中学3年のとある1日
中学3年の冬。
私は合唱部に所属していた。
数週間後に控えた合同発表会に向け、練習をしていた。
音楽室の物置から多重録音の機器が見つかった。
おー、これで重ねたら、練習とかにも使えんじゃない?
ギター出来るし、曲作りとかもできるよなー。
そんなことを言いながら、帰路についた。
この後の急展開は、知る由もなかった。
*
いつもより少し遅かった。
普段通り、エントランスにあるポストの郵便物を取って、マンション3階の自宅へ帰った。
自宅には母がいた。
父は休みだったが、趣味のパチンコに出かけていた。
リビングに郵便物を置いて、洗面所に向かう。
手を洗っていると、母が叫び声を上げた。
母は郵便物の中から1枚のハガキを見ていた。
ガス代が引き落とせなかったという通知だった。
我が家は特別裕福ではないが、不自由なく暮らしていた。
中学入学と同時に携帯を買ってもらい、パソコンもあった。
中学2年の夏休みには、母とサイパン旅行もした。
ガス代が支払えないはずはなかった。
当時はまだネットバンキングがなかった。
母はテレホンバンキングで、口座残高を確認した。
残高がなくなっていた。
母は気が動転していた。
一人息子の私は、自分が落ち着いてしっかりしなければと思った。
母に、落ち着いて、警察に電話するように言った。
そして、私は父に電話した。
父は、ええっ、そうか、分かった。とりあえず帰るわ。と言った。
そして電話を切った。
母にそれを伝えると、母は震えながら110番にかけた。
私はコブクロが好きで、当時は着うたというサービスが流行っていた。
着信時に着メロではなく、オリジナル音源が流れる。
まだコブクロも売れる前だったので、選べる曲は少なかった。
そんな中で、私は「DOOR」という曲に設定していた。
母が警察と話し始めた時、その曲が鳴った。
「行くしかないだろう」
電話に出た。
父だった。
どないしたん?
いいよ。
え?
いいよ、それやったん、俺やから。
電話は切れた。
私は、嘘のように膝から崩れ落ちた。
母に伝えて、警察の人には平謝りした。
パチンコから帰ってきた父と、話をした。
その日以降、もう父と暮らすことはなかった。
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