【声劇台本・3人用】レンズ越しの恋が見えて

「レンズ越しの恋が見えて」

ジャンル:恋愛ドラマ

こちらは複数の声劇または一人読みの朗読を想定した台本になります。
よろしければお読みいただけると幸いです。

◆内容
陰キャ女子・愛子の片思いのお話。
揺れ動く彼女の様を、お楽しみください。

◆登場人物
愛子:神楽坂 愛子(かぐらざか あいこ)。今作の主人公。引っ込み思案の女性社員。20代前半
百地:ももち。通称ももちちゃん。愛子の同僚で、明るいが強引な性格。20代前半
飯田:いいだ。愛子の同僚の男性。元からぼーっとした人間だが最近失恋して消沈気味。セリフはあまり無い。20代前半

※(M)はモノローグの意味

・声劇等で使用される際は作者名をどこかに表記またはどこかでご紹介下さい。作者への連絡は不要です。
・性別・人数・セリフの内容等変更可です。1人での朗読も可。また演者様の性別は問いません。
・自作発言はセリフの変更後でもお止めください。
・アドリブ可。好きに演じて下さいませ。

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愛子:(M)心に形があるのなら、それはきっと、丸い形をしているのだろう。
ころころと転がって見せる面を次々と変える、憎たらしい形。
もし、心が四角ければ。角(かど)があるなら。そこから動くことは、もう無いのに。

最低限あればよかった。
最低限の仕事。最低限のお金。最低限の広さの家、最低限の家具。それだけあれば十分だった。
だって、私は出来損ないだから。ダメな子だから。なにもできないから。
だから何かを望むなんて、筋違いもいいところだ。
それなりの会社に就職できた。それなりの生活ができてる。だから、私には他になんにも…

百地:「う~そ~つ~け~~~~ッ!」

愛子:「ひゃっ!」

◆会社 休憩室

愛子:(M)地響きのような声を震わせて割り込んできたのは、会社の同僚のももちちゃん。
一緒に仕事することが多くて、いつの間にか仲良くなっていた。内気な私には友達が少ないので、友人ができるなんて奇跡的な…

百地:「そんなネガティブ思考を生み出すのはその頭か?頭なのか~?」

愛子:「い、痛い、痛い…おでこ指でグリグリしないで」

愛子:(M)ももちちゃんは、少しスキンシップが激しくて、強引だ。
でも、私ぐらい卑屈な人間には、こういうグイグイ来てくれるのは嬉しい。私から話しかけるなんて到底考えられない。
会話って枕詞は何にすればいいの?

百地:「なんでそんなに暗いんだか。それに、何にも望みが無いなんて、そんな事いっていいのかな~?」

愛子:「ど、どういうこと?」

百地:「飯田君。彼の事、最近目で追っかけてるの知ってるんだから。なーんで視線が彼の方にいっちゃうのかな~?ん~?」

愛子:「そ、それは…!き、気のせいだよ…!」

百地:「まったく、可愛いんだから、メガネちゃんは」

愛子:(M)メガネちゃん、とは私のあだ名だ。
太ぶちメガネをかけてるからメガネちゃん。メガネで地味な子だからメガネちゃん。根暗でオタクっぽいからメガネちゃん…

百地:「お~い、そこまで言ってないよ~?で、どうなの?飯田君の事?」

愛子:(M)どうって、どうもしない。
視界に入ってしまうのは、丁度彼の席が目に映りやすい場所にあるから。それだけだ。
最近元気ないなとか、気になってしまうのも、同僚としての心配だ。

百地:「変な所で強情だなあ。じゃあ、飯田君、誰かに取られてもいいの?」

愛子:「…いいよ、別に。私が介入する事じゃないよ。タダでさえ仕事で皆に迷惑かけてるのに、恋愛とか…」

百地:「あれ~?別に恋愛とは言ってないけどな~?」

愛子:「…ぐっ、ぐむむ…」

百地:「もー、可愛いんだから、メガネちゃんは。でも、仕事で迷惑なんて掛けられてないし、考えすぎじゃない?」

愛子:「そんな事ないよ。この前もミスしたし…」

百地:「ミスなんて皆してるのに。こりゃ重症だなあ。…そうだ!」

愛子:(M)彼女の思い付きに、あまりいい思いをした事がない。

百地:「仕事終わったらさ、ちょっと付き合ってくれない?」

◆大通り アパレルショップ

愛子:「ストライプスカートが、1万円…!?」

愛子:(M)白を基調にした華やかなフロアに浮かれ、値札を見落とすところだった。
これは罠だ。きらびやかな空間で私を高揚感に酔わせ、お金を存分に振り落とさせる巧妙な罠である。

百地:「いや違うよ!ただのアパレルショップだから!」

愛子:「な、なんで、こんなところに連れてきたの…?」

百地:「こんなところって…。ま、メガネちゃんにはメガネを卒業してもらおっかなって」

愛子:「え、卒業…?な、なんで…?」

百地:「メガネちゃんはコンプレックスが多いみたいだしね。その内の1つ、地味な外見を克服してもらおうと思って」

愛子:「じ、地味…」

百地:「私はそう思ってないんだけどさ。でもま、念には念を押して?
ここで、服買って、化粧買って、コンタクト買って!見事に変身して、見せてやろうじゃないか!飯田君に!」

愛子:(M)無理な事を言ってくる。第一、私は変わりたいなんて思ってない。今のまま、不動のままがいい。その方が安全だ。

百地:「強がっちゃって。飯田君に可愛いって言ってもらおうよ?」

愛子:「飯田君…」

愛子:(M)飯田君は、いい人だ。いい人ってだけだ。
以前、仕事でミスをした私は、それが悔しくて、定時の後の休憩室で、誰もいない頃を見計らって、机に突っ伏して泣いていた。
誰もいないはずなのに、飯田君が来てしまった。
なぜ…?
飯田君は、私とは対角線先の座席に陣取り、まるで自分の息でそっと空気を動かすように、言った。

飯田:「別に、俺の事は気にしなくていいすよ。コーヒー飲みに来ただけなんで」

愛子:(M)なら別の自販機に行けばいいじゃないか。嫌がらせか?私をからかって楽しいか?
でも、そうじゃなかった

飯田:「あんま気にすることじゃないすよ」

愛子:(M)その言葉で気づいた。もしかして心配で様子を見に来たのか?
だとしたら、この人はいい人だ。
私は大丈夫って返したくなったけど、なんだか頭が重くて、飯田君を見れなくて。だから、机に突っ伏したまま、顔を隠したまま、静かに泣いた。
飯田君は、私が退社するまで、空になったコーヒー缶をもてあそんでいた。

なんだか、何も言われてないのに、受け入れられた気がした。
思えばそれが、始まりだったのかもしれない。
白紙の便せんにインクをしみこませるような、始まりの一文。

◆愛子の自宅

愛子:(M)リネンタッチスパゲティショルダーフレアキャミソール。私が今日買った服の名前だ。
さすがに1万円も服に使うには抵抗があるので、半額以下のものを選んだ。これがあのスカートより安いとは、材質が違うのか?
化粧はあるので、それは勘弁してもらって、コンタクト。正直めちゃくちゃ怖い。目にあんな異物など入れたことがない。
でも、飯田君が、少しでも興味を持ってくれたなら。

百地:「いい?恋愛は社交ダンスよ!
こっちがリードしたり、合わせたり踊ったりして、時々ミスったらアドリブでカバーして!
そうやって付き合っていくモンなのよ!」

愛子:(M)ももちちゃんは、たまに言ってることが変だ
この服、肩が出てるけど、大胆過ぎたかな。露出が多いのは好みだろうか。下は膝丈のフレアスカートだから、そこまで足は出してない。
飯田君のリアクションを想像して、一喜一憂してる自分は、他人には見せられない。
なんだか、意外だ。明日の出社が楽しみな自分が居るなんて。

愛子(M)翌日。私はいつものメガネをケースに仕舞い、コンタクトという目の鱗をはめ込んで、ガチガチとブリキのおもちゃみたいな動きで出社した。

百地:「いーじゃーんっ!こりゃメガネちゃんとは呼べないね!あいちゃん・あいこちゃん・クレオパトラのパトラちゃん…どれにしようか」

愛子:(M)友人の冗談はさておき、いつも掛けているメガネを外した私は、会社の面々にどう映るだろうか。やっぱり羽目外しすぎてないだろうか
陰気な人間が嫌がることは「普通」の輪から外れること、目立つことだ。良かれ悪かれ、それはとても精神を削る所業だ。
でも、飯田君が見てくれるなら。見て、関心を持ってくれるなら。
飯田君が…
でも、就業時間が終わっても、彼から声を掛けられることはなかった。

百地:「ちょ、ちょっと飯田君!今日の愛子ちゃんどう!?いつもと違うと思わない!?」

愛子:(M)ももちちゃんが無理矢理こっちへ話題を作ろうとしてくれた。
でも、返ってきた言葉は、

飯田:「すみません、メガネ掛けてなかったから、気付かなかったっす」

百地:「ちょ…!」

愛子:(M)一瞬、時間の流れが止まった気がした。水気を吸った砂利のように、頭が重くなるのを感じた。

愛子:「そ…そうだよね。ごめんね、変な話に付き合わせて、私帰るので!じゃ、お疲れ様!」

愛子:(M)私は足早にその場を立ち去った。
そこにいると空気に棘が生えたみたいで、その鋭さから逃れるように退散した。
そうだね。そうだよね。私なんてメガネがトレードマークみたいなものだよね。それが無かったら、私じゃないよね。

期待してたわけじゃない。
嘘。
期待してた。私は彼に、見てほしかった。

昨夜もイメージトレーニングを何度も繰り返した。でも、無意味だった。
自宅の玄関を強く鳴らして閉じる。そうすることで、さっきまでの世界とは隔離できる気がして。
着ていた服を脱ぎ散らかして、私は毛布にくるまって、夢に落ちた。

心に形があるのなら、それはきっと、硝子の様な繊細な材質をしているのだろう。
転がるのを止める為に、両手で強く押さえつけると、たちまちヒビが入ってしまうような。
その断面が外の空気に触れた時、息苦しくて、むなしくて、寂しい。
涙が溢れるほどに。

スマホの無機質な振動音で目が覚めた。

百地:「愛子ちゃん!大丈夫?ごめんね、泣いてない?」

愛子:「ううん、私こそごめんね。大丈夫だよ」

百地:「そんな、愛子ちゃんが謝ること…」

愛子:「そ、それよりね、私、分かったことがあるの」

百地:「え?何を…」

愛子:「私、飯田君のこと、好きなんだなって」

百地:「…!」

愛子:(M)飯田君の何気ない一言で、こんなに自分が揺らぐとは思わなかった。
少し眠ったお陰で、頭の中が整理できたのかもしれない。いや、逆に散らかっただけかもしれない。
それでも、この考えに辿り着いてしまった。

心のヒビを作ってでも、私を。私をまっすぐ見てほしい、と思った。
彼と話をすることができたら、どれだけ私は満たされるんだろう、と思った
仲良くなって、いつか触れることができたら、どんなに幸せだろう、と思った
この気持ちで通じ合う事が出来たら、その煌びやかな素敵さに、私は死んでしまうかもしれない。

愛子:「だ、だから…決意した。明日、改めて言うよ」

百地:「…!…そっか。じゃあ、頑張れ!私も応援してるから!」

愛子「うん!」

◆翌日 会社 夕暮れ時

愛子:(M)翌日、私は飯田君を呼び出した。いや、正しくはももちちゃんに飯田君を連れてきてもらった。
足が頼りなく震える。このまま帰りたくなるのを堪えて、私は気張った。

飯田:「…すみません、俺、呼び出された理由、心当たりなくて。なんか失礼な事しちゃいました?」

愛子:「う、ううん!してない!飯田君は悪くないから!ここに来てもらったのは、ええと…その…」

百地:「…愛子ちゃん!ファイトだよ!」

愛子:「あ、うあ…あの、その、ええと…」

飯田:「大丈夫すか?なんか様子変ですけど…なんなら後日でも」

愛子:「う、えう…ううん!その、飯田君に!言いたいことがあって!」

飯田:「あ、はい…!」

愛子:「あ…あぁ…あの…!」

百地:「ゴクリ…」

愛子:「…きょ今日の服、どうかな!?」

飯田:「…え」

百地:「…へ?」

愛子:(M)今日の私は、ある一点を除いて、昨日と同じ格好をしていた。
リネンタッチスパゲティショルダーフレアキャミソール。私が無理して買った服だ。
ただ、コンタクトだけは却下した。この太ぶちメガネが、私のトレードマークだから。
正直、同じ服を2日続けて、なんてどうかとも思うが、無理して、頑張って買ったんだから、ちゃんと見て、感想が聞きたかった。

飯田:「…え、と。それ聞くためだけに…?」

愛子:「どうかな!?」

愛子:(M)顔が見れない。下を向いてしまっている。こんな不格好な人間をどうだと聞かれても、相手も困るだろう
でも、一縷の望みが叶うのなら…

飯田:「え、えっと…かわいいと思います」

愛子:「…!!……………っ!!」

飯田:「え、えっ?神楽坂さん!?」

百地:「ええー!?走り去っていっちゃった…。
はは、こりゃ凄いね、愛子ちゃん。本気だ。
…ところで飯田君」

飯田:「え、あ、ハイ?」

百地:「恋人居るの?」

飯田:「なんすか唐突に」

百地:「ちなみに、私にはいる!年上イケメンの彼氏っちが!」

飯田:「えっ、うわマジすか」

百地:「なんの驚き?まあいいや。で、いるの?どうなの?」

飯田:「それは…」

愛子:(M)滅茶苦茶…滅茶苦茶はずかしい!!
意味の分からない質問を相手に投げて、それがぼよんと跳ね返ってきたと思ったら、一番嬉しい言葉が付いてきて。
真っ赤になって蒸気まで発しているであろう顔を見られたくなくて、やっぱり逃げ出してしまった。
歓喜と羞恥という石炭を際限なく投下される私は、まるでレールを外れた暴走機関車だ。
そして、その機関車の力走は、

愛子:「わっ、ふぎゃっ!」

愛子:(M)廊下に落ちていたA4の裏紙を踏みつけ足をとられ、尻餅をつくという痛い結果で停止した。

百地:「おーおー、走ったねえ。ていうか会社の廊下走る人なんて初めて見た。はは」

愛子:(M)後ろからゆっくりと歩いてくるももちちゃんに笑われた。飯田君は付いて来ていなかった。
よかった、こんな姿彼に見られたら、私は三途の川をロケットの如く飛び越えるだろう(?)

百地:「愛子ちゃん、ニュースだよニュース!飯田君、恋人居ないって。先週別れたんだって!」

愛子:「え、え?」

百地:「だから最近元気なかったんだよ!さて、どうする?今度こそ告っちゃりますか?」

愛子:「こ、こく、告って、そんな、そんなの無理…!」

百地:「ま、そうだね、その様子じゃしばらくは無理かもね。
でもね愛子ちゃん、これだけは覚えといて。
恋愛は、ボードゲームだから!
駆け引きや戦略を駆使して競合する!これが恋愛ってやつだから!」

愛子:(M)相変わらず、ももちちゃんの言ってることは変だ

百地:「試しにさ、料理でも作って持って行ってみたら?独り身には染みると思うな~」

愛子:「で、でも、私、インスタントしか作れない…」

百地:「じゃあ練習しろー!料理本買って、包丁握って、肉じゃがでもなんでも作れるようになれー!」

愛子:「え、えええ~!?」

愛子:(M)この気持ちが、どんな結末を迎えるのかは分からない。
でも、強引な友人に流されて、料理本を手に取るのもいいかもしれない。

心に形があるのなら、それはきっと、冷たい感触をしているのだろう。
だからきっと、色んな出会いや出来事で、段々と熱を与えて、温かくしていくんだ。
でないと、私はこんなに素直に、笑えないだろうから。

(終わり)
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