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世界の漁業生産は過去最高の1億8540万トン 養殖が初めて漁獲を上回る

国連食糧農業機関(FAO)が6月7日に公表した「世界漁業・養殖業白書」(SOFIA)によると、2022年の世界全体の漁業生産量(藻類除く)は1億8540万トンと、2年前に比べ4.5%増え、過去最高を更新しました。漁獲漁業が1.3%増の9100万トンにとどまったのに対し、養殖業が7.6%増の9440万トンと大きく伸び、初めて漁獲漁業を上回りました。中国やインドなどアジアを中心に養殖業の拡大が鮮明になっています。

世界の漁業生産の推移(世界漁業・養殖業白書より)

養殖業の生産量は1990年代には平均で年2180万トンだったので、この25年ほどの間で4倍以上に急増したことになります。2022年の内訳をみると、中国が5288万トンと、全体の56%を占め、圧倒的なトップとなっています。2位以下は、インドが1023万トン、インドネシアが541万トン、ベトナムが516万トン、バングラデシュが273万トンと続き、アジア勢が上位を独占しています。
 
地域別にみると、アジアが8340万トンと全体の9割近くを占め、米州が496万トン、欧州が350万トン、アフリカが232万トン、オセアニアが24万トンとなっています。水準には大きな開きがあるものの、いずれも2年前より増えており、養殖業の増加は世界的な傾向となっています。
 

世界漁業・養殖業白書より

一方、漁獲漁業の生産量は1990年代以降、9000万トン前後とほぼ横ばいで推移しています。乱獲や気候変動の影響などで漁獲の伸びをあまり期待できない中、増加する食料需要を満たすため、新興国や途上国は養殖に力を入れてきたことが分かります。ノリなど藻類の2022年の生産は3780万トンとなり、これも加えると、世界全体の漁業生産は2億2320万トンとなりました。
 
漁獲漁業の内訳は、海洋が7971万トン、内水面が1132万トンとなりました。海洋漁業の首位も中国で、2022年は1182万トンとなりました。中国の漁獲量は1980~90年代に急増しましたが、2000年以降は1200万トン前後の横ばいで推移しています。2位以下は、インドネシアが684万トン、ペルーが523万トン、ロシアが471万トン、米国が424万トン、インドが360万トンと続きます。
 
日本は289万トンで、9位となりました。1980年代は平均で年1059万トンを漁獲し、圧倒的な世界トップでしたが、漁業大国としての存在感は薄れています。
 
日本の農林水産省の統計によると、2023年の日本の漁業生産は前年比4.9%減の372.4万トンと、3年連続で前年を下回り、過去最低を更新しました。世界全体では過去最高となるのとは対照的です。漁獲漁業が4.3%減の284.5万トン、養殖業が6.9%減の87.9万トンと、いずれも低迷しています。漁獲漁業の低迷は世界的な傾向であるとしても、拡大が続く養殖業も日本は低迷しており、世界で一人負けの様相です。
  
FAOの白書に戻ると、2022年の世界全体の漁業消費量は、食品向けが2年前に比べ4.6%増の1億6460万トン、飼料や油などその他が3.5%増の2080万トンとなりました。食品向けは1990年代から倍増しています。1人当たりの平均消費量は20.7キログラムと、1990年代の14.1キログラムから4割以上も増えました。
 
FAOは、所得の増加や都市化によって1人当たりの漁業消費量は今後も増加し、2032年には21.3キログラムになると予測しました。需要の増加に対応するため、漁業生産も増え、2032年の漁業生産量は2億0500万トンと、2022年比10%増えると見込んでいます。内訳は、養殖業が17%増の1億1100万トン、漁獲漁業が3%増の9400万トンで、養殖のシェアが一段と高まると見ています。
 
FAOの屈冬玉事務局長は白書の公表を受け、「これまでの大きな成果を歓迎する」としつつ、持続可能な漁業・養殖業の実現や食料不安の解消に向け、「さらなる変革が必要だ」とも強調しました。その上で「だからこそFAOは、生産や栄養、環境、生活を改善し、誰一人として取り残さないように、『ブルートランスフォーメーション』を提唱している」と説明しました。
 
白書によると、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、FAOはブルートランスフォーメーション」として、養殖業での国際協力や技術革新、効率化、環境汚染の防止などを後押ししているということです。

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