インドでデジカメが壊れた話(2005年)

私の使ってるデジカメは、2000年購入の骨董品。
重いわ、ディスプレイ小さいわ、暗いところじゃぜんぜん使えないわで
そろそろ新しいのに代えた方がいいんじゃないのと思いつつ、
画質には何ら問題ないし、何よりバッテリーが長持ちするので
なかなか見捨てられず、意外に重宝したりしてます。
(そりゃ充電池4つ入ってりゃ重いけど長持ちするさ)
幸い携帯カメラの性能がいいので動画用&サブカメラとして併用することに。
今回の旅の最大の目的、アジャンタ、エローラは
さぞかし大規模な遺跡だろうからたくさん撮りまくろうと、
・デジカメ用:64MBのスマートメディア2枚
(そもそも今時スマートメディアですから)
・携帯カメラ用:64MBのメモリースティックDuo1枚
・USBのカードリーダー(向こうのネットカフェから
日記に写真あげたりしたらかっこいいんじゃない?と夢見た)
・インド国内で使えるアダプタ&充電器
・電池交換タイプの携帯充電器
も整え、準備はカンペキ☆のはずだったのだが。

現実は誤算の連続だった。

まず、旅行中デジカメは二度壊れた。
1度目は2日目のムンバイで、
鳥葬の塔=沈黙の塔(Tower of sirence)を見に行った時のこと。
町外れにヒンズー教寺院、ジャイナ教寺院、沈黙の塔が固まっていたので、
タクシードライバーに交渉して、順番に回ってもらうことにした。
ドライバーは沈黙の塔だけ場所知らないって言ってたけど、
地図あるし何とかなるだろうと思ってたら甘かった。
ヒンズー教寺院はすっ飛ばされ
(多分半島の先の先にあるので行くのめんどくさかったんだと思う)、
ジャイナ教寺院の後しれっと連れてかれたのはガンジーの家。
地図読めないなら先にそう言えよ!
そこでバトル開始。
「ここじゃない。私が行きたいのはタワーオブサイレンス!」
「先にヒンズー教寺院行くって言ったのにウソつき!」などと、
相手が自分より英語できないのをいいことに猛抗議。
仲裁に回ってくれた見知らぬインド人も巻き込んで訴えること数分。
あまりにも埒が明かないので車を降りてしまった。
叩きつけた紙幣がメーターの運賃より20ルピーほど少なかったので
ドライバーが背後で何か言ってたけど無視。だって払う義理ないよ。
その際、ケースに入れず裸で持ってたデジカメをどこかにぶつけたのだろう。
レンズカバーを開けても、レンズが途中までしか出なくなってしまったのだ。
アジャンタもエローラもまだなのに……!
こんな精密機械、インドで直せるもんなのか?
ドライバーとのケンカでは勝ったけど、勝負で負けた気持ち。
かなりの時間呆然としていたが、とにかくダメ元でいってみようと、
目に付くカメラ屋に片っ端から入ってみることに。
しかしここで言葉の壁が。

「故障した」って英語でなんていうんだろう?
(そのときの私には「壊れた」=brokenすら思いつかなかった)

仕方なく、1件目のお店ではレンズカバーを開けて見せ、
「only half.more,more」と、
今思い返しても死にたくなるようなpoorな英語で、
本来レンズがもっと前に出ることを説明。
案の定、この店では修理できない(=cannot repear)旨を宣告され、
ナナチョークにあるセントラルカメラに行くといいと教えられる。
セントラルカメラなんて店、ムンバイじゃ有名かもしれないけど、
一介の旅行者である私にたどり着けるとも思えないので、
その情報はあまり役に立ちそうもない。
だが、私はここで非常に有益なことを学ばせてもらった。

「修理する」ってrepearでいいらしい。よーし!

2件目からは「I'd like to repear this camera」で真っ向勝負。
入る店入る店で口を揃えて「セントラルカメラに行け」と言われる。
なんなの、セントラルカメラって何者? 
次第に彼のことが気になりはじめる。
またおんなじこと言われるんだろうなと思いつつ入った4件目の店は、
しかし前3件の店とは言うことが違っていた。

「向かいにある(=opposite)セントラルカメラに行け」

おー、思わぬところでセントラルカメラ発見!
デジカメを直せるかもしれない!
意気揚揚と信号を渡り、セントラルカメラに入店。
「I'd like to repear this camera」と言いつつ、
おもむろにレンズカバーを開けてみせると……あら不思議。
ウィ~~ンという音と共にレンズが最後まで出てきたのだ!
なななななんのマジックですか!? 
動転し、なんとか故障の状態を再現しようとする私。
だが、何度確認してもレンズは通常どおり作動する。

「……Sorry,already repeared」

苦し紛れのひとことを残し、そそくさと退散。
陽気なインド人たちが「代金、代金~」とナイスジョークで追い討ちをかける。
いやー、店に足を踏み入れただけで直っちゃうなんて、
セントラルカメラ、聞きしに勝るすごい店だった。

という感じで、一度目の故障は数奇な縁でことなきを得た。
デジカメが壊れたと気づいた時の絶望感が相当なものだったので、
この後は乱暴に扱わないようかなり気をつけていた。
にもかかわらず、翌日、私はもう一度デジカメを壊す。
今度は落として――。


旅行3日目、アジャンタ。
遺跡自体の観光はつつがなく終わった。
石窟寺院内部はフラッシュ禁止なので、
暗いところは液晶がしっかりしてる携帯カメラで、
明るいところはデジカメと使い分け、思う存分撮りまくる。
その帰り道、仲良くなったヴィラス&ヴィシャーリのご夫婦が
休憩所でコーヒーをおごってくれた。
お礼に二人の写真を撮って送ってあげようと思い、
リュックからデジカメを取り出そうとした時コーヒーが到着、
はずみでカメラを地面に落としてしまったのだ。
3秒ルールのような気持ちで急いで拾ったけど後の祭り。
無情にも、今度はレンズカバーが外れて閉まらなくなる。
そのレンズカバーを私が力ずくではめる。
それがいけなかった。
レンズカバーが開かなくなりました……。
アウランガーバートにセントラルカメラはない。
修理はほぼ諦め、携帯カメラにすべてを託すことを決意。

だが次の日リキシャドライバーのアリームに事情を話すと、
彼が心当たりのカメラショップに連れて行ってくれた。
1件目で無理と言われ、街中の老舗まで足を伸ばす。
2件目のエンジニアのおっちゃんは難しそうな顔をしていたが、
ちょっといじってみたいからと言われ夕方まで預けることに。
どっちにしても、本日の予定、タウラターバート、エローラ、クルタバート、
ピーピー・カ・マクバラーは携帯カメラでしのぐほかなくなった。

今まで、携帯カメラをこんなに酷使したことはない。
電池タイプの充電器にはそんなに電力がないらしく、
バッテリーを挿しっぱなしにしないとカメラ機能が使えなくなる。
それでも撮りに撮った。優に120枚以上。
いいんだ、多少画質がしょぼくても。
すごかったことは自分が覚えてるし、私はきっとまたここに来るだろうから。

遺跡を堪能しすぎて約束の4時を大幅に過ぎた8時少し前、
先ほどのカメラショップに行ってみると、
おっちゃんが先ほどの沈鬱な表情を崩さないままカメラを取り出した。
あーやっぱ直んないかーと思いつつ見てたら、
レンズカバーがすっと開くではないか。
やったー! おっちゃんももっと喜べよー。
しかし、ただのいい話では終わらなかった。
料金はちょっと目を見張るほどの高額900ルピー。
日本円にすると2000円ちょっとだけど、
インドの物価を考えると1万円以上の感覚になるんじゃなかろうか。
喜びに水がさされたような気持ちになりつつも、
テクニカルチャージだと言われたら払うしかない。
手持ちのインドルピーが尽きてきたので
米ドルを交えて支払いを済ませリキシャに戻る。
アリームに「どうだった?」と聞かれたので顛末を説明する。
そしたら私以上に900ルピーに驚いた彼は、
「信じられない、取り返してくる!」と
憤然とカメラショップに乗り込んでいってしまった。
えーと…………。
しばらくしてアリームが50ルピー札を一枚持って戻ってきた。
やはりテクニカルチャージなのであれが適正価格、
50以上はどうしても取り返せなかったとのこと。
アリームは謝ってくれたけど、私は50ルピーをありがたく受け取った。
彼がそこまでしてくれたことがうれしくて、
たとえボられていたのだとしても許せる気持ちになっていた。


かくして、デジカメは復活した。
だが、実はささやかだけど重大な問題がもうひとつ残っていた。
前日に海外用携帯の充電をしようとして発覚した。
アダプタが合わず、充電ができそうもないのだ。
プラグは香港やタイと同じBFタイプだと「地球の歩き方」にあったので、
いつも使っているものを持ってきたのだが、
コンセントに差し込んでみてもグラグラしてしっかりはまらず、
チャージ中を表すランプも点灯しない。
やはり、無精せずインド国内用プラグを買うべきだったか……。
残るは、多少いいホテルに泊まってアダプタを借りるしかない。
ついにその日の夜、携帯カメラの電源が力尽きた。


旅行5日目、17時間の列車の旅を終え、夕方ようやくムンバイにたどり着く。
電車の中でもヒマを持て余したインド人にデジカメをいじられ、
いつ電池が持たなくなるかとヒヤヒヤだった。
両替を終え会社に定期連絡を入れようとしたら、
海外用携帯が先に充電切れになり使えなくなっていた。
もはや猶予はない。
当てにしてたYWCA(アダプタありそうと踏んだ)は満室で断られ、
ふらふらしてたら客引きのおっさんに安宿に連れて行かれそうになる。
「高くてもいい、いいとこ泊まりたいの!」と訴えて連れて行ってもらった
GULF HOTELは、さすが1泊1200ルピー(3000円弱)、
セキュリティもしっかりしてるし部屋もきれい(だが一文も負からない)。
ここに決め、さっそくレセプションでアダプタを貸してくれと申し出る。
だが、adoptorという単語が通じない。
変圧器を表現したくて迷った挙句、
エレクトリカルエクスチェンジャーというわけの分からない造語を口走り、
エクスチェンジ(両替)はできないよと即答されてしまう……。
こんな時はジェスチャーが有効だ。
「I'd like to battely charge 」(語順メチャメチャ!)と
手持ちのBFタイプのプラグを差し出してみたら、
なんと、このプラグでOKだよ、というではないか。
半信半疑の私の目の前で、レセプションの兄ちゃんがプラグを挿すと、
やはりガタガタしてしっかりははまらない。
しかし、充電中を表すランプは点灯を始めたのだった。
こんなゆるいコンセントってアリなんですか!?
漏電の心配は!?
前々日ランプが点灯しなかったわけも分かった。
インドではコンセントの差込口脇にスイッチがあり、
それをONにしないと電流が通らない仕組みだったのだ。
なんか拍子抜け。
ひとまず先に海外用携帯を充電して会社に連絡を入れ、
夜にはデジカメにもたっぷり電気を与えてやることができたのでした。


こうしてカメラが一つもなくなる危機は回避された。
旅行中撮った240枚強の写真はyahooフォトにアップしてある。

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