「皇帝と皇后」のこと~雪組『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』

「蛹が蝶になるように 醜いアヒルも白鳥になれる いつか皇帝に いつか皇后に なってみせる」
少年期のヌードルスとデボラが夢を歌う、「皇帝と皇后」の1節である。

この1節からは、「蛹(のように醜いものが)蝶に」または「醜いアヒルが白鳥に」なれるように、「ロウアー・イースト・サイド(LES)出身でも上に行くことができる」というような希望を感じる。「鳶が鷹を産む」的な希望を。

しかしながら、蛹は蝶が産んだ幼虫が成長した姿であり、「醜いアヒルの子」は本当は白鳥であるのに、生育環境の影響でアヒルと自認していただけである。蛹が蝶になるのも、醜いアヒルが白鳥になるのも、全く別種の存在に変態している訳ではないのだ。これが意味するのは、「鳶が鷹を産む」ではなく「蛙の子は蛙」である。

ヌードルスとデボラは人間である。皇帝と皇后も人間である。
「幼少期から悪事を働いてきた」ヌードルスは、裏社会で名をはせる。
「幼少期から芸事に親しんできた」デボラは、一度はショービジネスのトップに立つ。
「LESの中でも暗い方の世界を生きてきた」ヌードルスにとっての陽は、片田舎の太陽と工場の灯りだった。
「LESの中では明るい方の世界を生きてきた」デボラにとっての陽、は都会の太陽とスポットライトだった。
「陽の当たらないLESで生きてきた」ヌードルスとデボラは、眩しい程陽の当たる世界を生きる皇帝と皇后にはなれなかった。

「皇帝と皇后」は希望を歌った曲であろう。歌う2人の表情や声色、曲調を踏まえてもそう思う。
しかし結末を知った今、この曲はとても苦しい曲に思えてくるのだ。

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