トリコロールの血【横浜F・マリノス】

横浜Fマリノスが最速で40を超える勝ち点を積み上げ、堂々とリーグ1位の座に就いている。

21試合で46得点の横浜FMを象徴する攻撃力と、Jリーグ随一の選手層の厚さを武器に連戦の中でも勝利を積み重ねており、リーグ制覇、ACL制覇に、今最も近いチームと言えるだろう。

今回は、30周年の節目の今年、魅力的で圧倒的な攻撃を展開するオフェンス陣の中で、ひと際目立った活躍を見せるベテラン選手について書きたいと思う。


☆象徴

横浜Fマリノスがリーグ屈指の攻撃的スタイルを武器に首位に立っている。

44得点という数字以上に、センターフォワードからサイドバックまでが参加する鮮やかなフィニッシュワークは多くのJリーグファンを魅了しており、チームの完成度は今のところ他の追随を許していない。

主なスコアラーは9得点のレオ・セアラ、8得点の西村拓真、7得点のアンデルソン・ロペス。様々な選手が多くの得点を奪えているのが、横浜FMの流動的なオフェンスを表している。

そんな中。32歳というベテランながら、キャリアハイともいえるパフォーマンスを見せている選手がいる。

水沼宏太だ。

日本トップクラスの高精度クロスでアウトサイドからアシストを量産し、エリア内に侵入しても低弾道高速クロスでのチャンスメイク、周りとの連携からの得点と、右アタッキングサードで躍動している。


ここで、水沼宏太のプロフィールを大まかに紹介しよう。

Jリーグ創設前からサッカー日本代表を支え牽引してきた水沼貴史氏を父に持ち、中学からは父がプロキャリアの全てを捧げた横浜マリノス(旧・日産自動車)のジュニアユースに入団。そのままユースに昇格し、2007年にトップチームデビュー。

偉大な父と同様、トリコロールのユニフォームを纏いクラブの象徴になる事を期待されたが、トップチームの壁は厚かった。多くの出場機会は得られず、栃木SCへの期限付き移籍を経て、2012年にサガン鳥栖へ。鳥栖でサイドプレイヤーとしてのスタイルが確立され、チームの主軸として活躍した。

その後FC東京を経由し、2017年セレッソ大阪に入団。年齢的にも円熟味を増す中、武器であるクロス・運動量・メンタリティと心技体全てが揃った水沼宏太はチームに欠かせない存在になり、リーグカップ・天皇杯の2冠に大いに貢献した。

そして、2020年。10年ぶりに満を持して大きな戦力として横浜Fマリノスに帰ってきた。

しかし、2020年の横浜FMは前年のチャンピオンチーム。2019年JリーグMVP・仲川輝人、遠藤渓太(ウニオン・ベルリン/ドイツ)、前田大然(セルティック/スコットランド)、エリキ(長春亜泰/中国)ら、ウイングの層が厚く、スタメン出場は13試合に留まった。

更に2021年は、前田大然とエウベルが完全にウイングのポジションを勝ち取り、水沼のスタメン出場は1試合のみ。

2020年・2021年共に、スーパーサブとして投入され多くのアシストでチームの勝利に貢献はしたが、決して絶対的と言える存在にはなっていなかった。


そして迎えた、2022年。クラブ創立30周年というメモリアルシーズン。

セレッソ大阪との開幕戦はスタメンに名を連ねたが、4月までは前年同様スタートのポジションをなかなか得られなかった。
しかし5月から、右ウイングのスタメンに定着。ピッチ大外からのクロスはもちろん、サイドバックとの連携からハーフスペースの最深部まで侵入してのラストパス、自身も積極的に得点を狙う姿勢が相手の最終ラインを苦しめている。
今の横浜FMで最もフィニッシュワークに違いを出せる選手であり、彼にボールが入ると得点の匂いが強烈に香る。

その証拠に、ここまで18試合出場12試合スタメンで、4得点6アシストと堂々たる数字を残している。

オンザボールだけではなく、序盤からスプリントを行い攻守に体を張るプレーもチームに情熱とアドバンテージを与える。6月からは負傷した主将・喜田拓也に代わってキャプテンマークを巻いており、ゲームキャプテンとしてもチームを引っ張った。
5月末からのリーグ6連勝の中心にいたのは間違いなく水沼宏太だ。


10年の時を経て、水沼が遂に横浜F・マリノスの象徴となった2022シーズン。

ユニフォームの表記を従来のファーストネーム「KOTA」から「MIZUNUMA」に変更した。93年の開幕戦、横浜マリノス×ヴェルディ川崎に出場した父と同じ表記だ。

Jリーグ開幕から30年間流れるトリコロールの血が、クラブ5度目のチャンピオン奪取に向けて騒いでいる。

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