【声劇台本・2人用】シアター・オンザ・シネマラブブーケ

“シアター・オンザ・シネマラブブーケ“
 
ジャンル:恋愛ドラマ
 
こちらは声劇を想定した台本になります。
よろしければお読みいただけると幸いです。
 
◆内容
会社をリストラされた女性、サラ。
彼女がフラリと立ち寄った映画館が、彼女の何かを変えた。
 
◆登場人物
サラ:会社をリストラされて投げやりになっている女性。
ヒバリ:専門学生の男性。軟派と見せかけて実は子犬系
 
・声劇等で使用される際は作者名をどこかに表記またはどこかでご紹介下さい。作者への連絡は不要です。
・性別・人数・セリフの内容等変更可です。また演者様の性別は問いません。
・自作発言はセリフの変更後でもお止めください。
・アドリブ可。好きに演じて下さいませ。
 
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サラ(モノローグ):私は、無職だ
 
一カ月前、上司から肩を叩かれ(セクハラ)呼び出された先のテーブル席で契約終了を言い渡された
 
こちらとしては文句は無い。むしろ望むところだ。こんなブラック企業、こっちから願い下げだ。潰れろクソ会社
 
退社は実にスムーズだった
 
荷物をまとめ、職場を後にするとき、投げかけられたのは、ねぎらいの言葉では無くいつもの「お疲れ様です」だった
 
去り際に入口にある縦看板に靴裏をぶつけてやった
 
そして、部屋にこもって寝て起きて動画見てゲームしてウーバー頼んで食べて寝て、一カ月が経った
 
外、出なきゃ…
 
就職活動しなきゃ。買い物しなきゃ。運動しなきゃ。化粧しなきゃ
 
…全部面倒くさい
 
なぜ社会はこうも面倒なのだろう。周りに合わせなければ、出る杭は打たれる。嫉妬と罵声というハンマーで、細く弱弱しい私というくぎは地面に埋められてしまう
 
 
 
サラ:「はあ…」
 
 
 
サラ(モノローグ):
 
なにもやる気が起こらない。バーンアウトシンドローム。外に出てなんだというのか。でも体は太陽光を欲しがってる。植物かよ
 
最低限の身支度をして、足を運んだのは、映画館だった。
 
小さな映画館で、集客する気あるのかと問いたくなる汚い看板。でも私の気分はその雰囲気を欲しがっていた。
 
選んだ映画は、全然知らないものだ。『スタートラインに花束を巻いて』タイトルから地雷臭がするアニメ映画だ
 
内容は普通。だいたい実写で出来るストーリーをわざわざアニメという恐ろしく手間のかかる表現手段を何故選んだのか疑問だ。
 
ただ、それでも
 
…だって。だって…私が、居たから
 
私は、泣いてしまったのだろう
 
 
 
ヒバリ:「おねーさん」
 
サラ:「え?」
 
ヒバリ:「よくこの映画観てるよね。何回目?」
 
サラ:「なんですか急に」
 
ヒバリ:「あ、ごめん。警戒するよね、そりゃ」
 
サラ:「そうですね」
 
ヒバリ:「俺もこの映画観るんだ。隣、座ってもいい?」
 
サラ:「チケットにそう指定されているなら」
 
ヒバリ:「指定されてんのは別の席だけどさ…いいじゃん。こんなにガラガラ、っていうか俺とお姉さん以外いないし」
 
サラ:「ルールを守れない人の隣には座りたくありません。では」
 
ヒバリ:「あ…行っちゃったか」
 
 
 
サラ(モノローグ):3回目だ
 
『スタートラインに花束を巻いて』この映画を観るのに3回も入場券を買ってしまった。
 
内容は普通だ
 
短距離走のエースだった女の子が、ケガで走れなくなり、社会に揉まれながら次の生きがいを探す、という物語
 
走れない私なんか…と嘆いていた女の子が、色んな出会いや経験をし、時には後ろ指を差されながら、見えない目標を探す
 
私は運動部ではなかったのに、それでも彼女の姿が、自分に重なってしまった
 
前職でのハラスメントや仕事量の多さ、終電まで続く残業。がむしゃらに無理を承知でつっぱしった、つもりだった
 
映画の彼女は目標を見つけられて、私は未だ見つけられていない
 
だからだろうか。一回目に観たラストシーンで、涙してしまったのは
 
これは、よかったねと思う応援の心か。それとも嫉妬か。
 
 
 
ヒバリ:「おねーさん!」
 
サラ:「わ」
 
ヒバリ:「ハハ、びっくりしてる。ごめん驚かせて」
 
サラ:「急に飛び出して来たらびっくりもします。なんですか、嫌がらせですか?」
 
ヒバリ:「とんでもない!また映画観に来てるから、今度こそ一緒にどうかなって。さっきの登場は、好印象を狙って、的な?」
 
サラ:「全然好印象ではありません。では」
 
ヒバリ:「ちょ、ちょっとまって!ホラ、ポップコーン!食べる?」
 
サラ:「いりません。鑑賞中は音が鳴るのが嫌なので」
 
ヒバリ:「じゃあ、ジュース!コーラとかあるよ!奢るからさ!」
 
サラ:「いりません。鑑賞中にトイレに行きたくなったら嫌なので」
 
ヒバリ:「えーと、じゃあ…」
 
サラ:「もういいです。もう二度と私に関わらないでください。では」
 
ヒバリ:「あ…!ちょ、そんなあ…」
 
 
 
サラ(モノローグ):5回目
 
もうセリフもほとんど覚えてしまった。ここまでくると、もうこの映画のファンといっても過言ではない
 
それにしても、あの男はなんなのだろう。私の時間の邪魔をしないでほしい
 
今も、離れた席で、スクリーンを凝視している。同じ映画を観てるのか、あいつ
 
背丈は、175あたりか。服装からして大学生か?なら今が人生のピークだろう。私にかまわず青春を謳歌してくれ
 
あ…っ、やば、こっちを向いた…!…手を振っているぞ、あんなに笑顔で…映画に集中しろ、前を向け
 
まったく、最近のナンパ男は…何を考えているのか分からない
 
 
 
ヒバリ:「雨、降ってるね」
 
サラ:「またあなたですか」
 
ヒバリ:「そんな、うんざりした顔しないでよ」
 
サラ:「私はもう帰るので」
 
ヒバリ:「傘は?」
 
サラ:「え?」
 
ヒバリ:「傘。持ってないみたいだけど」
 
サラ:「…持ってませんけど」
 
ヒバリ:「そりゃ大変だ。濡れて帰るわけにはいかないよね」
 
サラ:「何が言いたいんですか」
 
ヒバリ:「ほら!俺傘持ってるからさ」
 
サラ:「だから?」
 
ヒバリ:「相合傘できたらなーって」
 
サラ:「結構です」
 
ヒバリ:「断るの早いって」
 
サラ:「後で何されるか分かったもんじゃないですから。それ以前にあなたとは仲良くもないし」
 
ヒバリ:「何もしないし、これから仲良くなればよくない?」
 
サラ:「そんな気ありません」
 
ヒバリ:「でももしこのまま濡れて帰って風邪ひいたら、明日映画観れなくなるかもよ?」
 
サラ:「大丈夫です。もう覚えてるので」
 
ヒバリ:「でも観たいでしょ?」
 
サラ:「特には」
 
ヒバリ:「ならなんで何回もこの映画観てるの?『スタートラインに花束を巻いて』あんまり有名じゃないし、評判もそこそこだし」
 
サラ:「それは…」
 
ヒバリ:「それに、脚本が無理あるっていうか、『お前は走ること以外はダメなんだ』なんて、今時そんな親いる?ちょっとギャグになっちゃってるっていうか」
 
サラ:「それは主人公ランコが成長するために必要な人物でありプロセスです!あの毒親がいたからこそラストのランコが輝くんです!」
 
ヒバリ:「…おおー……」
 
サラ:「…はッ!…失礼しました。私は帰るので、これで」
 
ヒバリ:「でも濡れちゃうって…」
 
サラ:「コンビニまで走れれば大丈夫です」
 
ヒバリ:「じゃあコンビニまで!」
 
サラ:「え?」
 
ヒバリ:「コンビニまで送ってくから、相合傘!お願い!」
 
サラ:「だから…」
 
ヒバリ:「この通り!」
 
サラ:「…何もしません?」
 
ヒバリ:「…うん!何もしない!触らない!」
 
サラ:「話しかけない?」
 
ヒバリ:「話…!?わ、わかった、話しかけない!静かにする!」
 
サラ:「…私、早足なので、すぐですよ」
 
ヒバリ:「…!?オッケーって事…?やった!やったー!神様は居たんだ!ありがとうゴッド様ー!」
 
サラ:「…恥ずかしいので、やはり先に行きます」
 
 
 
ヒバリ(モノローグ):俺は、無力だ
 
専門学校での課題はいつも赤点ギリギリ。卒業できればいいってレベル。これでは映画監督なんて夢のまた夢だ
 
その日も授業で怒られた事を無意識に反すうしつつ、ふと目に留まった映画館に入った
 
選んだ映画は、全然知らないものだ。『スタートラインに花束を巻いて』タイトルから地雷臭がするアニメ映画だ
 
しかも一緒に入ったあの女…太いフチの眼鏡をかけた、ロングヘアーの女。あれは絶対映画を馬鹿にしてる
 
顔に書いてある。この私を感動させられるものならさせてみろって。上から目線。気に障る
 
ただ…だからだろうか。そんな先入観を浮かべてしまっていたばかりに
 
泣いている彼女の顔が、とても綺麗だと思ってしまったのは
 
 
 
翌日、彼女があの映画館に入っていくのを見た
 
また次の日、自分も入ってみた。すると、彼女がいた。このまえ観た映画を選んでいた。チケットを買うその姿が、妙に色っぽく見えた
 
高鳴る鼓動が抑えられない。何か言いたい。伝えたい。何を?何も、ない。頭の中には彼女の姿のみで、余計な言葉が生まれない
 
でも、何か。何かを繋ぎたい。縁ってやつ。なんでもいいから。印象最悪でも、なんでもいいから
 
…ジグゾーパズルのピースを組み立てるみたいに、気持ちが増えていく。
 
凹凸をはめ込むように、ぱちり、ぱちりと。気持ちが広がって、落ちていく。色を変えながら、どんどんと落ちていく
 
心は既に、恋心に染まりきって
 
 
 
ヒバリ:「おねーさん!」
 
サラ:「…またあなたですか……」
 
ヒバリ:「そんなにげんなりしないでよ。この前一緒に帰った仲じゃん」
 
サラ:「あれは只の気の迷いです」
 
ヒバリ:「つれないな~。この映画、今回で何回目?」
 
サラ:「…10回目」
 
ヒバリ:「うわ、すごいね!記念すべき10回目だ」
 
サラ:「…何が言いたいんです?」
 
ヒバリ:「え、なにが言いたいって、今回は隣に座らせてくれるかなーって」
 
サラ:「嫌です」
 
ヒバリ:「ええーなんで」
 
サラ:「あなたが隣に来たら、色々話しかけてきそうでうるさいと思ったので」
 
ヒバリ:「しないよ!俺映画観てる時はすごく静かだし」
 
サラ:「…なんで私にまとわりつくんですか?」
 
ヒバリ:「え?」
 
サラ:「何か狙いがあっての事でしょう?ナンパ?それとも夜の店の勧誘?お金目的とか?」
 
ヒバリ:「バッ…そんなんじゃない!」
 
サラ:「じゃあなんなんですか」
 
ヒバリ:「それは…その…」
 
サラ:「それは?」
 
ヒバリ:「…………。…一目惚れ、的な」
 
サラ:「…」
 
ヒバリ:「…」
 
サラ:「……………………~~~~~~~ッッッッ!!??」
 
サラ:「バ、馬鹿じゃないですか!?ひひ一目惚れとか、年上をからかわないで下さい!」
 
ヒバリ:「からかってない!…その、言えって言ったから…ホントのことをさ…」
 
サラ:「は、はあー!?はあー…!その、それは、言葉のアヤっていうか、まさかこんなタイミングで告白とか!」
 
ヒバリ:「本当は我慢してたんだ!…それで、その…」
 
サラ:「そ、その…?」
 
ヒバリ:「返事は…?」
 
サラ:「ああー!!映画が始まりますよ!ホラ席につかないといけませんよ!」
 
ヒバリ:「え、そんな、もう何回も見たんだし先に返事でも」
 
サラ:「いいから!」
 
ヒバリ:「は、ハイ!」
 
サラ:「…」
 
ヒバリ:「…隣」
 
サラ:「え?」
 
ヒバリ:「隣、座っていい?」
 
サラ:「な…!それは、それは…!」
 
ヒバリ:「駄目?」
 
サラ:「…隣」
 
ヒバリ:「え?」
 
サラ:「隣、の隣の隣、ならいいですよ」
 
ヒバリ:「なにそれ、近いのか遠いのか」
 
サラ:「いいから座る!」
 
ヒバリ:「はーい」
 
サラ:「…言っておきますけど、私は無職のニートです」
 
ヒバリ:「だと思った。でないと毎日映画館なんか来れないもんね」
 
サラ:「…こんな甲斐性なしと付き合ったっていいことないですよ」
 
ヒバリ:「別にいいよ。そこを好きになったわけじゃないし」
 
サラ:「~~~~~!!」
 
ヒバリ:「へへへ…」
 
 
 
サラ(モノローグ):10回目。そろそろ只の暇つぶしになってきた頃。私はとんでもない問題に直面した。
 
恋愛なんぞ人生をつまずかせるための石ころくらいにしか思ってなかった私は、その石の巨大さに唖然としている。これでは壁ではないか
 
沈んでいた感情が、炭酸みたいにぶわっと湧いてくるのを感じる。湧き上がらせ奮え立たせる何かが、この壁にはある
 
落ち込んでる場合じゃない、のかもしれない。
 
まったく、人生というのは私のペースというものを考えてくれない。強制イベントのオンパレードである
 
でもこのイベントは…嫌いじゃない、かもしれない
 
 
 
ヒバリ(モノローグ):いつか彼女がこの思いを受け入れてくれたら、花束を贈りたい
 
いつも冷めた顔しかしなかった彼女に、いろんな表情を見せてほしくて
 
祝福に満ちた花束が、2人のスタートを包むように
 
 
 
(終わり)
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