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ニュージーランドの「げっぷ税」、導入を2025年末に延期

オコーナー農業相=ニュージーランド政府ウェブサイトより

ニュージーランドのダミエン・オコーナー農業相は2023年8月18日、牛や羊に課税する「げっぷ税」について、2025年1~3月期としていた導入時期を同年10~12月期に延期すると表明しました。牛や羊が排出する温室効果ガスのメタンを削減するのが狙いですが、農業界は「畜産の生産が減少する」と猛反発しています。導入を遅らせることで妥協を図る狙いですが、農業界は依然として反対しており、先行きは不透明なままです。

ニュージーランド政府は2022年10月、げっぷなどを通じて温室効果ガスを多く排出する牛や羊に課税するという世界初の試みを行う方針を発表しました。現地からの報道によると、同国は人口は約500万人であるのに対し、牛の飼養頭数は約1000万頭、羊は約2600万頭に上ります。農業部門が温室効果ガスの国内排出量のほぼ半分を占め、多くがメタンだということです。

これに対し、「フェデレーテッド・ファーマーズ」などの農業団体は、新税が導入されれば、肉牛や羊の飼養頭数が20%、乳牛も5%減るとの政府の試算を紹介した上で、「ニュージーランドから多くの農場が奪われる」と猛反発しています。温室効果ガスの排出規制が強化されるニュージーランドの畜産生産が減る一方、規制が緩い国の生産が増え、世界全体では温室効果ガスの排出量が増えるとも指摘しています。げっぷ税構想を打ち出したジャシンダ・アーダーン首相は2023年1月に突然辞任を表明し、クリス・ヒプキンス氏が新首相に就任しましたが、「げっぷ税」構想は受け継がれています。

野党・国民党は6月12日、新税の導入を2030年まで遅らせるとともに、温室効果ガスの排出削減に向け、ゲノム編集や遺伝子組み換えを解禁するなど、技術開発を積極的に進める計画を打ち出しました。10月14日の総選挙をにらんだものです。農業界は国民党の案に一定の評価を示しています。世論調査では野党・国民党が優勢で、与党・労働党は劣勢だと報じられており、ヒプキンス政権には危機感が強まっているようです。

オコーナー農業相は8月18日の発表で、「ヒプキンス政権は農業界と協力し、農業からの排出を削減する最終計画を策定した」と宣言した上で、導入を2025年10~12月期に延期することを明らかにしました。農家が植林などで温室効果ガスの排出削減に取り組めば、排出量取引制度を通じてメリットを受けられることも表明しました。

農業相は声明の中で、「農業からの排出を管理し、価格を設定するシステムは、実行可能で、効果的で、長続きすることが重要だ」と強調しました。その上で、「だからこそ、われわれは農家が準備し、情報を入手し、十分なサポートを受けられるように、実施に向けて慎重な方法を採っている」と説明しました。また、農場からの温室効果ガス削減に向け、政府は3億ドルを投じて、技術開発などに支援に取り組むとしました。

しかし、フェデレーテッド・ファーマーズは、「政府の計画は『音痴』だ」と厳しく批判しています。羊肉価格や乳価の下落で農家の生活は苦しくなっており、「農家が頭を抱え、支援を求めている時に、不確実で複雑でコストを背負わされることになる」と訴えています。

畜産団体「牛肉+羊肉ニュージーランド(B+LNZ)」も「失望した」とコメントしています。「排出削減に向けて順調に進んでいるのに、価格を設定する正当な根拠はない」と課税に反対しています。

世界初となるげっぷ税構想の行方は、10月14日の総選挙の結果に大きく左右されそうです。野党・国民党も導入自体には反対しておらず、開始時期をいつにするかや、農家への支援策をどうするかといった点が焦点になりそうです。

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