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雨の匂い

埃が混ざった匂いなのかな。

母に、雨の日は雨の匂いがすると言ったら、こんな風に返ってきた。

会社を出ると、雨がパラパラと降っており道路はびしょ濡れ、ついさっきまで土砂降りだったのだろう。ムッとする空気と一緒に、雨の匂いが私を襲ってくる。かと言って、これは嫌いな匂いではない。むしろ心が静かになっていくので、好きである。

ある雨の降る夜のことである。電車を降りると雨が降っており、私は傘を持ち合わせていなかった。まあまあ降っていたので、これは厄介。この日、自分の将来を考えてナーバスな気持ちで帰ってきた。都合良く雨も降ってしまって少し寒い、ツイてない。しかし私はカメラを持っていた。そう言えば、雨の日を撮影しようと考えたことがなかったな。雨を浴びながら、将来に怯えながら、街灯の下で一人、雨に打たれながら撮った。

知らぬ間に大きくなっていく不安な気持ちは、雨によって溶けていく。フツフツとした熱が、雨で冷めていく。

雨の匂いがすると、私は落ち着いて景色を見ることができる。

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