センターバックの自陣パス本数から見る2023年J1リーグの流れ

 2020年・2021年は、Jリーグにおいてエポックメイキングが起きた2年間だった。それは、川﨑フロンターレが4-3-3システムの超攻撃的なパスサッカーを披露し、Jリーグを圧倒的な強さで蹂躙していた2年間だ。
 現在では代名詞となった”止める・蹴る”を基盤としてショートパスを多用しながら相手守備を切り崩す流麗なスタイルに日本のサッカ―ファンは魅了された。

 スペイン代表、FCバルセロナ、マンチェスターシティなど海外ではこういったスタイルで大きく結果を残したチームはあったものの、近代の日本のJリーグでは川崎フロンターレが本当の意味での最初の成功例と言える。

 この出来事を皮切りに、ここから一気にボールを握るポゼッションフットボールの時代が到来するかと思われたが、2023年のJリーグは少し様子が違う。

 世界のフットボールのトレンドが変わりつつある事も要因の1つだが、今のJリーグで勝ち点を積み上げているチームのほとんどが、ハイプレスとショートカウンターがメインの後方では”繋がない”フットボールになっている。

 ということで今回は各チームのセンターバックの「自陣パス本数」に焦点を当て、現在の順位とスタイルの因果関係について考察したい。
 各チーム出場時間の長いセンターバックの中から、4バックメインのチームは2センターバックを選出。3バックメインのチームに関しては中央の選手は構造上タッチ数が多くなるので、左右のストッパーをピックアップしてカウントする。
 データは全て「J-STATs」参照。


ヴィッセル神戸【1位】

・本多勇喜
1試合平均自陣パス数 29.1
・山川哲史
1試合平均自陣パス数 30.2

横浜F・マリノス【2位】

・畠中槙之輔
1試合平均自陣パス数 56.8(リーグ8位)
・角田涼太朗

1試合平均自陣パス数 50.4

名古屋グランパス【3位】

・野上結貴
1試合平均自陣パス数 22.0
・藤井陽也
1試合平均自陣パス数 32.8

サンフレッチェ広島【4位】

・塩谷司
1試合平均自陣パス数 30.6
・佐々木翔
1試合平均自陣パス数 33.5

鹿島アントラーズ【5位】

・植田直通
1試合平均自陣パス数 29.9
・関川郁万
1試合平均自陣パス数 26.1


 ここまでがリーグ戦の上位5チーム。やはり横浜Fマリノスを除き、センターバックの自陣でのパス数が少なく30前後のタッチ数となっている。アタッカー陣の局面打開力が高い事もあり、前線へ縦にパスを入れとにかく速く攻め込むといったシンプルなスタイルが数字にも表れているのだろう。
 横浜Fマリノスは昨年から、後方でポゼッションをしながら相手を押し込むハイプレス戦術が完成に近付いている。危険なボールロストを起こさずにこの戦術を継続出来ているのは立ち位置や距離感が十分に整理されているからだろう。昨年のMVP・岩田智輝が移籍しても尚、高いレベルのフットボールを見せているのは見事としか言いようがない。

 
 続いては、一部のクラブを除いた中位クラブを見ていきたい。

アビスパ福岡【7位】

・奈良竜樹
1試合平均自陣パス数 30.3
・ドウグラス グローリ
1試合平均自陣パス数 23.5

セレッソ大阪【9位】

・マテイ ヨニッチ
1試合平均自陣パス数 43.8
・鳥海晃司
1試合平均自陣パス数 39.9

北海道コンサドーレ札幌【10位】

・田中駿汰
1試合平均自陣パス数 27.7
・福森晃斗
1試合平均自陣パス数 30.5

FC東京【11位】

・木本恭生
1試合平均自陣パス数 47.2
・エンリケ トレヴィザン
1試合平均自陣パス数 42.5

京都サンガFC【12位】

・麻田将吾
1試合平均自陣パス数 23.8
・井上黎生人
1試合平均自陣パス数 30.6

湘南ベルマーレ【14位】

・杉岡大暉
1試合平均自陣パス数 37.5
・舘幸希
1試合平均自陣パス数 21.2


 このグループは独自路線のスタイルが数字に表れている。パス本数の少ない4クラブの内、福岡はロングカウンター主体。札幌はミシャ式のパスサッカーで繋ぐイメージが強いが、両ストッパーから相手最終ラインのギャップを突くロングボールも多用。
 京都は上位クラブのように、縦に速いフットボールを体現しているが前線の破壊力で上位との差が付いている印象。湘南は基本ベースはショートカウンターで、杉岡のパス本数が多いのは彼の正確なキックが戦術に組み込まれている為だろう。
 セレッソ大阪は昨年前線からのディフェンスを武器に上位進出を果たしたが、今季は香川真司の加入もあり4-3-3のボールを握るスタイルを建設中。FC東京もアルベル監督体制2年目で、昨年からスペイン式のポジショナルプレーを目指している。この2チームに関してはトライアンドエラーの最中といったところだろうか。

 ここからは下位4チームを見ていこう。

サガン鳥栖【15位】

・山﨑浩介
1試合平均自陣パス数 63.1(リーグ1位)
・田代雅也
1試合平均自陣パス数 38.5

柏レイソル【16位】

・立田悠悟
1試合平均自陣パス数 39.6
・古賀太陽
1試合平均自陣パス数 46.1

ガンバ大阪【17位】

・三浦弦太
1試合平均自陣パス数 62.5(リーグ3位)
クォン ギョンウォン
1試合平均自陣パス数 60.4(リーグ5位)

横浜FC【18位】

・ンドカ ボニフェイス
1試合平均自陣パス数 40.7
・吉野恭平
1試合平均自陣パス数 38.1


 このように下位4チームには、センターバックのパス本数が40本前後かそれ以上の数字が並んだ。
 先制点を奪われ相手チームにベタ引きされる展開が多い事も要因の1つだが、この4チームに共通するのは新システムでのポゼッションが機能していない事だ。ポゼッションを標榜しているからこそ後方のボールロストで失点し、相手に引かれた時間帯は連動性に欠け最終ラインでのパスが増加する、いわゆる”回させられている”状態になりやすいのが現状。

 
 そして最後は、後方からのビルドアップの形が成熟しつつある3クラブに触れる。

川﨑フロンターレ【6位】

・高井幸大
1試合平均自陣パス数 46.8
・大南拓磨

1試合平均自陣パス数 40.6

浦和レッズ【8位】

・マリウス ホイブラーテン
1試合平均自陣パス数 63.0(リーグ2位)
・アレクサンダー ショルツ
1試合平均自陣パス数 60.2(リーグ6位)

アルビレックス新潟【13位】

舞行龍ジェームズ
1試合平均自陣パス数 62.5(リーグ3位)
・トーマス デン

1試合平均自陣パス数 50.5(リーグ10位)


 Jリーグのパスサッカーの名士・川崎フロンターレは今季、谷口彰悟の移籍に加えジェジエウ、車屋の負傷でセンターバック事情に困窮。その影響もあり昨年までに比べて圧倒的なポゼッション力は低下している。黄金期を築いた川崎も変化を求められるフェーズに立場を置いているかもしれない。
 浦和レッズは前任のスペイン人監督リカルド・ロドリゲス氏の作った繋ぐフットボールをベースに、新監督の要求する運動量の多いアグレッシブなフットボールが形になりつつある。デンマーク人の両センターバックの能力に担保された最終ラインの落ち着きはリーグNo1。
 新潟はJ1で最も繋ぐ意識の高いチーム。ゴールキーパーを含めた最終ラインからのビルドアップという、J2を制覇したスタイルを継続し上位カテゴリーで存在感を放っているのは素晴らしい。J1で最も”面白い”フットボールをしていると表現して差し支えないチームだろう。


 私がピックアップしたセンターバックのパス数を合計すると、こういった順位になる。

1位 浦和レッズ 123.2本
2位 ガンバ大阪 122.9本
3位 アルビレックス新潟 113本
4位 横浜Fマリノス 107.2本
5位 サガン鳥栖 101.6本
6位 FC東京 89.7本
7位 川崎フロンターレ 87.4本
8位 柏レイソル 85.7本
9位 セレッソ大阪 83.7本
10位 横浜FC 78.8本
11位 サンフレッチェ広島 64.1本
12位 ヴィッセル神戸 59.3本
13位 湘南ベルマーレ 58.7本
14位 北海道コンサドーレ札幌 58.2本
15位 鹿島アントラーズ 56.0本
16位 名古屋グランパス 54.8本
17位 京都サンガFC 54.4本
18位 アビスパ福岡 53.8本

 
 もちろんこの順位が本来のリーグの順位に当てはまる訳では無いが、リーグ上位5チームの内4チームがこのランキングで10番目以下にいるというのは、縦に速い攻撃が隆盛を極めている証明にはなるだろう。

 しかし、繋ぐ意識の強いチームがいるからこそリーグは面白くなる。例えば最後に挙げた3クラブが上位に食い込んだとしよう。リーグ終盤のハイプレスとポゼッションの直接対決は想像するだけでワクワクする。
 スタイルウォーズが最も映えるスポーツはフットボールだ。

 神戸、名古屋がこのままの勢いで新たな歴史を作るのか、横浜FM、川崎の両横綱がポゼッションフットボールで貫録を見せるのか。
 センターバックのスタンスにも注目してJリーグを楽しもう。

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