3724年、楽器店にて

 いらっしゃいませ。ゆっくり見ていってください。最近じゃ楽器なんて売れませんから、専門店に来る人は少ないんですよ。
 何をお探しです、アナログギターですか? えっアナログ喉頭? お客さん変わってますね。わざわざ付け替えるんですか。

 アナログ喉頭には5種類あります。上からソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バスです。アナログ楽器ではおなじみの、音域でサイズが違うやつですね。「性別」なんてものがあった時代の名残です。
 ここまでは簡単ですが、喉頭は初期起動からタイマーで楽器が変化していきます。男性タイプの3種類・テノール、バリトン、バスは10年くらいで「声変わり」といって音域が一気に低くなります。最初の10年は女性タイプがガール、男性タイプがボーイと言って両者とも大きく変わりません。
 寿命は60年くらいです。短いですね。。メンテナンスも大変です。まあ80年くらい使えなくもないですが…ゆるやかに劣化していきます。でもそこが刹那的な味わいがあるんですよ。10年なんてすぐですよ。昔の人類の「寿命」を追体験できる楽器でもあるんですね。面白いですよ。最初の数年は幼少期といってサイズが小さく、さらに音域は高いです。
 声変わりがないソプラノ、アルトも40年くらいするとゆるやかに低くなっていきます。この微妙な変化がいいんですよ。女性タイプ、男性タイプとも、なんでこんな不便な楽器を使っていたんでしょうね。いやまあ、昔のボディ、人体がそうだったんですけど、謎ですよね。

 鳴りの良さ、硬さなどの個体差がけっこうあります。これは不良ではなく意図的にそうなっています。個性が出るんですね。ハズレ個体を引いてしまっても、改造…トレーニング、という言い方になりますがなんとかなります。演奏技術じゃなく楽器を「トレーニング」するんです、面白いでしょ。ペットのように、愛を持って育てる感覚です。
 それと喉頭以外のボディの影響も受けるので、お客さんのボディタイプによっても音は微妙に変わってきます。これはアナログギターの「音作り」に似ています。中には音作りのため、ボディ改造に走るマニアもいるとか……。

 初心者にはソプラノがおすすめですが、声変わりする男性タイプが面白いですよ。どうせ不便なんですから。同じ音が出せるのが限られた期間しかないので、逆にモチベーションは上がりますよ。あ、そうです。よく動画で上がってるタイトルの前後にカッコ書きで【25年】とかいうのは喉頭の年齢です。
 バリトンにしますか、お買い上げありがとうございます。保証期間は一応100年ありますが、製品寿命の方が先に来るので初期不良以外はあまり関係ないです。それではよい音楽ライフを!