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Stories of Chai - 銀山温泉

Stories of Chai ー インドのChai(チャイ)は甘くておいしいミルクティ。そのチャイを囲みながら語られるのは、私たちの心に響いた、とっておきのストーリー。これからお話しするのは、そんなお話のひとつです。

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2017年の2月、私は地元仙台の街中にある、とあるゲストハウスで住み込みスタッフとして働いていました。私のメインの仕事はゲストハウスのお掃除とベッドメイキング。毎日、朝10時のチェックアウトの時間から大体午後の2時まで、私は黙々とお布団を干したり、掃除機をかけたり、トイレやシャワー室を掃除したりして過ごしました。


仙台は東北地方の交通のハブなので、私の働いていたゲストハウスにも、毎週のように全国各地はもちろん、海外からもたくさんのお客さんがやってきました。彼らと交流する中で、私は自分の故郷である仙台の街や東北の見どころについてたくさんの新しい発見をすることができました。

特に、海外からのお客さんは旅の日程の組み方が大胆で、数週間の日本滞在間に、北は北海道から南は九州まで巡る人がたくさんいてびっくりしました。彼らの多くが利用するのが、JRが海外からの訪問客用に売り出している、Japan Rail Passという周遊きっぷ。この切符を使うと、新幹線の自由席が期間中は乗り放題なので長距離の移動もだいぶ楽にできるというわけなのです。

ある時、このゲストハウスにフィリピンからの若い旅人がやってきました。予約表によると、数日間とちょっと長めの滞在です。私は日中、部屋の掃除で客室を回っているときにこの方とすれ違うことが何度かあり、会う度に私は「昨日はどこに行ったの?」とか「今日はこれからどこへ行くの?」と尋ねました。返事は毎日様々で、「昨日は蔵王のキツネ村に行ってきた」という日もあれば、「昨日は青森を見てきた」という日もありました。毎日、別の県に行っては帰ってくるので、私は思わず、「東北地方ってそんなに小さかったっけ?」と首をかしげてしまうほどでした。

短い会話の間にこの方はいつも旅先の感想も伝えてくれたのですが、ある日の旅の報告は中でもひと際印象に残りました。

いつものように私が「昨日はどこに行ってきたの?」と尋ねると、このフィリピンからの旅人はたいそう興奮した様子で、

「銀山温泉に行ってきた。」

と答えました。銀山温泉といえば、かの「おしん」にも出てきた山形の山奥にある有名な温泉です。好奇心に駆られ、私が「それで、どうだった?」と尋ねると、彼の目がまるで大トトロのように大きくなって、キラキラと輝きだしました。

「素晴らしかった。」

と言って息を呑むと、

「露天風呂に入ったら自分の他には誰もいないんだ。そして、辺りは一面の雪景色。月も見えて、まるでこの世のものとは思えなかった。」

と夢見心地で話しました。

以来、冬の銀山温泉は私の夢です。そして、銀山温泉のことを思い描く度に、私はあの時のフィリピンからの旅人のキラキラと輝いた目と感動のため息を思い出すのです。

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