彼らの糧に少しでもなればな、と思っている。また、ネット上を新たな活動場所として、表現を行おうとしている人たちも数多くいる。皆、知恵を絞り出して、何かしら続けること、維持することを検討しはじめている。

数年前から、サブスクリプションによる音楽配信や映像配信、テキスト配信が進んで、今や、音楽を「単に聴くこと」、本を「単に読むこと」、映画や映像を「単に観ること」は、感覚的には「ほぼタダ」になっている。考え方によっては、今の文化と、過去の文化の歴史的資産を享受することに関しては、52歳の自分も、14歳の中学生のその息子も、同じように受けることができる。これは、考えてみれば素晴らしいことで、僕らがかつて「聴きたくて聴きたくて仕方がなかったけれど、レコードも高いし、どこにも売ってなくて聞けなかった音楽」をapple musicやspotify、bandcampにログインするだけで、24時間いつでも楽しむことができる。実際、新しい音楽に関しては、僕が逆に息子に教わる、ってことも決して珍しいことじゃなくなってる、この1、2年。自分が主宰するインディ・レーベル(compare notesっていうレーベルをやっています)に関しても、これまでずっとサブスクリプションに関しては距離を取っていたのだけれど、この時期にあえてアーティスト側の要望もあって、いくつか配信を始めた。

それでは、オススメのかえる目「街頭行進」をお聴きいただきましょう!

たぶん、この先、旧譜に関しては、どんどん配信を始めるつもりでいるわけで、自分の認識、感覚も変わったなぁ、と思う。特に、今のように自宅に籠もっている状態では、こうして音源をいつでも聴けるような状態にするのは必要なことではないか、と。ただ、それは、手に取れる、今風の言い方だと「フィジカル」なメディアが必要かどうか、という問いでもある。

数年前から、デジタルデータを運ぶためのCDの意味について、果たしてどうだろう、と思い、アナログ・レコードだったり、カセットテープだったりでのリリースを行ない始めた。それは決して珍しいことではなく、世界的な傾向。例えばアメリカでは、CDのリリースはないけれど、アナログ・レコードとダウンロードのみ、なんて作品の方が主流になっている。CDっていうメディアにこだわり続けているのは日本ふくめてごくわずか。そりゃ、タワーレコードも本拠地アメリカでは消えてなくなるわ、という話。

しかし、それ自体もここ数年で再び変わり始めている。「CDってクールだよね!」なんて風に(笑)。実際、2年ほど前に、アメリカでは、サブスクリプションが前提だけれど、販売に関しては、デジタル・ダウンロードに対してフィジカルが再び越えた、というデータがある。もはや、選択肢は、デジタルかアナログか、ではなく、そこに「実際に触れられるモノがあるかどうか」ということが、音楽を楽しむ上で大きな意味を持つ、ということになってきている。音楽だけでは、よっぽどのオーディオマニアでない限り、音質はサブスクリプションで十分、しかし、それ以上に、ミュージシャンをサポートするため、もしくは、音盤のモノとしての価値を愉しむために、今、音楽好きはレコードを買ったり、CDを手に入れたりしている。もちろん、そこに含まれるブックレットやパッケージも含めて、「作品」として愉しんでいるのだろう。

書籍も同様。読むだけでいいのだったら、ダウンロードの方が優れている部分も少なくない。ただ、それでも、手で持って、感じ、ちょいとカバンが重くなろうとも、フィジカルな「書籍」を手にするあの感じ、装丁を楽しみ、紙の肌触りを感じ、そして読みかけの残りページ数にいろいろ思いながら、も含めて、本を愉しむ、こと。もちろん、自分のように印刷もやっている人間にとっては、「よくぞ、こんな装丁をこんな値段で作らはったなぁ」だの「ここの綴り方、綺麗だなぁ」なんて面倒な輩の愉しみもあろうけれど、それはそれ。また、本やレコードは、「それを買う瞬間の愉しみ」みたいな、「所有のカタルシス」的なものもあるのかもしれないな、と思っている。あと、ライブやトークイベントで「あなたの作品のファンだから、あなたの活動を支援するためにもこの本やレコードを買うよ!」的なドネーションな気持ちももちろんある。情報を手に入れるためだけだったらwebで十二分、ただ、「文化」を愉しむこととは、作品と自分との関係性なくしては成立しない。

ダウンロードやサブスクリプション配信といった「形のないデジタル・データ」が基本の世の中になるがゆえに、実際に触れるもの、そして形のあるものへの希求が強くなっていく、ことはきっと誰もが理解できることだろう。もちろん、それは一部のマニアの愉しみなのかもしれないけれど、文化を愉しむことっていうのは、そういうマニアックな刺激がベースになっているのは間違いない。それはまた、人間の原初の歓びでもある。

そして、今、新型コロナの広がりによって、手に触りたくとも触れない時代が来てしまった。人と会いたくても会えない時代になってしまった。それでもコミュニケーションが失われるわけではないので、人はそれぞれ貪欲に、ZOOM呑みだったり、オンラインセッションだったり、テレビ電話だったりを繰り広げていたりする。でも、やはり、人間は人間。だからこそ、そこに「モノが在る」「触れる」「感じられる」という事実を、より強く求めるようになる、と思っている。

だからこそ、今、人が触れるもの、触ることで反応があるもの、触りたくなるもの、感じたくなるものが必要だと。そして、同じ「モノ」でも、商業製品ではなく、より「作品」として意味を持つ(価値がある、ではない)モノを作っていくことが必要だと思っています。そして、その「モノ」を介在しすることで、距離や時間を越えて、人は、再び、コミュニケーションの意味を確認するのだ。

もう、これまでの時代は終わり。新たなコミュニケーションの形へと、新たな創作へのステップへと、新たな場所へと向かうんだ。

そう思って、今日も、印刷機を回すとします。やることはね、実際、同じなんですが(笑)。

追記)
先程の「ミツザワ通信」ですが、まだ在庫、多少あります。京都市内程度であれば、車で直接お届けいたしますので、こちらまでご連絡いただければ嬉しいです。実は、昨日は3冊、直接配達してきました。ブックデリバリー、これもコロナ時代の基本かもしれないです(笑)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?