【アイナナ4部考察番外編】TRIGGERと3つの仮面(ネタバレ)
久しぶりにアイナナの考察記事を書く。
なぜこのタイミングかといえば、6月から確実にTRIGGERシーズンに突入するからである。2ndアルバムの発売、アニメ3期の放送、オンラインライブ、記念日…ちょっと考えただけでも大変だ。嬉しい悲鳴である。
この機会に、かれこれ3年ほど推しているTRIGGERというグループについて、再考してみたくなったのである。テーマは「仮面」だ。
タイトルには入れなかったが、内容としては「血と家から考える~」シリーズに近い。
いつも通り、ネタバレと妄想を多分に含むため、不快感を覚える方は引き返していただいたほうがいいと思う。
過去の考察記事と重複する部分も多くあるので、冗長になるかと思うがご容赦いただきたい。
1.仮面(ペルソナ)
アイドリッシュセブンという作品において、アイドルとしての顔と、普段の顔、というのは重要なテーマのひとつであるように思う。
とはいえ、じっくり振り返ってみると、そこには位相差がかなりあることに気付かされる。
例えばアイナナの場合。
確かに、ナギは王子であることを隠してアイドルをしていたし、二階堂大和も大物俳優の血筋であることを隠してアイドルをしていた。
しかし、それはペルソナ(社会に適応しようとしてつくった人格)とまでは言えないのではないかと思うのだ。
なぜなら、上記2つの事情が解決したあとでも、ナギも大和も、アイドルとしての個性に変化はなかったではないか。普段の性格と、アイドルとして見せる性格に、そんなに差があるとは思えない。
唯一あるとしたら、和泉一織くらいである(かわいいもの好き/クール)それだって、別に大した問題ではない。
Re:valeにしたって、どんな過去を抱えて居ようと情緒不安定だろうと、そこまで表と裏で性格が変わるわけではない。
やはりこの「仮面」が大きな問題となってくるのは、TRIGGERなのである。
しかも彼ら3人の場合、それはアイドルにまつわる表と裏の顔に限った問題ではない。もっと根深い、それこそ「血」と「家」の話に繋がってくるのである。
これ以降、私が考える限りでのことになるが、TRIGGERが持つ3つの仮面を通して。5部以降の展望なども考察していきたいと思う。
2.アイドルとしての「仮面」
TRIGGERをご存じの方であれば、ここでわざわざ確認するまでもないことだが、一応整理しておこう。
【九条天の場合】
アイドルとしての表:天使
アイドルとしての裏:完璧主義、冷血ハリネズミ
【八乙女楽】
アイドルとしての表:抱かれたい男No,1、役どころはクール系
アイドルとしての裏:熱血系リーダー
【十龍之介】
アイドルとしての表:エロエロビースト(笑)
アイドルとしての裏:温厚、純粋、いろいろと「不慣れ」
ひどい略し方になってしまったが、だいだいこんなところである。
アイナナや他のグループに比べて「ギャップが激しい」のは間違いない。そしてこれらのギャップを作り出したのは、彼らの生みの親である八乙女事務所である。それに従順にしたがってしまうあたり、TRIGGERのある意味でのまじめさ、のようなものが見える。
このキャラづくりに関しては、九条天は完全に割り切っている雰囲気であるものの、八乙女楽は不自由さを感じ、十龍之介は困惑・苦悩している、という状態だ。
3.非アイドルとしての「仮面」
ここからが本題である。
アイドルとしての仮面のギャップが激しいために見落としがちだが、彼らが「アイドルをやっていなくても、仮面をつけている」ことは、とても重要だと思うのである。
一人ずつ確認していこう。
【九条天】
①七瀬天としての自分
②九条天としての自分
…養子縁組に伴う「家」の移動。これに尽きるといったところである。名前が違うだけで別に人格は同じだろう!というご指摘があるかもしれないが、「誰が親なのか、誰の兄なのか」というのは、やはり大きな違いである。ふるまいも違ってくるだろう。
なぜ天は「九条」になったのか。今一度確認しておこう。2部でアイナナ寮を尋ねてくる場面である。
「父さんの店がお客さんを楽しませる責任を忘れたからだ」
言い換えれば、七瀬姓においては「完璧」は求められていなかったのに対し、九条姓では「完璧」が求められるということでもある。もともと九条天は完璧主義者だったのだろうが、それを周囲も求めるかどうかは大きな違いだ。
「完璧なアイドル=ゼロ」しかもとめない九条姓になったことで、天には余白や隙間がなくなってしまった。だから、「野良」になるまで泣くことさえできなかったのである。もちろん、アイドルとしてでなく、一個人として泣くことだってできなかったはずだ。
【八乙女楽】
①山村楽としての自分
②八乙女楽としての自分
…両親の離婚に伴う「家」の分裂、とでも言おうか。彼の場合はとてもわかりやすく仮面をかぶっている。そうだ。「蕎麦屋」だ。
八乙女楽がこの二つのアイデンティティに揺らぐ様子もまた、2部でアイナナ寮にくる場面から読み取れる。
紡に対して、まずは「八乙女楽、好き?」と聞き、次に「なら、ただの蕎麦屋は?」と問いかける。
つまり、八乙女楽の中では「山村」も「八乙女」も共存しているということなのだ。vibrato中にも出てきたが、楽はTRIGGERの仕事を終えたその足で、山村蕎麦屋を手伝いに行く。まるで、「自分自身を確かめにいくルーティーン」であるかのように。そして「大真面目に八乙女楽をやっている」のである。
九条天との違いは、「どちらか一方の自分を「捨てて」しまっているかどうか」である。
九条天は七瀬姓をほぼ捨てている(陸の存在を除いて)。楽はそれができないし、おそらくしたくないのだ。そして何より、どちらの「血」も持っていることが重要なのだろう。
【十龍之介】
①漁師の息子としての自分
②ホテル王の(義理)息子としての自分
…両親の離婚に伴う「家」の分裂、増殖。これは「アイドルとしての仮面」にも直結する部分だが、そもそもは「家」「血」に根差したものであることを忘れてはならない。
何を隠そう、龍之介は「家計を支えるためにアイドルになった」のだ。
これは、「七瀬の家」を捨ててアイドルになった九条天にとって、どれだけ心が痛むエピソードであっただろうか。(こういう少しずつピースがずれるところも、TRIGGERというグループの魅力であると思う)
兄であることを一度捨てた九条天は、かりそめの家族の中で「理の兄」を演じる。
一方で龍之介は、故郷の弟たちを案じながら、TRIGGERの中にも「兄ポジション」を見出していく。ナギに対しても、「兄」であり続ける。
兄へのこだわりは「漁師の息子としての自分」への執着に他ならない。ホテル王の息子であれば、兄として、父に代わって家を支える必要などない。ホテル王の息子という設定を使ってアイドルを続ける反動として、龍は必要以上に「兄」として在ろうとするのである。
4.欠け始めた「仮面」
改めて整理してみると、なるほど、TRIGGERは複数の仮面を纏ったグループなのである。その使い分け、武装がにわかに崩れだしたのが、ほかならメインストーリー3部であった。アニメ3期で描かれる部分である。
龍の複数の「仮面」の隙間を突かれる形で、スキャンダルが発生した。
結果、八乙女楽は「抱かれたい男No,1」の地位から陥落し、八乙女の「家」から出ていくことになった。
さらに、九条天は完璧な天使の「仮面」が欠け、路上ライブの場で、人目をはばからず涙を流すことになった。
何よりも、アイドルとしての彼らのペルソナを形成した、八乙女事務所を出て、野良になった。
もう誰かに与えられる「仮面」は新たに作られないし、これまで彼らが装着してきた仮面は、それぞれに何かしらの傷を負ってしまったのである。
では、彼らは今後、どんなペルソナで、アイドル界を生きていくのか。完全に剥き身になるのか。
5.新生TRIGGERとしての「仮面」
今後のTRIGGERの仮面を考えていくにあたり、手がかりになるのはやはり4部だ。三日月狼の記者会見前後である。
この記者会見、おそらくTRIGGER史上初めて、「全員が全く同じ格好」をしている(ダークスーツ)。
そして八乙女楽のこの発言だ。
「どの名前でも、同じことなんです」
素の部分でも「ふたつの名前」を持つ彼らのことを思えば…これはすごく重みのある言葉だったように思うのである。
では、三日月狼以降、彼らがすべての仮面を取っ払って、剥き身で生きていくのかといえばそれも違うと思うのである。
三日月狼前後、とにかくTRIGGERの3人は足並みをそろえることが強調されている。
それは揃いのダークスーツだけではない。
いつも天と楽より半歩下がっていたような龍が、自力でオーデションを突破して、二人と並んだと感じたこともそうだ。
そして、Re:valeの武器として、「仇を取る」決意をする3人は、完全に三位一体となっており、それぞれのどの「仮面」とも違う雰囲気を纏っている。
つまり私はこう考えたいのだ。
これまでの傷ついた「仮面」は捨てずに、それをすべて内包ような、新しく強い「仮面」を、3人は作り始めているのだと…
だから記者会見での彼らは「真っ白」ではなく、「真っ黒」なのではないかと…
三日月狼は、確かにTRIGGER3人が出演する舞台だ。ただし、前回の舞台であったラスディメとは明らかに違う部分がある。
ラスディメは「TRIGGER主演舞台」なのだ。
三日月狼は、TRIGGERへのあて書きではない。別の役者が入り込む可能性は大いにあった。
つまり、三日月狼にはこれまでの「TRIGGER」の仮面は不要で、新たな仮面が必要なのである。それも彼ら自身が、自ら作り出さなくてはならないのだ。
1部~3部にかけて、栄光と挫折をこれでもかというくらい味わってきたTRIGGERなら、きっとこれまでの「外的要因により与えられてきた仮面」とは違う、彼ら自身にしか作れないような…強く美しく気高く、でも弱さや傷を捨てない仮面が作れることだろう。
6.そして、革命の「引き金」へ…
…ということで、「仮面」という観点から、これまでのTRIGGERを振り返ってみた。
極端な話をすれば、彼らは「家」にも「血」にも、安定した居場所やアイデンティティがないという共通点があると思うのである。
そういう面があるから、龍は「TRIGGERはもうひとつの家族だ」と発言したりするのだと思う。
5部を通して、TRIGGERがそれぞれにとっての家族になるかといえば、私は違うと思う。
家族が固定できない3人にとって必要なのは、「家」でも「血」でもない、それよりも脆弱だけれど強力な、別のつながりなのである。
TRIGGERは5部での闘いを通して、家族を―「家」も「血」も超えるだろう。
(以前の考察記事で、私は彼らを「船」だと言ったのだが、それも超えるだろう)
そのつながりを目の当たりにしたとき、疑似家族を形成するアイナナはどうするだろうか。憎悪と贖罪でつながったZOOLは何を思うのだろうか。
彼らの仮面を壊し、絆を壊そうとした、アイドル界は何を思うのだろうか。
それこそが、静かなるTRIGGERの反撃、奇跡になるだろう。
そしてTRIGGERは、アイドル界変革の「引き金」になるのである。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!
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