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白い暴動、を読む。

当初、4月の頭から全国で上映される予定だった、ドキュメンタリー映画『白い暴動』。結局、コロナの影響で公開予定の映画館が軒並み休館ゆえ、オンラインでのレンタル公開という形を取られたこの映画。当初は昨日5/15までだったのが、どうも今月いっぱいまで延びたこともあり、急いで観ることに。

この映画、ポール・シムノンが低い位置でベースを弾いてるかっちょいい後ろ姿が印象的なポスターとそのタイトルから、クラッシュの伝記映画と思われているかもしれないが、全然違う。いや、配給会社はそちらで売ることももちろん考えていたんだろうし、自分もそんな感じじゃないかな、と最初は思っていたんだけれど、主役はクラッシュをはじめとしたパンク・バンドでも、10万人集まった巨大イベントでもなく、今は名もなき、数人のzine制作に携わる若者たちだった。

ロック・アゲインスト・レイシズム(RAR:差別主義に反対するロック)とは、そのzine『Temporary Hoarding』を制作する団体であり、1977年当時、イギリスを席巻し始めた、移民を排他しようとする極右団体ナショナル・フロント(NF)に正面から向き合った小さな出版社でもある。彼らは、zine制作を中心にイギリス国内にネットワークを拡げ、レイシストに対して実部隊としてカウンターを続けた。そして、その最大の盛り上がりが、1978年4月30日に、ヴィクトリア・パークまでデモを続け、最終的に10万人まで膨れ上がった大イベントだった。当初、警察には「500人来るかどうか?」と伝えていたにもかかわらず。余談だが、このときのデモのやり方(サウンドカーやパーカッション隊の導入)は、今の日本におけるアンチ・レイシズム・デモのテキストに確実になっている。(追記:ここでの「ルイシャムの闘い」に関しては、野間易通さんとヨコチンさんのこの対話で、詳しく説明されています。ヨコチンさんにはこの資料も送ってもらって読んだのですが、本当に日本でこれについてはほぼ語られていないのが現実です)

このデモ〜イベントに関しては、当時、そんなものがあった、噂としては聞いていた。たしか、「Rockin' On」に、分かってるのか、分かっちゃいないのかな言葉で書かれていた、ような記憶が。でも、なんかよく分からない。インディペンデントで行ったパンク・イベントが若者を10万人集めた、と。それが政治的なものだった、と。ただ、当時の自分(だって中学生だぜ!)にとっては、その全貌がまったく見えてはいなかった。なんだよ、レイシズムって? 黒人に対する差別のこと? いや、移民ってなんだ? 労働者階級? なんでイギリスでジャマイカのレゲエが当たり前のように奏でられてるんだ? 分からない分からない。そりゃ、分からない。音楽聴き始めの自分は、パンク自体、何か分かりもしなかったんだから。アメリカのニューヨーク・ドールズはグラムだし、ラモーンズは「ワン・ツー」って始まってやったら同じ曲に聞こえるし、ピストルズはなんかウニャウニャ言ってるし、クラッシュはロックンロールとどこが違うんだ? あと、トム・ロビンソンって、誰だ? 人間風車(それはビル・ロビンソン)か? 実際、耳にしてみたら、なんだかもうイカしたポップ・ロックみたいな感じじゃないか? なんで、コレがパンクなんだ、と。

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ただ、なんだかジャケットがカッコいい。戦う感じじゃないか! 「暗闇の中の力」って! このころ、トム・ロビンソンがゲイであることを公言しているのは知っていたはず。そういうマイノリティ(って言葉は知らなかったけれど)の戦いなのか? よく分からないけれど、歌詞を追ってみた。

Power in the darkness 暗闇の中の力
Frightening lies from the other side あっち側からの震えがらせる嘘
Power in the darkness 暗闇の中の力
Stand up and fight for your rights あんたの権利のために立ち上がって戦え!

震えた。「俺、アナーキストじゃーん!」って云われてもなんにも感じなかったけれど、これには震えた。そうか、言葉こそがトム・ロビンソンの力なんだ、と。拳を振り上げる理由があるんだ、と。もちろん、中学生の自分には、勉強机に置かれたランプシェードの中に、マジックで「Power in the Darkness」と書き込むくらいしかできなかったけれど。

そこまでが精一杯。自分は、彼らが何と戦っているのか、やっぱり見えなかった。大阪の郊外の巨大な団地暮らしの自分には、ロンドンは遠く。もちろん、大阪の郊外ということもあり、人種差別、特に在日差別や部落差別に関する話は日常的にあったけれど、それが何かしら大きなデモや戦いになることはなかった。ちょっとした小競り合い、ケンカ、程度。それで暗黙の了解、みたいな。

しかし、40年経った今、この国で、レイシズムが一気に顕在化しているのがはっきりとわかる。在日、韓国/朝鮮人や中国人に対する差別感情、アホみたいな嘘の上に立った国家・民族主義、そして、そこから派生するレイシストたちの我が物顔の行動と扇動。そんな輩と向き合うために、現場、そしてネット上で「カウンター」としてひとつひとつ潰していくという方法論。デマや中傷と向き合いながら「無関心」を装って、それらすらなかったことにしようとする社会に対して、現在のこの状況をどう伝えていけばいいのか、それを日々考えながら、悶々としつつ。また、今、現在、デモやカウンターという方法論は、このコロナの状況下では、ネット上以外で行使することができないジレンマも含めて。

今から40年前、ロンドンの若者たちは何を考え、何を行なったのか? この映画には、それがしっかりと記録されている。

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主役の一人とも言えるレッド・ソーンタズは、ロック・アゲインスト・レイシズムを立ち上げ、音楽誌を主戦場に、抵抗の言葉を紡ぎ始める。NFとつながろうとしているエリック・クラプトンやデヴィッド・ボウイを批判し、そして、自分たちの会報誌として、『Temporary Hoarding』を制作、それはzineをただ作るということではなく、作り、それを流布していくことによって、多くの同志たちと繋がっていく、ということだった。

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レッドの投稿を読んだケイト・ウェブは、したためた手紙をRARに送り、そしてレッドから「仲間に」と誘われ、共に『Temporary Hoarding』を制作し始めることになる。もちろん、携帯電話もSNSもない時代、同じように、どんどん送られてくる手紙に、彼らは真摯に向き合い、そしてイギリス〜ヨーロッパ各地に自分たちならではのネットワークを拡げていく。

このインタビュー箇所でなにより嬉しいのは、彼女が活版印刷機の前でインタビューを受けている点。たしか他のスタッフも職業が「印刷工」とあった気がする。あれから40年経ってなお、彼らは音楽、出版、そして印刷自体に関わりながら生きているという事実であり、決してあちら側に吸収されなかったという証明でもある。

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エスタブリッシュされた出版社での経験ではなく、出入りしていた印刷屋でカメラマンやデザイナーと知り合い、情熱と志だけで本を作っていく。作る必要があるから作る。そして、自らデザインしたポスターを刷り、壁に貼る。火炎瓶を投げなくとも、ギターを持たなくとも、強力なペンの力を持たなくとも、このインクの匂いが鼻につく場所から始められる抵抗行動があるのだ、そして続けることができるのだということを教えてくれる。

もちろん、今の僕は彼らのようにはなれるわけもない。ただ、自分が今、印刷に携わって、zineやポスターを日々印刷していること、そして、実は左京区・浄土寺界隈でCRASS的な連帯をこっそりと始めていること、インディペンデントやD.I.Y.にこの30年の間こだわり続けていることは、RARが向き合ってきたこととほんの少しでいいから地続きであって欲しい、と願っている。また、この数ヶ月心の中にあった鬱屈した思いが一気に晴れていく感じ、それは「闘う」ことがある今の自分、そしてそのための武器も手に入れている状況なのに、ぼんやりしている場合じゃない、とはっきりと思えたから。

そして、それ以上に、このオンライン・レンタルを14歳になる息子と共に夢中になって、ドキドキしながら観ることができたことが心から嬉しい。彼にとってはきっと退屈な部分も多かっただろうし、分からぬことも多い(隣で延々といい気になって解説しているオヤジがいるものの・笑)のだろうけれど、それでも、何か思うこと感じることはあったよう。自分がクラッシュやトム・ロビンソン、ラモーンズに出会い、パンクミュージックの洗礼を受けたのは、彼の歳のころ。あのときの何かが始まるような感覚が少しでも彼に分かってもらえれば、と思う。

知らなかったこと、過去と未来、さまざまな出来事がつながる瞬間が、たまらなくうれしい。







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小田晶房:渋谷鶯谷町のなぎ食堂店主/東京と京都のリソグラフスタジオhand saw pressを運営/インディレーベルcompare notesを主宰/出版レーベルmapの構成員。執筆や編集も行っており、自著に「渋谷のすみっこでベジ食堂」「なぎ食堂のベジタブルレシピ」他、がある。
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