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乳のはなし

 以前星野源のオールナイトニッポンを聴いていたら、ネガティブにならない新しい「貧乳」の呼び方が「ぷちち」に決まったと話していた。
「ぷちち」・・・なんと可愛らしい音の響き。小さいながらも張りがあってみずみずしい響き。感度も良さそうだ・・・。
その時はそんな感想を持ったのだが、数日後、半分居眠りしながらの朝の通勤途中で、不意に「ぷちち」という言葉が頭の中に現われ、なんだか
「ふふふ」
っと幸せな気持ちになった。素敵なイメージと音は、人を幸せにするのだな、と思った。
 ところで、自分の乳はというと、自分で言うのも何だが、身体が小さい割にでかかった。肩こりも身体に見合わない乳のせいなのでは、と思ったりした。学生の頃は走ると妙に幅をきかせる胸がいやで、小さくなってほしいと、「ぷちち」の女性から総スカンを食らいそうなことを思っていた。
 ところが、結婚して子供を3人授かったことで、この自分にとってちょっとコンプレックスだった乳が俄然役に立つようになった。
なぜなら、子供は3人とも母乳好きで、白湯も粉ミルクも口から吐き出す子供だったからだ。べろんと胸を出せばすぐ食事が与えられる便利さも相まって、乳離れするまでオール母乳で子育てをした。さらに、これがまたビックリするほど母乳が出た。武士の時代なら乳母になれるな、と内心思ったくらいだ。
 ところが、調子に乗ってめったやたらに母乳を与えていたら、なんと3人目の子が乳離れすると、乳がスカスカになってしまったではないか。今まで、掴むとふんわりしていたぬいぐるみの中身の綿が、ペチャンとなってしまったように、フニャンフニャンなのだ。そう、あのドリフターズの志村けんがやっていた、胸にストッキングを着けたようなタレ乳は結構リアルだったのだ。
 おかげで乳がん検診のマンモグラフィーはぜんぜん苦痛ではなくなった。むしろ驚くくらいぺっちゃんこになる。ブラをしなくてもカップ付きシャツで事足りるようになり、サイズがなくてお高いブラジャーを買っていた頃より経済的だ。何よりも、ちょっとたれた自分の乳を見ると、チュウチュウと満足げに乳を飲む3人の子供たちの顔が思い出される。情けなく垂れ下がった乳だが、なんとなく誇らしく愛しいのである。


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