EUの有機農地は9.1%どまり



欧州連合(EU)は2023年1月18日、2020年の加盟27カ国の有機農業の栽培面積は前年比7%増の1472.5万ヘクタールだったと発表しました(1)(2)(3)。農地全体に占める割合は9.1%と、0.6ポイント上昇しました。EUは「ファーム・トゥー・フォーク(F2F、農場から食卓まで)戦略」で、有機農業の面積の割合を2030年までに25%に増やすという野心的な目標を掲げています。順調に増えてはいるものの、年0.6ポイントの伸びでは2030年に15%程度にしかなりません。目標を実現するには、このペースを加速できるかがカギとなります。

EUの有機農業栽培面積の割合の推移(EUの発表資料より)

有機農業は、農薬や化学肥料、遺伝子組み換えを使わないで作物を栽培したり、家畜に抗生物質など薬物を投与しないで飼育したりする農業です。有機農業と認められるためには、作物によって1~3年程度の転換期間が必要となります。認証が得られれば、ロゴなどで有機農産物であることをアピールして販売ができるようになります。

2012~20年で、EUの有機農業は年平均で5.7%増え、この8年間で50%以上増加しました。有機農業の研究機関FiBLと国際有機農業運動連盟(IFOAM)の調査によると、2020年の全世界の有機農業面積は7490万ヘクタールなので、EUが占める割合は19.7%ということです。有機農業の5分の1はEUで行われていることになります。

なお、EUが引用したFiBLとIFOAMの調査によると、2020年に有機農業面積が最も大きかったのはオセアニアで、3590万ヘクタールと、全体の48%を占めました。ほとんどはオーストラリアです。欧州は1710万ヘクタール(シェア23%)と地域別では2位でした。このほか、中南米が990万ヘクタール(13%)、アジアが610万ヘクタール(8%)、北米が370万ヘクタール(5%)、アフリカが210万ヘクタール(3%)となっています。

EUの発表に戻ると、EUの中ではフランスが12%増の251.7万ヘクタールと最も多く、スペインを抜いて首位に浮上しました。この8年間で平均12%の伸びとなり、有機農業が急拡大しています。スペインは4%増の243.8万ヘクタール、3位はイタリアで5%増の209.5万ヘクタールでした。4位ドイツは23%増の159.1万ヘクタールと猛追しています。これらの上位4カ国でEU全体の59%を占めました。

全農地に占める有機農地のシェアをみると、オーストリアが25.3%と最も大きく、エストニアが22.4%、スウェーデンが20.3%と既に20%を超えてています。これに対し、マルタはわずか0.6%、アイルランドも1.7%にとどまり、EU加盟国の間でとても大きな開きがあります。

1472.5万ヘクタールとなった有機農業面積の内訳をみると、42%が永久草地となりました。これは家畜の飼育のために使われ、スペインとフランス、ドイツの3カ国でほぼ全体の半分を占めています。このほか、青刈り飼料が17%、穀物が16%、果物やオリーブ、ブドウ園などの永続的作物が11%と続きます。畜産では有機農業への移行が遅れており、2019年時点で有機飼育の牛は6.0%、羊や山羊は7.2%にとどまりました。

有機農業のメリットとしては、農薬など作物保護製品のコストを従来の農業に比べて1ヘクタール当たり75~100%、肥料のコストを45~90%削減できたと指摘します。より多くの人手が必要になることもあり、単位面積当たりの収量は減少するものの、高い価格で販売することができるほか、共通農業政策(CAP)などで手厚い支援が得られるため、農家1人当たりの収入は従来の農業と同じぐらいか高いと分析しています。また、2020年の有機農産物の市場規模は、2015年のほぼ2倍になったということです。

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