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記憶には 残らぬ今日を生きている

普段は本棚の中にしまってあって、ときどき出してはしみじみ読む本がある。
絶対、家族がいない時にしか読まない本だ。

俵万智さんの、『生まれてバンザイ』。

これははじめての子どもである娘が生まれて、お宮参りのために義実家に集まった時に義母が夫に渡した本なのだけれど、今や夫よりわたしが大切にしている。

渡してくれた時、「いまはまだわからないかもしれないけど、そのうちわかるようになるから」と言葉を添えてくれた。

はじめての育児で、実家に身を寄せつつも不安でいっぱいいっぱいの最中にいたわたしは、最初の一句でノックアウトされた。

そうだバンザイ
生まれてバンザイ

赤ちゃんの寝ている時の姿勢。
グッと握りしめた手を高く上げた、あの可愛らしくも見慣れた姿。
それが「バンザイ」と言われれば本当にそう見えてきて、娘のバンザイを見ていると涙がでてきた。

生まれてきてくれてありがとう「バンザイ!」とわたしは思う。
娘が無事生まれてきたよ「バンザイ」かもしれないとも思う。
とにかくバンザイ。
ここにいてくれてバンザイ。


娘は年中。
我が子ながら滑舌もよく、姉からは「小学生と話してるみたい」と言われるほどおしゃまに育った。オムツもさようならして、もう、赤ちゃんの面影はない。


『生まれてバンザイ』は、お腹の中で息子さんを育てている妊娠中から、幼稚園児期になって成長した息子さんを少し寂しく、頼もしく、やっぱり可愛らしく思う様子までが収められている。

「ああ、あの日のわたしみたい」とか、
「そんなふうに思ったことなかったな」とか。
共感したり、自分にはない素敵な見方に感嘆したりしながら、いつ読んでも泣いてしまう。

自分はこんなに愛情たっぷり娘の姿を見つめてきただろうか。
たくさんたくさん、これまで見落としてきた成長があるのかもしれない。
もうこんなに大きくなってしまった。もっともっと、小さな二度と帰ってこないこの小さな子を大切にしなくちゃ。

俵万智さんの優しい文体から伝わる温かい気持ちと、重ねて子どもたちを愛おしく思う気持ちと、自分への反省で涙が止まらなくなる。

だから、1人の時にしか読まない。むしろ、読めない本なのだ。


そして、散々泣いて毎回思う。
「わたし、ちゃんと子どもたちを愛してる」


めちゃくちゃ腹がたつこともあるし、きつくきつく叱りつけることもある。
自分に余裕がないと、身勝手にイライラしてしまうこともしょっちゅうで、その度に自己嫌悪になる。
こんなひどい人間が母親で、子どもたちがかわいそうだと思うし、こんなことができるなんて愛情がないんじゃないかと自分を疑うこともある。

でも、とても子どもたちを愛している。
かれらがいないところで、かれらを想って涙が止まらなくなるほどには、とても愛している。

先日、仕事の帰りに車を運転していると、制服を着た可愛いカップルを見つけた。
その時突然、「ああ、うちの子たちもいつかあんな日がくるんだな」と、そのカップルと我が子たちが重なって見えた。
いつかそんな日が来た時、相手を本当に大切にできる子に育って欲しい。
そのために、相手も自分も大切にする、ということを教えられる親になりたいと、自分の方向性ができた気がする。

息子の夜泣きにへこたれて、娘の口達者に参ってしまい、なんだか体が重いようなそんな今日。
『うまれてバンザイ』を読んで、やっぱり涙が止まらなくなっている。

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