【古文解説】小野篁、広才のこと〈宇治拾遺物語〉内容解説|万葉授業
こんにちは、よろづ萩葉です。
YouTubeにて古典の解説をする万葉ちゃんねるを運営している、古典オタクVTuberです。
ここでは、宇治拾遺物語の一節『小野篁、広才のこと』の内容解説を記していきます。
「宇治拾遺物語」とは
鎌倉時代初期に成立した説話集。
(説話集:多くの短編を集めたアンソロジーのこと)
宇治拾遺物語は197話もの説話からなる。
仏教に関する説話や昔話、笑い話が収められていて、
平安から鎌倉時代にかけての人々の生活を知ることができる。
作者不詳。
原文
今は昔、小野篁といふ人おはしけり。嵯峨の帝の御時に、内裏に札を立てたりけるに、「無悪善」と書きたりけり。帝、篁に、「読め。」と仰せられたりければ、「読みは読み候ひなん。されど、恐れにて候へば、え申し候はじ。」と奏しければ、「ただ申せ。」とたびたび仰せられければ、「さがなくてよからんと申して候ふぞ。されば、君を呪ひ参らせて候ふなり。」と申しければ、「これは、おのれ放ちては、誰か書かん。」と仰せられければ、「さればこそ、申し候はじとは申して候ひつれ。」と申すに、帝、「さて、何も書きたらんものは、読みてんや。」と仰せられければ、「何にても読み候ひなん。」と申ければ、片仮名の子文字を十二書かせ給ひて、「読め。」と仰せられければ、「ねこの子のこねこ、ししの子のこじし」と読みたりければ、帝ほほ笑ませ給ひて、事なくてやみにけり。
現代語訳
今となっては昔のことだが、小野篁という人がいらっしゃった。嵯峨天皇の時代に、皇居に札を立てていたのだが、そこに「無悪善」と書かれていた。帝は、篁に、帝は、篁に、「読みなさい。」とおっしゃったので、「読むことには読みましょう。ですが、恐れ多いことでございますので、申し上げることはできません。」と申し上げたところ、「とにかく申せ。」と、たびたびおっしゃったので、「さがなくてよからんと申しております。それで、あなたを呪い申し上げてございます。」と申したところ、「これは、おまえ以外には誰が書くだろうか。(いや、おまえしかいない。)」とおっしゃったので、「だからこそ、申し上げることはできませんと申したのでございます。」と申すと、帝は、「さて、何でも書いてあるものは、確かに読めるのか。」とおっしゃったので、「何でも読みましょう。」と申したところ、片仮名の「ネ(子)」の文字を十二文字お書きになって、「読みなさい」とおっしゃったので、「ねこの子のこねこ、ししの子のこじし。」と読んだところ、天皇はほほえみなさって、何事もなくすんだのであった。
人物
小野篁
平安時代前期に活躍した貴族。漢詩文や和歌、書道に優れていた。
彼の作品は百人一首にも選ばれている。
冥土に通っていたという伝説も。
嵯峨天皇
809年から823年にかけての天皇。
漢詩文に通じていて「凌雲集」や「文華秀麗集」に多くの詩を残している。
能書家でもあり、三筆の一人に数えられる。
(三筆:日本の書道史上の能書家の中でもっとも優れた三人のこと。
嵯峨天皇・空海・橘逸勢(たちばなのはやなり))
※時代ごとに三筆と呼ばれる人物は変わっていくが、
はじめに「三筆」と称されたのはこの3人
敬語について
この2人の身分は、当然ながら天皇の方が上である。
古文を読み解く際に最も重要なのは、登場人物の確認と身分の上下。
古文では主語を省略することが多いので内容を理解するのを難しく感じてしまいがちだが、そんな時に頼りになるのは「尊敬語・謙譲語」。
尊敬語と謙譲語は身分の差がはっきりとわかるので、
主語がなくても誰の行動なのかが自ずとわかってくる。
詳しくはこちら↓
意訳
天皇の住まいにて。
「無悪善」と書かれた札を見て、
嵯峨天皇「これを読め」
篁「読むことはできるが、恐れ多いので読めない」
天皇「いいから読め」
篁「『さがなくてよからん』ーーあなたのことを呪っています」
天皇「これを読めるということは、書いたのはお前だろう」
そう責められた篁は、
篁「そう言われると思ったから読みたくなかった」
天皇「それならお前は、書いてあるものは何でも読めるのか」
篁「何でも読みますよ」
そこで嵯峨天皇は、
「子子子子子子子子子子子子」
これを書き、篁に見せて「読め」と言う。
こんなものを見せられたら普通は困ってしまうが、篁は、
「ねこの子のこねこ、ししの子のこじし」
と読み上げて天皇を笑わせた。
そのおかげで何事もなく終わった、とのこと。
コメント
この話は、篁の頭の良さを表した話ですね。
篁の頭が良いことを、嵯峨天皇も認めている。ということが、この説話から伝わってくきます。
動画
助動詞・敬語の解説はこちら
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